2012/12/31

書評: 最強母乳外来

男である自分には母乳外来なんて縁がないと思っていたのだが、今年、仕事の環境が変わり、少し学ぶ機会があった。この本、どうも巷で話題になっている・・・とのことで読んでみたのだが、確かに「あらゆる悩みにお答えします!」の副題に負けない内容になっている。

目次よりも前の巻頭に、WHO/ユニセフが提唱する「母乳育児を成功させるための10ヵ条」があることが特徴的だが、実際の授乳中のトラブル関連の話にとどまらず、妊娠中の取り組みや、病院選びの観点、粉ミルクとのつきあいかたまで、肩肘張らずに読むことができる。助産師としての豊富な経験に基づく話は参考になるのではないだろうか。これまであまり授乳について、能動的に考えることがなかったので、世の中の母親たちがどこまで参考にできるのかは未知数だが、本日時点でのアマゾンの下の評価を見ると、かなり良い本なのではないだろうか。


授乳に限らず育児については、本で読むことはもちろん、身近に頼れる助産師さんや知人、友人がいると心強い。こういった本が良い評価を受ける背景には、日本における核家族化の進展などが影響していることもあるだろう。一人で悩まず、こういった本を読むことで、少しでも育児のストレスを軽減できると理想的だ。

著者である助産師のSOLANINさん、元々はブログで書いていたものが人気となり、書籍化となったとのこと。ブログはトラブルがあった模様で過去の分まですべて読めるか分からないが、現在はここを見ればよいと思われる。

いやはや、自分の知らない世界を知ることは何事も面白い。来年も、新しい物事・人にたくさん触れる機会を作っていきたい。



最強母乳外来 あらゆる悩みにお答えします!
最強母乳外来 あらゆる悩みにお答えします!
SOLANIN(ソラニン)

最強母乳外来  ママをたすける実践編! 初めてママの母乳育児安心BOOK 産婦人科を退院してからの母乳増量マニュアル 最新版 はじめての育児―生まれてから3才までの育児はこの1冊におまかせ! (暮らしの実用シリーズ) 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド

2012/12/27

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.4

Part.4 よりよい医療を期待して、患者、病院にできること

これまで包括払い制度と、DPC病院群が今後の急性期医療に与える影響を考え、患者視点が足りないことや、地域の中核病院が人材確保などに苦しむ可能性があることを述べてきた。最後、Part.4では、よりよい医療を創るために、DPC病院群というひとつの切り口から、患者、病院にできることを考えていきたい。

実績要件への患者意向の反映
Part.2で見てきた4つの実績要件は、患者視点ではなく、大学病院を評価するために、大学病院に準じた病院を選ぶ視点で定義されていた。そこで、どのようにしたら、患者視点であり、患者の意向を反映させることができるか考えてみたい。

患者・一般市民によい病院とはどのような病院ですかと聞くと、「病気が治る」、「無事退院(転院、施設に入居)できる」、「病気・症状の悪化が止まった、ゆっくりになった」などの期待値の高い、抽象的な答えが返ってくる。実のところ、病気が治るか、治らないかは、病院に来るまでにある程度決まってしまっている。例えば、がんであれば、初診時の進行度合で、治療成績は大きく変わるため、単純な比較は難しい。よい取り組み事例として、以前ブログでも紹介した全がん協が公表したがん5年生存率は、患者背景をある程度考慮した比較になっており、A病院とB病院を比べられる可能性が高い事例である。
このような指標を実績要件に入れることが難しいことは重々承知しているが、患者の意向として、こういう取り組みを理解し、支えることが重要なのではないだろうか。患者の具体的なアクションとしては、まず、こういった指標を積極的に公開している病院は「良い病院」であることを認識するだけでも良い。さらにそれらの指標を比較し、自分にとって良い病院が何か判断できるような理解力をつけることができればベターだ。少なくとも、世の中にあふれているランキング本を鵜呑みにして、ランキング上位の病院に行っているうちは、患者が実績要件を変えることはできない気がする。

指標を公開している事例として、Part.3でも紹介した済生会熊本病院は主な指標はもちろん、治療成績まで開示している(参考:済生会熊本病院 外科 診療実績)。また、聖路加国際病院も、Quality Indicator(医療の質)を2007年から継続して開示。書籍も出版し、他病院の参考となっている(参考: 聖路加国際病院 Quality Indicator)。他では、聖隷浜松病院(参考:聖隷浜松病院 クリニカルインディケーター)、荻窪病院(参考:荻窪病院 Quality Indicator)など、積極的な病院においては、非常に充実した開示を行なっている。

