2015/07/27

ロボット手術の安全性は?

「2000年以来、ロボット支援システムを用いた手術関連で、144人が亡くなっている」という見出しは少なからずショックがある(衝撃的な見出しにしたいという意図も感じる)。

このとき、確認すべきは、分母は何人であるのか。そして、その原因は何なのか。はたまた最近は増加傾向なのか、減少傾向なのか。そのような状況が見えてこないと、144人という数字だけがひとり歩きして、危険を煽ることになってしまう。

Robotic Surgery Linked To 144 Deaths Since 2000 | MIT Technology Review
MIT Technology Reviewの記事では、ロボット手術のトラブル発生状況を、増加傾向にあるか、減少傾向にあるか、変わっていないのか、折れ線グラフに示してくれている。システムエラーは、手術件数の割に、発生頻度が低くなっている。一方で、装置破損は継続して一定頻度で発生しており2013年は若干増加しているように見える。

そして144人の死者が出ていることについては、6割以上は機械トラブルだが、残りはオペレーターのミスや、手術自体のそもそものリスクが原因だったという(下記引用の英文参照)
Curiously, although the database contains reports of 144 deaths during robotic surgery, the circumstances involved were recorded in detail in only a tiny fraction of cases. However, over 60 percent of these incidents were caused by device malfunctions while the rest were caused by factors such as operator error and the inherent risks of the surgery.
この記事は、『論文ではロボットなしの手術との比較は議論されていない。情報が不足したまま、ロボットが良い・悪いの議論は難しいことだ』と述べている。

そして、記事最後は、『アクシデント調査が進み、メカニズムが報告され、安全性を考慮した設計技術が進展すれば、将来、インシデント発生率は下がるだろう』と論文の著者が述べていることに触れている。
Nevertheless, there is room for improvement. “Improved accident investigation and reporting mechanisms, and safety-based design techniques should be developed to reduce incident rates in the future,” say Ramon and co.
情報の透明性が、医療の質を上げる。

この動きを加速させるには、情報の一部だけを聞いて、「144人も!? 怖い。ロボット手術はダメ」みたいな過剰な反応を市民はしないようにすべきだし、マスコミなどは冷静な情報伝達をこころがけるべきだ。