2014/03/30

『この本は医学生や研修医にせひ読んで欲しい』 from 訳者あとがき (書評:医師は最善を尽くしているか)

第3部 「工夫」で書かれているスコアとベルカーブの章は、医療関連データの分析を業務としている弊社としては、あらためて何がしたいのか考える機会となった。

日本の医療はどこで受けても内容が同じなら、費用も同じだ(診療報酬上。差額ベッド代などの自費部分は除く)。それゆえ、医療の質もどこもだいたい同じで、高い水準にあるのでは?と一般市民は期待しているに違いない。しかし、この本のベルカーブの章で、現実は左右対称のベルのような形になっている・・・と述べている。
ベルカーブの章で書かれている医療の質と施設の分布
これは自分にとっては驚くことではない。医療の質を在院日数だけで推し量るのは適切でないこともあるが、質の一要素である日数について、日本のDPC病院において、その平均値で施設数のヒストグラムを書いた結果が下のグラフだ。

虫垂炎 手術での入院日数分布(左ほど短く、右ほど長い)
出所: 2013年9月中医協 DPC評価分科会 資料を基に弊社が作成
短い施設があることも事実だが、長い施設もあり、まさにベルカーブだ。平均日数の比較なので、足を引っ張っているごくわずかな患者の影響など、気になる点があるのも事実だが、平均5日以下で退院できる病院はわずかだと言える。

しかしこれは医師が真面目か否か、腕がいいか悪いか、を表しているわけではないことも大事な点だ。入院日数が長いのは様々な要因があり、簡単にいい悪いを決めることはできない。そして大半の医師は真面目だ。「手術の腕を磨く」「検査の腕を磨く」「最新の医療情報を収集する」といった観点で話を聞いていると、怠っているどころか、数少ない休みの日にまで勉強していることが多い。

つまり、現状は医師の良し悪しを決めるポイントは別のところにあり、入院日数の長さは関係ないのかもしれない。これを証明するには様々な指標とともに日数の変化動向を見なければ分からないが、何よりも患者(+保険者も)は日数の長短の差異を理解しようとしていないだろう。理解するには長い時間がかかるように思う。しかし、そのような市民が理解していない現状も含め、医療者は理解し、改善していくことを考えなければならない。この本を一般市民が読んだところで興味を持てる点がどのくらいあるかは分からないが、訳者があとがきで書いているように、確かに医学生や研修医が読むと得られるものが大きいのではないだろうか。