2012/12/26

fitbit aria(wifi 体重計)を3ヶ月使ってみて

以前、fitbit ariaを使って1ヶ月目に「楽チン」と書いたが、その後、さらに2ヶ月使ってみて、印象はまったく変わっていない。相変わらず、乗るだけで、勝手に記録されている。

体重推移(10/1 ~12/25)

ただ、残念なことがひとつある。体重が減っていない!!
先週、トレーニング直後に測った瞬間最大風速的な体重が、久々の60キロ台が誤差の範囲というところまで迫ってきて、喜んだのもつかの間、忘年会シーズンで、元通りどころか、増加してしまいそうな予感までしてきた。

もちろん、体重計は悪くない。悪いのは自分だ。

上:歩数推移 / 下:昇った階数推移 (10/1 ~12/25)

ひとつだけ良い兆しが見えてきている。体重計と一緒に買ったfitbit ultraは、順調に記録をしてくれていて、歩数や距離は、あまり変わっていないのだけど、昇った階数は、増加しているように見える。(極端に多い週があるのは、週末に出かけたりした影響)

体重こそ減らないものの、何かしら動こうという意識は、活動量計に結果として残っているようだ。

忘年会シーズンのラストスパート。飲み過ぎ、食べ過ぎに注意したい。

2012/12/25

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.3

Part.3 DPC病院群 2群、3群が明暗を分ける現実的なシナリオ

増減収インパクト、費用負担インパクト

Part.1、Part.2で、DPC/PDPS制度(包括払い制度)の概要と、DPC病院群とⅡ群、Ⅲ群の要件を見てきた。医療費を抑えつつ、病院にとって金銭的インセンティブを与え、その費用負担は患者にさせる制度であるため、いかに納得感のある仕組みにするが重要である。ただ、ここまで見てきた結果、決して納得感のある制度とは言いづらいのが実情であった。

ここでは、Ⅱ群(メジャーリーグ)、Ⅲ群(マイナーリーグ)の違いによる金銭的なインパクトを比較してみる。まず、平成30年度時点でのⅢ群とⅡ群の係数差異シミュレーション(下図)がある。
Ⅲ群からⅡ群に移行した場合の係数増減シミュレーション
(出所: 厚生労働省 H24.8.21 中医協DPC分科会 資料)
このシミュレーションによると、多くの施設はⅡ群に移行すると0.02~0.03程度増加することが想定され、最大では0.06以上の増加になることが想定されている。

2012/12/24

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.2

Part.2 患者視点が置き去りになった病院群の設定

■90病院がメジャーリーグ入り

そんなニュースが医療界を駆け巡ったのは、2012年度末のことだ。一般市民からしたら、DPC制度すら馴染みがないのに、病院がⅠ群(大学病院)、Ⅱ群(大学病院本院に準じた診療密度と一定の機能を有する病院)、Ⅲ群(それ以外の病院)に分かれたと言われても、さっぱりピンと来ないだろう。

DPC病院群の内訳(出所: 厚生労働省 H24.4.25 中医協資料)

あるDPC病院Ⅱ群に指定された医療機関のホームページ

Ⅰ群は大学病院本院だけで、実質、雲の上、別世界であるがゆえに、大学病院本院を除いたDPC病院1,400病院強のうち、90病院が入れたⅡ群が「メジャーリーグ」、Ⅲ群が「マイナーリーグ」とでも言えばよいだろうか。今、この約1,400病院では、Ⅱ群「メジャーリーグ」を目指した(すでにⅡ群のところは維持する)熱い闘いが始まっているとも言われている。(余談だか、1、2、3という名称は、誰もが、Ⅰ群が良く、Ⅲ群が悪いと受け取る。各群は良し悪しではなく提供機能が違うことを明確にしたかったはずなのに、名称が仇となっている気がしてならない。昨年度の議論途中まで残っていた名称である、大学病院群、高密度診療病院群、急性期病院群、といった感じで、甲乙つけがたい名前にしておけば、こぞってⅡ群を目指したりすることはさほど起きなかったのではないだろうか。)

闘うには訳がある。Part.1で述べた係数(サービス税率)、Ⅱ群になった施設は、Ⅲ群に比べ少しだけ加点がなされていて(基礎係数に差異があり)、ゆくゆくは、この加点が大きくなる予定なのだ。各病院が、この加点だけを理由にⅡ群を目指しているわけではないが、加点はⅡ群を目指す大きな理由のひとつだと思う。

