2015/11/30

「言い出しっぺ」は損をする?

ある書籍で引用されていた2年前の日経ビジネスを読んだ。「会社の老化度」チェックシートがなかなか面白い。

30項目の中から、いくつかピックアップしてみた。

  • 定例会議が多い
  • 報告連絡のためだけの会議が多い
  • 意思決定に必要なのは前例と実績である
  • やるリスクは真っ先に論じられるが「やらないリスク」が論じられることはない
  • 「できない理由」が得意な社員が多い
  • 何を決めるにも複数担当者が必要である
  • 簡単な経費の使用にも複雑な承認プロセスが必要である
  • 「何を言ったか」より「どの役職の人が言ったか」が重要である
  • 部門が違ったら何をしているのか分からない
  • 評価は減点主義である
  • CCメールなど、読まないメールが大量に来る
  • 「言い出しっぺ」は損をする
  • 社内でも名刺交換が行われる

老化≒老舗と捉えれば、上記のようなリスクを取らない経営が会社を守ったのかもしれないが、おそらく元気な老舗では、上記の項目が当てはまらなかったりするように思う。少なくとも、自分が知っている歴史ある病院のいくつかは上記の例に当てはまらない。

ちなみに、自分は2年前の日経ビジネスをわざわざ読んだのだが、チェックリストだけならウェブ上の記事になっていた。自分の組織に当てはまるか読んでみてはいかがだろうか。

やりましたか?会社の老化度チェック:日経ビジネスオンライン

短期的な診療報酬改定サイクルの現状に必要な実験経済学的手法

次の診療報酬改定まで、残すところ約4ヶ月。

初診時に徴収している特別な料金の中医協資料について、先日ブログで疑問に思うことを書いた。

結論ありきでの分析の危険さ - 医療、福祉に貢献するために

そもそも4ヶ月しか時間が残っていないタイミング(ただし、大枠を決めるタイミングはもう少し前であり、実質的に残された時間は2ヶ月くらいと言っても過言ではない)で、どのような制度にすべきか基礎データが十分と言えないような状況にある。結論ありきでうまく誘導しているような議論の進め方であっても、「全知全能の神」が愚民の戯れ言を無視し、絶対的に正しい世界へ導いてくれるのであれば、まったく問題はないだろう。しかし、患者・医療者の行動を完璧に読むことはできない。

ならば、診療報酬改定のたびに新しい制度を全医療機関に適用することをいっそ止めてみてはどうだろうか。

2014年度改定の短期滞在手術3の白内障手術は、明らかに制度設計のミスであった。しかもミスであることは改定内容の発表時点から噂され、改定直後から多くの医療機関が両眼の入院パスの利用を止めた。ここまで極端なケースではもうほんの少し議論の時間に余裕があれば防げた事例かもしれない。しかし、いきなり全医療機関に新制度が適用されてしまったため、被害(≒患者の金銭的負担増・身体的負担増、病院の効率的病床利用の阻害)は非常に大きくなってしまった。

例えば、革新的な制度は、一部国立病院機構やナショナルセンターで試行し、その結果が良ければ、次の改定で全病院に展開する。逆に思わしくない結果であれば、展開しない。そのような検証があってもよいのではないだろうか。

先日のブログで指摘した初診時の徴収料金については、いわゆるABテストのようなことをしても良いのではないだろうか。紹介患者の増減は地域性などに大きく左右される。それだけに、複数医療機関の平均値での評価はあまり意味がない。ましてはNが少なければ、言うまでもない。

ABテストのイメージだが、国立病院機構の病院を半分に分け、片方は料金を高く、もう片方は低く設定し、それぞれの初診患者がどのように変化したか検証する。その結果に応じて、適切な制度を設計し、診療報酬改定を行う。国立病院機構の病院で実験を行うことには批判もあるだろう。しかし、より良い制度を2年に1回という短期間のサイクルで変えていくためには、実験経済学的な手法も取り入れるべきではないだろうか。

CCPマトリクスは非常に良い考え方だと思う。しかし、点数設定などの制度の詳細がまだ見えていない。制度次第で医療機関は恣意的に高い点数を取るようにするだろう。だからと言って、これは病院側だけが責められるべきことではない。新しい制度が患者の受ける医療に変化が生じるかもしれないし、または病院経営に大きな影響が生じるかもしれない。改定まで時間が限られている時点で制度の詳細が見えていない状況(少なくとも病院は心の準備すらできていない状況)は、かなり不安である。CCPマトリクスのような革新的制度は、まさに実験経済学的検証が最適なのでは??と思うのだが、いかがだろうか。

