2013/05/20

日経 朝刊 「成長戦略を問う―医療(中)」 東京医科歯科大学教授川渕孝一氏(経済教室)を読んで


今日の朝刊に、川渕教授の記事が載っていた。医療ツーリズムの低調さや、神戸市の医療産業都市構想の現状などに触れながら、八策としてバランスの取れた提案をしていた。
  1. 短期的には、まず、政府の助成を受けてすでに存在する医療情報システムを活用し、ICT(情報通信技術)化を促進するとともに、施設医療中心から「在宅シフト」を加速する規制緩和を行う。
  2. 地域格差の著しいわが国にあって、疾患ごとに適正な入院日数を地域別に算出するとともに、各都道府県の地域医療計画にその5W1Hを付記することを義務付ける。
  3. 人口に比べて病床数の多い医療機関の再編を達成すべく、「規模の経済」に加えて「範囲の経済」の考え方に立ち、保健・医療・介護を一体化する複合体・グループ化を奨励する。
  4. 中期的には一般企業の生産方式を参考にコスト管理を徹底して、医療費増を伴ってきた「増収モデル」を、コスト削減による「増益モデル」に転換する。
  5. 供給過剰とされる歯科医を有効に活用し、歯科医師と医師が連携して患者の食事指導をして、胃に穴を開けてチューブで栄養を送る胃ろうをできるだけ避ける「脱胃ろう化」を進める。
  6. 現行の薬価制度を努力する者(製薬業界、医師や医療機関、卸・保険薬局、そして保険者や患者)が報われる仕組みに改編することで、安価な後発医薬品(ジェネリック)の普及を促進し、医療用成分を一般用医薬品に転用する「スイッチOTC」化を進める。
  7. そして長期的には、完治しない慢性疾患の増加が予想されることから、現行の診療報酬制度を抜本的に見直し、1人の患者・利用者の生涯医療費を一気通貫で把握できるような支払い方式に転換する。そうすれば、疾病を予防する保健事業などに経済的インセンティブ(誘因)が働くのではないか。
  8. さらに諸外国では一般的になっている費用対効果分析の手法を活用した保険給付のルール化も肝要だ。これは社会保障・税の一体改革で議論することになっているが、最終的に後期高齢者は医療保険の対象となる「要医療」と、介護保険で賄う「要介護」の峻別(しゅんべつ)が困難なので、高齢者医療制度と介護保険制度の統合も検討してはどうか。
現在、自分の仕事上の関わりとして、(1)在宅シフトや(3)複合体の奨励、(4)増益モデルへの転換、(7)生涯医療費の把握と経済的インセンティブ、(8)費用対効果の保険給付、については日々考えることも多いだけに簡潔な文章でまとめられている点は自分の頭の整理にもなる。

特に、(4)の増収モデルを増益モデルに変えることは、限られた医療費を効率的に活用する上で非常に重要な要素だと思う。増益になることは悪いことではなく、あわせて法人を社会医療法人など公益性の強い法人への移行を促し、地域に貢献・還元していく形を作るべきである。また公立病院は増収を実現しても、自治体の国保の財源が厳しくなるという矛盾に悩まされており、増益モデルになることは重要な要素であると思う。