この熾烈な闘い、各病院はどのようにしてⅡ群(メジャーリーグ)を目指しているのだろうか。
まずは、その背景となる、2群、3群の明暗を分けた基準を見ていく。

2012/12/21

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.1

Part.1 包括払い制度は誰にとってメリットがあるのか

■値段は”ほぼ”一緒

国民皆保険制度の日本において、自由診療でなく、保険診療を受ける以上は値段がほぼ一緒である(厳密には異なる点は後述)。どうせ値段が一緒なら、立派な病院に行きたいのが正直なところだし、生死を賭ける大病ならば、腕利きの医者に診てもらいたい、治してもらいたいと思うのは誰しも自然なことだと思う。
ただ、どこの病院がよいか、客観的に分かるものがないゆえ、患者はクリニックで紹介された病院に行ったり、週刊誌や新聞、本などで特集される病院ランキングを参考にしたり、テレビ番組の名医・スーパードクターの紹介に心動かされたりする。患者が限られた情報で思い描く理想の病院が身近なところにあればよいが、無かった場合には、病院探しの旅に出ることとなる。病気という苦しみを抱えた上に、病院探しという負担を強いるのは、精神的にも肉体的にも厳しいことだ。しかも、この旅、結果が良ければまだよいものの、結果が約束されているわけではないため、病院探しの旅に尽力したものの思うような結果に至らないこともままあるのが現実だ。

■入院費用は徐々に包括払いの病院が増えている

あまり馴染みのない話かもしれないが、現在、日本では急性期病院の一部(病床数に占める割合では53.1%)が、DPC/PDPSという包括払い制度となっている。



DPC病院数と一般病床に占めるDPC病床割合
(出所: 厚生労働省 H24.3.28 中医協資料を元に作成)

この包括払い制度は、虫垂炎であれば、1~3日目35,250円(1日あたり)、4~5日目23,760円(1日あたり)といったように、その病院で実施する細かな治療内容とは関係なく、入院料が定められている。DPC/PDPS制度でない出来高払い制度は、ベッド代、点滴代、検査代といったように実施した治療それぞれで点数(料金)が計算され、請求される制度である。包括払いでは、あらかじめ点数が決められているため、なるべく無駄な治療はしないように努力し、退院させようとする。一方で出来高払いは料金を上げるためには多少過剰な治療をしがちである(やりすぎるとチェック機関からダメ出しを食らったり、一部治療の請求自体が無効になったりするが)。

DPC制度概要(出所: 厚生労働省 H22.10.26中医協資料 DPC制度の概要と基本的な考え方)
この包括払い制度自体は、どの病院も同じで、前述の虫垂炎であれば、どの病院も、1日目35,250円は共通である。しかし、各病院の持っている機能や人員体制により、「係数」が定められていて、この1日35,250円に、おおよそ1.05~1.5くらいの係数がかかる。すなわち、サービス税が税率5%の病院と税率50%の病院があるのだ。
サービス税の税率は、簡単に言うと、看護師の配置や、地域の診療所・クリニック・病院との連携体制等の様々な病院の「枠組み」を評価したものと、病院がどういった疾患を扱っているか、効率的な入退院をさせているか等の病院の「機能」を評価したものにより定まる。

※サービス税と喩えることが不適切と疑問を呈される方もいるだろうが、医療従事者の苦労が適切に報酬に反映されるためには「サービス税」と表現することが良いと考えている

2012/12/18

自民圧勝で医療はどう変わるか

自民が圧勝した。
自民党の政権公約を改めて見ていると、消費税増税をベースにした公費負担で、年金、医療、介護を確立するというのが基本だ。

医療の内容は、処遇改善、適正配置。これは絶対に必要なことだから、国民負担を伴ったとしても構わない。具体的なアクションについて注視していくべきだ。また、健康管理への自主的な取り組みの促進は、1.Personal Health Recordなど仕組みづくり、2.健康管理に対する教育・意識向上、3.運動やセルフメディケーションなど医療保険・介護保険の枠外での自主的な取り組みに対する支援、これら3つが噛み合う必要があると考えている。