2015/11/26

じゃがいもとパンから医療費を考える

Measuring the Value of Prescription Drugs — NEJM

ソバルディのような「劇的に効くけど目が飛び出るほど高価な薬」の値付けの評論記事。あまりにも高すぎる値段について、自動車の値段を引き合いに出して、論じている。

車を買うとき、消費者はディーラーで「原価」を聞かない

確かに聞かない。200万の国産車と似たような300万の外車があった場合、勝手に「100万円は海外からの輸送費とブランド代だな・・・」と思い込む。ましてや200万円のうち、エンジンにいくら、シャーシにいくら、ボディにいくら、内装にいくら・・・なんて考えることもない。

記事でも、普通車を買うときは、他の車も含めスペックや機能と値段とを一緒に比較するのであって、原価は聞かないだろうと述べている。また、安全性や燃費、定員数などの指標も大事だが、もっと価値があるのは、安全性を増すのにどの程度燃費が下がるのか、定員数が増えたらどの程度燃費が下がるのか、だったりするとも述べている。
※ 英語力が乏しいので、誤訳はご容赦願いたい(こっそり指摘ください)


一方で、費用対効果の考え方に基づく値段設定は、より価値ある薬を生み出そうとする製薬メーカー・研究者の大きな動機付けになっていることは間違いない。それだけに評価フレームワークの精緻化などが必要と述べている。

じゃがいもとパン

コメント欄が面白い。「もし、じゃがいもとパンをカロリーなどの価値で評価したなら、じゃがいもはとんでもない値段になってしまい、世界中が飢えてしまうだろう」と皮肉を書いているコメントがあった。

そのコメントで学生時代のことを思い出した。節約節約と意識していた学生時代、値段の安さとカロリーをバランスを考え、費用対効果が良い食事を議論したことがあった。「パスタが1kg300円で売っているよ」「米はドラッグストアが安い」「パンを買うなら××のカロリーがバカ高い」などなど、下らない話題で盛り上がったものだ。(当然だが、油脂と炭水化物(砂糖も含む)は安く、栄養バランスなんぞ完全無視だった)

費用対効果の議論は中医協でもなされている。医療費を抑えるために使われるのか。それとも研究者に対するインセンティブをもっと付けたいのか。どちらにせよ議論は要注目だろう。

ソバルディの値段については下記などを読むと良い
【中医協総会】ソバルディ薬価、1錠6万円-13年ぶりに画期性加算 : 薬事日報ウェブサイト

2015/11/24

「ネットで完結する医療??」 そんなのダメでしょ!と思考停止してはもったいない

日経メディカルにネットだけで保険診療を目指す話題が載っていた。

ネットだけで保険診療、診断から処方・投薬まで:日経メディカル

現時点で保険診療として認められるかどうかの議論は置いておき、2030年、2050年といった未来を考えるならば、医療にはもっと様々な提供スタイルがあってしかるべきだろう。

先日、PWCのレポートについて記事になっていた。

7 things about digital health from PwC's report on primary careMedCity News
  1. Consumers no longer require face time with their physicians; 60 percent said they would be willing to try a virtual doctor’s visit.(一般市民は医者と直接会う必要性を感じていない。ヴァーチャルな医師との面会を試してみたいと答えた割合は60%だった)
  2. 50 percent of consumers would use a do-it-yourself diagnostic test for conditions including urinary-tract infections and strep throat.(一般市民の50%は尿路感染症や扁桃炎も含め自己診断ツールを使いたいと思っている)
  3. 31 percent could consider a wearable device for monitoring vital signs.(一般市民の31%はバイタルサインのモニタリングにウエアラブルデバイスの活用を考えている)
  4. Today, just 10 percent of medical professionals now treat patients with the help of remote monitoring devices.(患者治療でリモートモニタリングデバイスを使っている医療者は現時点では10%に過ぎない)
  5. However, 85 percent of doctors said that primary care physicians in the future embrace wearables and mobile apps. Kauffman said that doctors still have to overcome their doubts about the reliability and medical relevance of the data captured from such tools.(しかしながら85%の医師は将来プライマリケアではウエアラブル機器やモバイルアプリを取り入れるだろうと答えた。カウフマンはそのようなツールの信頼性や妥当性に対する疑念を医師が克服しなければならないだろうと言っている。)
  6. 42 percent of physicians said they would prescribe medicines based on certain types of DIY tests.(医療者の42%は自己診断ツールの結果により薬が処方されると答えた)
  7. 16 percent of physicians already have or are in the process of acquiring technology for teleconsultations.(医療者の16%はすでにテレコンサルテーション(遠隔医療相談)ができるか、その準備をしていると答えた)
どの回答結果も興味深い。保険制度や国土の大きさなど、アメリカと日本では背景が異なることは十分考慮すべきだろう。

