2014/02/25

インド人の料理人がいる店で食べたいカレー

インド人が腕を奮っているカレー屋で、出てきたカレーがいかにも日本人好みの味だったりすると、ちょっとがっかりする。期待しているのは、スパイシーな、現地の味を容赦なく再現したものだったりする。これは中華も同じ。日本語片言の中国人が、大衆食堂の中華丼のようなものを出してきたら、悲しくなってしまう。汗をだらだらかきながら、ここが日本であることを忘れさせるくらいの料理を食べたい(あまり辛くない中華もあるので、汗は必須でない)。

期待と現実にはギャップがある。期待するからこそギャップを感じる、とも言える。

でもインド人は、たまたま来た客が何を期待しているか分からない。もしかしたら、スパイシーなものは苦手な人かもしれないし、スパイシーなものが食べたくてわざわざ来た人かもしれないし。中華料理も一緒で、本格中華を欲しているのか、大衆食堂中華を欲しているのか、即座に理解するのは至難の業だろう。

これは医療とて同じである。骨折で医者に行き、レントゲンも撮らず、痛み止めも出さず、ただ放置されるような事態は単なるヤブ医者だとしても、その場で即手術すべきか、3日後にすべきか、状況によって異なる。もし骨折した部位が利き手ではない方の手の指で、かつ患者がたまたま翌日に入試を控えていたらどうだろうか。手術し入院させるよりも、ギプスで固定し痛み止めで対処し、入試が終わってから手術をする、といった選択もあり得る。医学的にあるべき最善策と、患者が望んでいる最善策は、いかなる時も一致するわけではない。

こういったミスマッチは、コミュニケーションで埋めるしかないと思っていたが、医療者側も埋める努力をしているようだ。日経メディカル1月号に「高齢者にやさしい 薬・検査・ロボット」という特集が組まれている。その記事のひとつに、高齢者医療の優先順位を医療の受け手側と医師で比較したものが載っていた。

日経メディカル 2014年1月号

患者は病気の効果的治療を期待しているのに、医師はQOLの改善を期待しているという見事なミスマッチを示していて、非常に興味深かった。欲を言えば、患者家族の優先順位も併せて評価していて欲しかった(元の論文(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23415841)を読まず、日経メディカルの記事だけで判断し申し訳ないが)。

こういったミスマッチを把握することは非常に大事なことだと思う。「インド人がやっている店だから、客はみなスパイシーなものが食べたいに違いない」ということは95%正解だが、5%くらいハズレがあるかもしれない。物事に絶対はない。5%のハズレがあると思いながら、医療もコミュニケーションを大事にしたら、もっと良い医療になるだろう。これは患者も然りだ。「辛さ控えめで」と言うのと同じように、医者にもっと自分のことを話さなければならない。(でも話しすぎは禁物で、その匙加減が難しいかも)