自民党 政権公約
社会保障
  • 公的年金制度、医療保険制度、介護保険制度については、「社会保険制度」を基本とするとともに、社会保障給付に要する公費負担の財源は消費税収を中心とする中で、保険料負担を含め国民負担の増大を極力抑制しつつ、国民のニーズに対応した社会保障の確立を目指します。
  • これらの考え方により、自民党主導のもとで取りまとめられた社会保障制度改革推進法に基づき、消費税引上げの実施を判断する来年秋を目途に、高齢化の進展の中で持続可能な社会保障制度を確立するために必要な法案を国会に提出します。
  • 人生100年時代を見据え、高齢者の雇用機会や活躍の場をつくり、生涯現役社会を実現します。
医療
  • 国民皆保険を守ることを基本に、処遇改善などを通じて、医師等の人材や高度医療機器等の医療資源を確保するとともに、その適正配置を図り、地域で必要な医療を確保します。
  • 国民負担の増大を極力抑制する中で、予防医療総合プログラムの策定など、健康管理への自主的取り組みの促進、医療保険制度における財政基盤の安定化、保険料負担の公平の確保、保険給付の対象となる療養の範囲の適正化等により、真に必要な医療の提供を進めます。
  • 患者の利益に適う最先端の医薬品、医療機器及び再生医療等の研究・開発と迅速な導入を進めます。
  • 患者意志(リビングウィル)の尊重と看取りの充実を図ります。
介護
  • 介護サービスへのニーズが急激に増大する中で、現行の介護制度は財政的に危機的な状況にあります。従事者の処遇改善や研修等の支援による介護サービスの質の向上や効率化・重点化に加え、所要の財源確保を前提とした公費負担の引上げ等により、保険料負担の増大を抑制しつつ、真に必要な介護サービスを確保します。




    余談だが、医薬品、医療機器の研究、開発を進める、という項目もあるが、昨日昼時点での日経平均と業種別騰落率で比較すると、医薬品セクター、株価はあまり反応していなかった。自民党に政権が変わったくらいでは、医薬品会社の業績は大差ないということか。一方、電力、鉄鋼、金融が大幅に騰がっていた。電力は言わずもがなか・・・。

    2012/12/17 12:47時点 日経平均騰落率と業種別騰落率

    (2012/12/19追記)
    昨日、医薬品セクター、株価があまり反応しなかったか、と書いたが、自民党の公約には、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の恒久化がうたわれていたので、もう少し騰がることを期待していた。織り込み済みだったということか・・・

    2012/12/14

    今週末は選挙戦一色??

    西日本の駅で見た光景。

    えびかに合戦!?

     
    さるかに合戦ではなく、エビとカニが合戦を始めたとは物騒な。世間は選挙戦で一色かと思ったが、こちらは美味しそうな戦いだ。甲殻類好きにはたまらない。

    改札を抜けようとしたら、今度は、かにカニエクスプレスの文字が。

     

    かにカニエクスプレスとは、語感が良い。しかも、この企画、JR西日本の冬の恒例人気企画らしい。

    今回、選挙戦では、自民、民主に加え、第三極の維新、未来、そして、公明、社民、共産といった既存政党間の熱い戦いになりそうだが、カニの戦いも、なかなか激しい模様。パンフレットによると、行き先は、北陸版、城崎温泉・天橋立版、山陰版と3種類用意されている。北陸であれば、越前海岸、東尋坊、山代・山中温泉、敦賀といったコースが選択できる。日本海側のカニ産地・温泉地の激戦だ。各政党(産地・施設)の政策(料理)も趣向を凝らしている。茹でがに、焼きがに、かに刺し、かにしゃぶ、かにすき、かに茶碗蒸し、かに雑炊、かにご飯、かに味噌汁、などなど。ただ、本当の選挙戦同様、政党間の政策の違いが見えにくい。写真ではどれも美味しそうだ。

    あー、おいしいカニが食べたくなってきた。

    突然だが、そんなカニから、健康食品がたくさん作られていることはご存知だろうか。

    2012/12/10

    シンナー乱用なんて、何年ぶりに聞いただろうか

    突然だが、小学校の教科書を買った。


    気になることがあったので、教科書がどうしても欲しくなったのだが、本屋で売っているのを見かけたことはないし、義務教育の教科書なんて、そもそも人生で一度も買ったことないし・・・と思ったら、今の世の中、便利だ。ネットで買えた。

    株式会社 山形県教科書供給所 教科書販売サイト

    小学5・6年生の教科書の一部

    うず巻きでは、シンナーの怖さが伝わらない気もするが、おそらく教える先生も大変に違いない。シンナーなんていまどき??と思うかもしれないが、ゲートウェイ・ドラッグとして、有機溶剤は今でも重要なポジションを占めているらしい(飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査(2010年)