しかしながら、このような従来の医療提供方法とは異なる、未来の医療のあり方について、保険診療の枠で考えることに拒絶反応を示し、思考停止してしまうことは問題がある。患者の希望にも配慮しながら、議論していくことで現状の医療提供内容の問題にも気がつくことができるかもしれない。せっかくの考える機会を無駄にしてはもったいない。

PWCのレポートはこちら

Time for a makeover in Primary Care : PwC

2015/11/23

地域を支える「民の力」 (2015/6/26・7/3 北海道新聞 朝刊)

先日、片道4時間、羅臼からバスで釧路まで病院に通う新聞記事を紹介した(片道4時間のバスで病院に行く北海道)。今、気温がマイナスの北海道にいるのだが、東京の家から札幌までちょうど4時間くらいだった。改めてバスの時間が長い!と感じた次第だ。

少し前の記事になるが、6月26日、7月3日の北海道新聞に「医療過疎のいま」と題し、2回の記事が載っていた。

4時間通わなければならないのは羅臼が特別なのではなく、北海道の医療環境の特徴と言えよう。記事を一部引用する。
後志管内黒松内町は(中略)町国保病院について、来年4月に北海道勤労者医療協会(札幌)を指定管理者とし、運営委託する準備をしている。
(中略)道勤医協は初期診療に幅広く対応する総合診療医を置き、高度医療が必要な患者は都市部の総合病院に送る体制を想定。40床の病院から19床の有床診療所に再編するが、救急患者の受け入れは続ける。
(中略)町は民間委託により「財政負担も軽減できる」(佐藤雅彦副町長)と説明する。
病院を維持することは困難であり、有床診療所に再編しなおす検討をしているとのこと。指定管理者制度を活用することで、財政負担軽減を図りつつ、医師確保を期待しているのだろう。

地方の人口規模に大きく左右されるが、近距離に病院が必ずあることは決して当たり前ではない。有床診療所への転換は受け入れざるを得ない選択肢なのだろう。(身近なところでは、有床診しかない離島に住んでいる義父は、検査入院や手術のときには片道3時間以上かけて東京に来ているが、それを当たり前と受け入れているように思う。)

一方で興味深い動きもある。白老町の事例だ。これも記事を一部引用する。
地域医療を守るには、住民の理解も欠かせない。胆振管内白老町の白老町立病院は患者の減少を理由に、戸田安彦町長が13年9月、「原則廃止」に言及。
苫小牧市の病院などに通うことが多かった町民に、町立病院を積極利用する機運が生まれ、14年度の医業収益が見込みを上回る見通しとなるなど経営は改善。町は原則廃止方針を撤回し、施設建替も検討することにした。
病院が廃止になっては困る!と住民が急に使い出したらしい。これは交通の便の良い都市部でも似た課題が見られる。車で20分行けば大病院があると言い、地元の人は、地域の自治体病院に行かない。そのために財政的に厳しい状況になってしまっている。

でも、皆が利用するのであれば、その病院の財政状況は改善する。当然だ。

地域医療構想では、医療者を中心にどのような医療機能を提供すべきか議論がなされているが、本来は、理想の医療環境を整えるため、患者の行動を変えることも含め患者が積極的に議論に参加しなければならないのかもしれない。

ただ、白老町の事例もそうだが、追い込まれるところまで追い込まれないと住民はなかなか真剣に考えようとしない。正直、「住民を巻き込む」というのは理想論であって、現実はなかなか難しいだろう。

2015/11/20

片道4時間のバスで病院に行く北海道

昨日の日経産業新聞、市立釧路総合病院の話題が載っていた。地域が高齢化していく中で、どのような医療施設を整備し、医療従事者を確保していくか。非常に難しい問題だ。とりわけ、北海道はその地域が広域である特殊性から、問題をより難しくさせている。そのため、北海道(札幌はまた違うのだが)の医療計画や病院計画には注目している。