    酒・タバコ→有機溶剤→大麻・覚せい剤、という流れが確実にあるとのこと。脱法ハーブがニュースになることも多い現在では、もっと手が届きそうなところに、ゲートウェイがありそうな気もする。実態にあわせた指導をしないと効果が薄れてしまう。んー、やっぱり先生は大変だ。

    2012/12/07

    DPC評価分科会 何のための指標か、誰のための指標か

    今日は中医協 DPC評価分科会を傍聴してきた。



    議題には、DPC導入の影響評価に関する調査結果について、DPCコーディングマニュアル、病院指標の作成と公開、とあり、個人的には最後の指標の話を楽しみにしていた。

    ■コーディングマニュアル(ドラフト版はこちらに
    処置や手術の選択は恣意的に行うことができないため、コーディングにおける自由度、解釈の違いが生じるのは、病名付け、DPCコーディングのためのICD10コーディングのことを指している。マニュアルが整備されるということは、今後、DPCコーディング内容の返戻や査定が活発化する可能性も考えられる。意図的なアップコーディングが問題なことはもちろん、無知ゆえのミスコーディングも、患者に余計な負担を強いているという意味では、やはり問題である。適正なコーディングは、DPC制度の根幹にある重要なことだと思う。

    なお、ドラフト版に記載されていた内容を見ると(以下、斜体は引用。うち下線はこちらが追加)

    (2)医療資源病名と、実施した手術や処置との間に「乖離」がある場合は、その理由を診療録へ記載するとともに、レセプトのコメント欄または症状詳記への記載が望ましい

    事情のある症例は、査定されないよう理由を書け、書いていないなら・・・(削る気満々?)

    (3)医療資源病名は、病態を最も適切に表すものにすべきである。
    ※注意:原因疾患がはっきりしている場合は、呼吸不全、循環器不全等の不全病名を選択すべきではない。また、疾患の部分的現象であるアルブミン減少症、貧血、血小板減少症、好中球減少症、カテーテル先感染症等を意図的に選択してはならない。
    例:肺炎を「呼吸不全」、心筋梗塞や心筋症を「心不全」、消耗性疾患でアルブミンを投与した場合の「アルブミン減少症」、原因の明確な出血で輸血をしている場合の「貧血」、癌の化学療法中に血小板を輸血した場合の「血小板減少症」、GCSF 等を皮下注した場合の「好中球減少症」等がこれに該当する。

    化学療法や放射線治療時では、G-CSFの投与の仕方にもよると思う。予防的な、保守的な投与の場合は、安易に好中球減少症を選択するのは不適切なこともあるはずだ。ただ、患者の状態が非常に悪くなってしまった等、G-CSF投与が不可欠な場合に、医療資源病名に好中球減少症を選択することは間違っていないと思う。このようなことこそ、現場では判断に困っているわけで、これをマニュアル的に記載してもらえると、医療者視点での不公平感が薄れるだけでなく、患者視点としても、「DPC制度ゆえに医療資源の投入が抑制されてしまった」などという最悪の事態を回避できるように思う。

    今回のマニュアル、Ver.0.75ということで最終版ではなく、ドラフトではあるものの、全般的に、一番困る「こういうときはどうしたら良いの?」という、みんな共通の『悩みどころ』は書いてあるのだけど、『答え』の要素のところは、「○○を選択するにたる相応の理由が必要」等の記載になっている。答えは教えてくれない。症例は千差万別で、多かれ少なかれ差異があることを考えると、こういうマニュアルになることは致し方ないのかもしれないが、これでは益々「この場合は、症状詳記に○○と書け!」といった指南書が出回るに違いない。

    ■病院指標
    事務局から、今回は機能評価係数2への追加の要否は判断しないと前置きがあった上で、病院が指標を作成し公開することの意義と内容の議論であった。各病院が分析できるような人材・体制を整備することが重要であり、係数設定により、その流れを加速させたいようだ。重要性はそのとおりだと思うが、係数=患者負担、であることを考えると、患者視点での内容評価が不可欠だと思う。その前提が共有されない中では、指標は医療者視点のものになってしまうことを懸念していたが、懸念通り、医療者視点のものが大半だった。