記事にも書かれているとおり、市立釧路総合病院をどのような機能・規模で作るべきかの議論は市の財政的な課題や、建築費高騰などもあり、単純に判断するのは難しい。ただ、記事で印象に残ったのは、釧路という地域の特殊性の説明だ。

以下、記事の一部を引用する。
「北海道の地図を本州に重ねた図を見てください。当地の医療がいかに難しいかが分かっていただけると思います」。高平真院長は釧路・根室の医療について、パソコン上で作製した地図を指さしながら強調する。 釧路・根室の広さは東京都、神奈川県、千葉県を合わせた面積に匹敵、釧路と最も離れた羅臼町との直線距離約130キロは東京・静岡間に相当する。

「北海道はでっかいどー」だ。これは自分でも理解しているつもりだ。衝撃的だったのは次の一文だ。
問題は広さだけではない。羅臼町の患者が市立病院などに通う定期バスが運行しているが所要時間は約4時間。来年開通する北海道新幹線の東京―新函館北斗間の時間とほぼ同じだ。
 4時間は往復?と思ったのだが片道だった。

6時40分に羅臼を出て、市立釧路総合病院に10時25分に到着する。外来を終えて、昼食を済ませて、病院前を13時35分のバスに乗れば、羅臼に17時25分に着くようだ。

釧路羅臼線・釧路標津線 [市立病院⇔釧路⇔中標津⇔標津⇔羅臼] - 阿寒バス株式会社

往復8時間弱。ちょっとした小旅行だ。ちなみに比較として昨日の自分の移動時間を計算したら、ちょうど8時間くらいだった(飛行機3時間、バス2時間ちょっと、電車3時間)。正直、移動疲れの1日である。

バス1本の移動なので歩いたりしない分、マシかもしれないが、高齢者の病院通いだ。決して楽ではないだろう。

全国画一的な政策では、それぞれの地域の医療を最適なものにすることはできない。各地域の医療は、その地域で考えるべきであり、その時には、この片道4時間を通っている人の意見にも耳を傾ける必要があるのだろう。

話題は変わるが、ちょうど今日の日経地方版に、その市立釧路総合病院がドクターヘリで十勝地方もカバーする運用を開始するニュースが載っていた。物理的距離をカバーするのにヘリは有効な解決策だろう。

余談だが、4時間のバスの運賃、片道で4900円と書かれていた。でっかいどー、北海道!!

2015/11/19

結論ありきでの分析の危険さ

9月末くらいから中医協の開催頻度が高まっていて、資料に目を通すのが大変な時期がやってきた。昨日も移動中に読んで考えようと思っていたのだが、なかなか理解できないものもあった。

特に気になったのは、外来初診時の特別の料金の徴収額と紹介率との関係のグラフだ。これは参考資料となっていたので、議論にはなっていないのかもしれないが、あんまりの内容だ。
中央社会保険医療協議会総会審議会資料 |厚生労働省 「外来医療(その3)について」から引用

グラフは横軸に徴収額のグループ分けがなされていて、縦軸に紹介率を取っている。1080円未満は紹介率が低く、それ以外は60%~65%のレンジに収まっていて大差ないと言える。ただし、1080円未満はN=4と非常に少なく、その平均値を見ることは危険だろう。(仮に4病院の紹介率が0%、60%、60%、60%であったなら、平均では45%になる。0%の病院に平均値が引っ張られてしまう)

つまり、導き出される要旨は、「徴収金額と紹介率には関係性が見られない」ということだろう。

気になる点は他にもある。1080円未満がN=4と少ない。これは26年4月の調査となっているが、他の資料では27年4月の調査が元データになっているようで、そこでは1080円未満が100病院以上ある。もしかしたら、紹介率のデータが無かった等の理由も考えられるが、上の「弱い主張(そもそも説明できていない主張)」を裏付ける努力があってしかるべきだと思う。

個人的感覚では、徴収金額と紹介率には関係性はなく、周辺病院の状況などに左右されるように思う。また、調べるのであれば、1施設の時系列的変化を見るべきかもしれない。これまで徴収していなかった病院が1080円徴収した場合、2160円徴収した場合、といった形で、値上げした病院のケースを集め、その時々で紹介率がどのように変化したか調査することで、紹介率を左右してしまう周辺病院の状況等のノイズが軽減されるはずだ。

いずれにしても、このような資料を見ると、裏の事情があるのではないか?と勘繰ってしまう。データに対する思考回路はバイアスがかからないよう努力したいものだ。

今日の中医協総会の外来診療に関する資料の1ページです。このデータから、この説明をするのは恣意的すぎるように思うのは自分だけでしょうか。「金額が変わっても紹介率は変わらず、1080円未満はNが少ないので参考値」と考えるべきかと思います。中医協を傍聴しているわけではないので分かりませんが・・・
Posted by 株式会社メディチュア(Meditur Co., Ltd.) on 2015年11月17日

2015/11/17

カイゼンを学ぶことによる組織力の向上

日曜の日経朝刊記事。

医療カイゼン 企業に学ぶ 名大病院講座、トヨタが指南 医師や事務、一体でミス防ぐ :日本経済新聞

記事の名大病院医療の質・安全管理部の安田あゆ子副部長のコメントの一部を引用する。
医療界はこれまで学んでこなかった解決法を産業界から知る必要がある
そのとおりだ。

しかし、医療界の人がゼロから産業界に学ぼうとするのは、辞書を持たずにアフリカの原住民の言語を学ぶようなものかもしれない。

すでに産業界を参考に学んだ病院がある。その病院は、産業界のどこが参考になるか・ならないか熟知している。いわばすでに辞書を持っているその病院から学ぶ方が手っ取り早い。また、素晴らしいことに、記事にも出てくる業界をリードしている病院は、その情報を惜しみなく公開している(そのおかげで、自分も話を聞くことができている)。ありがたいことだ。

組織でカイゼンに取り組んでいるところとそうでないところには、職員の前向きな姿勢や成長に大きな差が生まれると感じている。

2015/11/14

データを分かりやすい形に加工する努力

この前、AHRQの入院中の合併症の発生率が下がった話を書いた。

よいインセンティブは病院を動かす - 医療、福祉に貢献するために

PDFにまとまっているレポートには、分かりやすいグラフで説明がなされている。

例えば、このような感じ。

入院中の合併症発生率の変化状況
2010年に比べ2013年は17%減った、という話だったが、各年間の比較は上のようになっていて、直近、効果が大きくなってきていることが理解できる。

入院中の合併症の変化(事由別)

薬の有害反応事象が最も多く、次いで、褥瘡、導尿カテーテルによる感染症の順になっている。

最近、厚生労働省も中医協の総会や分科会の度に、大量の資料が出てくる。グラフや表には説明がないと理解できないケースもあるが、何よりも準備している人はすごいなぁ・・・、大変だろうなぁ・・・と思う。本当に、このようなデータによる議論は大事だ。

2015/11/13

よいインセンティブは病院を動かす

AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality *wikiでは「医療研究品質局」と日本語訳されているアメリカの政府機関)のレポートで、入院中の合併症が2010年に比べ2013年では17%減ったとのこと。

AHRQ Analysis: Hospital-Acquired Conditions Reduced by 17 Percent From 2010 to 2013 | Agency for Healthcare Research & Quality

記事(一部抜粋)には以下のように書かれている(日本語は弊社の意訳)
The decline translates to 1.3 million fewer incidents of patient harm, approximately 50,000 fewer patient deaths in hospitals, and $12 billion in health care cost savings. Gains were particularly strong in 2013 when 800,000 fewer patients experienced harms, 35,000 fewer patients died, and $8 billion in unnecessary costs was saved compared with 2010. HACs include adverse drug events, catheter-associated urinary tract infections, central-line associated bloodstream infections, pressure ulcers and surgical site infections, and several other types of adverse events. While precise reasons for the decline in HACs cannot be pinpointed, it coincided with concerted efforts among hospitals across the country to reduce adverse events.  (130万件の有害事象を減らし、約5万人の入院中の患者死亡を減らした。結果として、120億ドル(約1.4兆円)の医療費削減につながった。特に2013年は2010年に比べ、80万件の有害事象抑制、3万5千人の死亡を防ぎ、80億ドル(約1兆円)の削減となった。有害事象には導尿カテーテルや中心静脈カテーテルによる感染症、褥瘡、術後感染症などが含まれる。入院中の合併症が減った原因を厳密に解明することは不可能だが、アメリカ中の病院が有害事象を減らす取り組みをしたこととは密接な関係があるだろう。)
さらには次のように書かれている。
Efforts were spurred by the Affordable Care Act, which created Medicare payment incentives to improve the quality of care, and by HHS’s Partnership for Patients initiative. Many hospitals have used tools and resources developed by AHRQ, including the Comprehensive Unit-based Safety Program, the Re-Engineered Discharge Toolkit ,and TeamSTEPPS®,  to improve care. (医療の質の改善によるメディケアの支払いのインセンティブ制度が作られたことによって、このような病院が促進された。多くの病院はAHRQの作ったツール等を使って、医療を改善している。)