    平均在院日数、患者は知って、うれしいのか??
    例えば、がんになった患者が手術を受けるとき、在院日数が平均15日の病院と、10日の病院を比較して、10日の病院を選ぶだけの合理性を持ち得ているだろうか。この数字を作成・公開することで費用が余計にかかっています、という説明を患者に納得してもらうのは厳しいのではないだろうか。入院にかかる平均費用や、医師ごとのおおまかな術式別の手術件数、再手術率といった指標の方が、患者にとっては良いのではないだろうか。週刊誌や新聞社が独自にランキングしている指標より、公平性、透明性があるものを提示してくれるのならば、価値があると思う。

    5大がんステージ別症例数は良い!
    延べ退院患者数ではなく、実患者数で評価するこの指標は、どういった患者が集まっているのかが分かって良いと思う。ステージ毎の手術件数も分かると、なお良い。(ちなみに委員からの質問で「ステージ」が分からない人もいるのでは?とあった。確かに知らない人は知らないだろうが、サッカーのオフサイド、野球のタッチアップみたいなもので、「がん」に興味がある人であれば、ほぼ全員が知っていると思ってよいはずだ)

    病院関係者が病院関係者のために作る指標
    肺炎、脳梗塞は、自分が病院関係者であれば、病院間の比較に用いるのに適した指標が並んでいると思う。ただ、患者視点で、これらの指標を見て、ピンと来る人は皆無な気がする。DIC、敗血症、その他の真菌症あたりは、言うまでもない。素人お断りの指標になるに違いない(説明文で「当院はDICの発症率が低く、全国の平均と比較し良い病院と言えます」と書くのが精一杯では。しかも病院ごとに患者バックグラウンドが違うだけに単純比較はかなり危ういこと)
    また、委員から質問・意見のあった「救急車の応需率、非応需率」といった指標を入れるのはどうか?という提案は、「ここはDPC分科会なので、データも取れないし、検討できない」とバッサリ切られていた。病院のための指標ではなく、患者視点で非常によい指標だと思うのに・・・。

    ソフトウェアベンダー、指標特需
    これらの指標、各病院が作り、公表したら係数がもらえる公算が大きい。仮にデータ提出係数と同じくらいの係数が付くことを想定すると、DPC包括部分の収入が、年100億くらい(大規模な病院)では、2000万円程度、年30億くらい(中規模な病院)でも600万円程度、年10億くらい(DPC病院の中では小さめの病院)でも200万円程度の収入になる。ということは、ソフトウェアベンダーが「うちのシステムを使えば、指標の計算から、ホームページに反映まで自動でできます。費用はわずか年50万円です」といったビジネスが成り立つに違いない。ざくっと病院数をかければ、50万円×1,500病院=7.5億円となる。患者からお金を薄く集める仕掛けのおかげで、ソフトウェアベンダーと病院は増収になるに違いない。なお、DPCの係数により患者からお代をいただくというのは、出来高病院にはできない芸当ゆえ、不公平感があることも否めない。

    病院指標に対し、今後に望むこと
    DPCデータの良さである、患者のバックグラウンドの分かりやすさ、医療資源投入内容が分かりやすさを活かし、アウトカム、もしくはアウトカムに直結する指標を開示できないだろうか。例えば、リハビリ実施率、退院時ADLの回復状況、在宅復帰率などだ。あと意外と情報を得にくいのは、医師数やコメディカル人数、放射線撮影・治療機器の整備状況、ストラクチャーの部分が、画一的でなく病院間でバラバラなだけに、同じフォーマットで記載してくれていたら、非常に役立つように思う。今後に期待したい。

    2012/12/05

    病院内での固定観念を壊せ

    今日の日経産業新聞の「病院大競争時代」。
    昨日からの連載の2日目だが、今日も面白い内容。事務部門を始めとした院内の人材育成に本腰を入れた病院は、これから益々強くなる。 
    飯塚病院、徳洲会、東海大学、戸田中央医科グループが紹介されている。記事からの引用だが、興味深い。
    飯塚病院: 一部の病棟で看護師の常駐場所をナースステーションから病室に変更した。(中略)効果は徐々に出始めている。患者と接する時間が増え、患者の体調の変化に気づきやすくなった。病室内の転倒事故も減らすことに成功。
     徳洲会: 2カ月に1度、経営セミナーを開催。全病院の院長や副院長、看護部長、事務局長が集まって全グループの経営状況を共有する。前年実績に比べて税引き前利益が3千万円以上減った病院名を公表するほか、病床数や科目がほぼ同じ病院同士の経営状況を比較。治療だけでなく経営についても競わせる。 
    こういった取り組みが組織的にできる病院が、利益を人材育成に回したら、本当に強い。まさに戸田中央はその事例だ。
    戸田中央:適切な利益を出し続け、最新の医療機器などに再投資することが結局は患者の利益につながるという意味だ。
    「最新の医療機器」とあるが、人材にも投資している病院であることが、記事本文から読み取れる。患者・職員・病院経営者、誰にとっても良い病院になるための鍵が「人材育成」だと思う。これは、例えば、職員全員が財務諸表を読める必要は無い。もっと良くなるにはどうしたら良いだろうかと考える組織風土と、組織を束ねるマネジメント能力の育成が大事なのだと思う。

    先月、病院の管理部門の知人がこう言っていた。「看護部門のトップは看護師である必要はない。」 キャリアパスの都合や慣習で看護部門をマネジメントするのが看護師になっているのだとしたら、考えなおす余地が大いにある、という意味だろう。逆に、看護師は看護部長や看護部門統括の副院長がキャリアの頂点ではなく、才能に応じて事務部門や管理部門で働いたり、マネジメントしても良い。固定観念を壊すのは面白い。

    2012/12/04

    書評: 健康増進外来

    生活習慣病に対し、医療者は、一体、何ができるだろうか?
    例えば、糖尿病であれば、血液検査をし、糖尿病薬を処方することだけではない。薬物療法はもちろん、食事指導・栄養指導や、運動療法など、様々な取り組みが考えられる。これは、誰しもが同じ方法で通用する話ではなく、その個人個人に対し、最適な方法を組み合わせることが必要となる。

    そのとき、どういった診察を行うのがよいのか、とことん突き詰めた結果が、健康増進外来という形で実を結んだのだと思う。看護師が中心となり、患者個々の生活習慣と向き合う。指導するのではなく、「患者自身が行動目標を作り、実行すること」を支援する。このようなスタイルは、通常の外来診療では時間的な制約もあり現実的でない手法である。

    さらに糖尿病の管理料(生活習慣病指導管理料)だけで、健康増進外来の収入を賄おうとする姿勢は、収益面で苦しい医療機関としては、なかなか選択しにくい判断だと思われる(患者の数がある程度いるならば、もっと効率的、収益性の高い医療提供方法がある)。
    にも関わらず、健康増進外来を続けていることは、本質的に患者に対する価値が最も高いという信念があるからに違いない。また、関係している医療者のコメントが、随所に引用されているが、患者と向き合う機会は、大きなやりがいになっていることが伝わってくる。

    健康増進外来―理想の糖尿病外来をめざして健康増進外来―理想の糖尿病外来をめざして
    佐藤 元美 松嶋 大

    提言―日本のポリファーマシー (家庭医・病院総合医教育コンソーシアム) 日本プライマリ・ケア連合学会基本研修ハンドブック 驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく) ささえる医療へ (HS/エイチエス) 新・総合診療医学 (病院総合診療医学編)

    効率的な医療とは、医療機関にとっての効率性を指しているのであれば、患者が置き去りになっている可能性があることを再認識するきっかけとして、この本は非常に大きな気付きを与えてくれた。

    実は、先週、「健康増進外来」を実施している医療機関を訪問していた。そこでは、自費診療で健診センターの1メニューとして提供していた。その理念は素晴らしく、外来の内容も病院の持ち出し部分が多く、意気込みと熱意を感じるメニューになっているのだが、開始依頼、3年で10数件しか患者がいないということで、病院の思いは患者まで届いていないようであった。

    この本では、外来の時間を19時からの1時間としたり、仕事をしている人でも受けやすいように配慮していたり、看護師が患者ごとに専任で固定されたり、継続しやすい環境を作っているとのことであった。そういった患者への歩み寄りも必要かもしれない。

    ただ、何よりも、健康増進外来は、生活習慣病に対する取り組みとして、大きな可能性を感じる。それだけに、現状の薬物療法が前面に出てくる医療は、患者によってはベストでないことを、多くの人に理解してもらう必要性を強く感じた。医療費の価値ある使い方に、医療者も患者も、もっともっと真剣に考えなければならないように思う。

    実は、この本、厚さ(ページ数)の割に、ちょっと高い。でも、中身は値段をはるかに上回る価値が詰まっている。オススメの一冊だ。





    流行の先端を行くのは佐賀

    今年もインフルエンザの季節がやってきた。
    いよいよ、身近な人でも、流行の波に乗った人が出始めた。
    国立感染症研究所感染症情報センター 薬局サーベイランス インフルエンザ推定患者数