「努力しなさい」と言って、すべての病院が自発的に努力するのであれば良いが、現実的ではない。やはり適切な制度を作ることが、良い医療を生み出す原動力となる。

日本も診療報酬改定が近づいてきた。よいインセンティブが設定されることを願いたい。『マイナス改定』といったマクロな数値に、個別の病院経営は左右していない。個別のインセンティブの方がよほど病院は動く。

2015/11/10

虫歯のビジュアライゼーション

昨日、スタッフが作ってくれた資料。
5~17歳のむしばあり割合の時系列推移(縦軸:年度、横軸:年齢)
青色が濃いほど虫歯ありの割合が低く、赤色ほど虫歯ありの割合が高い。

上から下に目を動かせば、1990年代の赤色から、徐々に青色へ変化している。つまり虫歯ありの割合が減っているという意味だ。

面白いのは、5歳から17歳まで直線的な関係ではなく、8・9歳で虫歯が増え、11・12歳で虫歯が減ることだ。これは乳歯から永久歯への生え変わりで、虫歯が減るという意味なのだろう。

虫歯に関するレポートはこちら → Our Reports | 株式会社メディチュア

2015/11/09

医療機関受診日の前日に薬剤師から電話

先週金曜の日経MJ。クオール薬局の高輪店の話が取り上げられていた。
「残薬や飲み忘れを防ごうと、家で余った薬を入れてもらう特製バッグを高齢者の方や認知症の患者さんに手渡しています」。

クオール薬局高輪店の藤平智子さんのアイデアだそうだ。

残薬には、処方薬から大衆薬まで様々あるらしく、それらを全てチェックし、副作用を防いだり、バッグの残薬から期限前の薬を取り出してその患者に再度処方し、医療費削減にもつなげているとのこと。

ここまででも十分素晴らしいのだが、とりわけ素晴らしいのが次のポイントだ。
「病院を受診する前日に患者の自宅へ直接電話をかけ、バッグを持ってきてもらうよう伝えている」。
慢性疾患を抱える高齢者は定期的な受診が増える。そして、医療機関受診時に次回の予約を入れることが多い。つまり、この薬局では、処方するタイミングで、次の受診日を聞いておき、受診日前日に電話しているのだろう。

『かかりつけ』とはこういったことなのかもしれない。記事によると、特製バッグと電話のおかげで、残薬が減っただけでなく、受診日を忘れなくなったらしい。

後者は、とほほ、と思ってしまうが、受診忘れが一定数あるのも事実で、医療機関としても助かるのではないだろうか。

病院と薬局の結びつき。これまでは門前のお付き合いであったが、これからは純粋な価値で、病院が薬局を評価するようになるのかもしれない。

2015/11/06

カバー率は医療の質を表しているか

昨日は福岡で開催されている学会で客観的に医療の質の評価を試みた発表を聞いた。

医療の質と聞くと、一般人は「腕がいい」「病気が判る・治る」「患者に優しい」といった項目が挙がってくる。そのようなバックグラウンドもバラバラで、治療方法すらバラバラで、さらに個々人の感覚的評価であったりする。

これは車の品質・性能と考えても一緒だ。燃費や価格、デザイン等々の製品を買う消費者的な品質と、製造原価や、工程数、期間、歩留まり等々の生産者的な品質がある。生産者の観点での品質が上がれば、それは消費者視点での品質である価格や性能に反映されるため、どちらも大事である。

昨日の学会では、どちらかと言えば、生産者的な観点での医療の質の議論がなされており、消費者的な観点(患者側の観点)ではないものが多かった。

そのような中で、患者側の観点ではないものの、公表されているデータから質を推し量る発表等は非常に興味深かった。急性期医療の質を評価する指標として、DPC公開データや、DPC参加病院に付与されている機能評価係数Ⅱを用いる内容は勉強になった。

機能評価係数Ⅱは計算式も開示されており(元データは分からない)、透明性の高い指標であり、学術的な研究にも十分耐えうる指標と思われる。しかし、係数には特徴があり、客観的な質の指標には相応しくない側面もある。