    感染症情報センターのグラフでも、先週頃から、かなり増えてきている様子が分かる。

    薬局サーベイランス インフルエンザ推定患者数(関東 都県別 週報)

    東京もいよいよ来た感がある。学級閉鎖も出ているようだ。11月は、佐賀県や沖縄県で流行の兆しが出ていたが、先週から、全国的に増えてきつつあるようで注意が必要だ。
    (ちなみに、これらの傾向、弊社の処理システムでも分析できているものの、マスク着用者の風邪かインフルかの判断で、まだロジックが調整できていない。結局、調整できないまま、インフルエンザシーズンに突入してしまった・・・。反省)

    日経の先週の記事に、「インフルエンザ脳症に注意 乳幼児、けいれん続けば受診を」とあったが、感染予防には、ワクチン接種やマスク着用、手洗い、湿度維持、休養休息、人混み回避等が挙げられていた。

    ワクチン接種、日本では集団接種か病院・クリニックで受けることになるが、いずれにせよ、医師に注射を打ってもらう。これはどこの国でも当たり前か?というと、そんなことはない。アメリカでは、医者でも打てるが、ドラッグストアの一角でも打ってもらうことができる(下記サイトは大手ドラッグストアのインフルエンザワクチン案内)。ここでの注射を打つ人は医者ではない。
    Target(ドラッグストア)のflu shot(インフルエンザ予防接種)の案内サイト

    注射を打つのは、ナースプラクティショナーだ(認定薬剤師も注射可能)。ナースプラクティショナーはインフルエンザワクチンの予防接種をはじめ、簡単な怪我や風邪の診察、処方であれば、対応できる。また、日本ではありがたみをあまり感じないかもしれないが、予約なしで診察してもらえるのが特徴だ。

    日本では、インフルエンザが流行してくると、予防接種の人と、インフルエンザの患者と、それ以外の患者が入り混じってしまい、特に小児科などでは、時間を分けたり、発熱者の部屋を別途確保したり、色々と大変なようだ。さらに、予防接種は、クリニックにとって、あまり収益面では恵まれていないといった話も聞くだけに、同情してしまう。

    これからのシーズン、発熱時の受診は、状況に応じて、事前に電話連絡を入れておく等の配慮をし、クリニックや病院を困らせないよう心がけたい。

    2012/12/01

    診療報酬制度が変わるかも??  ・・・いや、変わらないかも。

    個人のフェイスブック(下の画像にリンクをはってあります)に簡単なコメントを書いたのだが、日本維新の会が公約「骨太2013-2016」にを29日に発表した。


    以下、一部を抜粋
    医療・福祉の成長産業化(案)
    1、診療報酬点数の決定を市場に委ねる制度へ。
    2、混合診療の解禁。




    これは、誰が中心での「成長」産業なのだろうか。医療者? 保険者? 国民? 国会で議論してくれたら良いポイントなだけに、公約だけで終わってしまうのは勿体無い



    医療・福祉の成長とは、医療費・介護費の「増加」を指しているのか?
    おそらく、そういった意味は薄く、医療や福祉で成功事例を創出し、日本国内への展開と、さらには海外へ進出することを後押ししたいのだと思う。

    1点目。診療報酬点数の決定を市場に委ねる、とは、皆保険制度下の公定価格の決定を市場に委ねるのか(中医協のオープン化、自由市場化)、それとも、各医療機関毎に点数自体の決定権を委ねるのか(診療報酬点数の公定価格廃止や、最高価格制度、値引き制度の導入等)、両者は全く意味が変わってきてしまう。
    どちらにしても、日本の医療が根底から変わる可能性があり、良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。この議論は面白いのではないだろうか。

    2点目。混合診療の解禁は、これまでも議論がなされており、主な論点はwikipediaの項目が分かりやすい。また、『「病院」がトヨタを超える日』という北原先生が書いた本も、混合診療のことに触れられているので、読んでみるのもよいと思う。

     

    医療・福祉の議論が活発になることは良いことだ。

    横一列にずらーっと並んだ党首討論を見て、討論なんてできっこない!と思った。政策、公約を考えている人は、頭の良い人たちなんだろうけど、トップは、椅子取りゲームをしているようにしか見えなかった。

    投票日まで、各政党、立候補者の政策・主義主張を見極めなければ。これも、大事な「医療に貢献する」ためのアクションのはずだ。