例えば、カバー率である。

カバー率というと、感覚的理解では、より多くの疾患をカバーしている病院を評価する指標のように思うが、実際は異なる。下の図のように、単純に病床数に依存した指標である。

2014年度の機能評価係数Ⅱのデータから作成したカバー率係数と病床数の関係性
なぜカバー率係数が病床数に依存しているか説明しよう。
2人の主婦がいる。ひとりは料理研究家(A)。もうひとりは普通の主婦(B)。このふたりについて1ヶ月30日の夕食のバラエティ(カバー率)を比較してみる。

(A)料理研究家 (B)普通の主婦
日本料理 6回 日本料理 13回
中華料理 5回 中華料理 9回
フランス料理 4回 イタリア料理
8回
イタリア料理 3回
スペイン料理 3回
韓国料理 2回
メキシコ料理 2回
ドイツ料理 2回
タイ料理 1回
トルコ料理 1回
インドネシア料理 1回


明らかに料理研究家の方がバラエティに富んでいると思うだろう。

しかし、機能評価係数Ⅱのカバー率は、「たまにしか作らない料理は除外する」みたいなルールがあり、月5回以上作った料理(赤字で書いた料理)の数をで評価する、みたいなことになっている。そのため、カレーとラーメンとパスタしか作れない普通の主婦は、バラエティ3種類。料理研究家は日本料理と中華料理の2種類。結果として、バラエティは料理研究家より普通の主婦の方が富んでいるという評価になる。

上記の主婦の例は単純化した例だが、実際のカバー率係数もほぼ同じだ。病床が多い(=料理人が多い)ほど最低基準を超える病気の数が増える。カバーしているか否かよりも、基準を超えるか否かの影響が大きいために、上のグラフのような病床数に依存している結果が出てきてしまう。

医療の質を測るのであれば(特に、その結果でインセンティブを与えるのであれば)、より適切に評価することが大事であり、必要があれば評価方法を改善すべきだろう。

昨日聞いた学会の発表は大変興味深かったものの、使われた指標のひとつがカバー率係数であったため、残念ながら、あまり意味がないのでは??と思った次第だ。

次の改定の議論の中で、カバー率係数の話は出ていない出ているが専門病院への配慮程度と思われ、次の改定では抜本的には変わらないだろう。適切なインセンティブを付与する意味でも、少し見直したほうが良いと思うのだが・・・。

2015/11/06  一部体裁、文言を修正
2015/11/07 
 DPC評価分科会の検討状況を反映・修正

2015/11/05

医療経済実態調査はオープンデータ化?

第20回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告が公表された。

統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020103
ここ数日、病院長の給与が増えた、病院の赤字が増えた等のニュースを目にした方も多いのではないだろうか。これらのニュースはこの調査に基づいている。

今は、開示される=電子媒体でダウンロードできる、であり、ほとんどの資料はPDFで読める。それに加え、エクセル形式やCSV形式等の再利用可能なファイルで配布されることもある。今回の医療経済実態調査はエクセルファイルもダウンロードできる。かつては印刷された紙媒体から調査・データ分析するまで膨大な手間がかかっていたことを考えると恐ろしい。

ちなみに、今回開示されたエクセル、散布図の素データが残っている。前回のは消してあったと思うのだが・・・。(悪用できるわけでもないので、別に問題ないか)

これも一種のオープンデータか?

2015/11/03

Back to the Futureと日本医師会のグランドデザインの共通点

Back to the Future、懐かしい。そもそもあまり映画を観ない自分なのに、何度も観た数少ない映画のひとつだ。Back to the Futureで飛んできた未来がいつだったか、なんてさっぱり忘れていたが、2015年であることを先月のニュースなどで思い出させてくれた。

そんな2015年であるが、日本医師会が2000年に発表したのが2015年 医療のグランドデザインだ。

2015年 医療のグランドデザイン
少子高齢化時代への突入に向け、どう備えれば良いのか、様々な視点で述べられている。ガイドラインでは、市町村単位での国保では保険者機能を十分に果たせない等の課題指摘もなされており、15年の月日を経て、ようやく制度が変わろうとしているのだなぁとしみじみ思った。

ガイドラインの書かれた2000年は、介護保険制度が誕生したタイミングだ。それゆえ、今後の動向なども十分読み切れない時代ではあったと思われるが、2015年に向け、医療・介護需要、必要な医療者数などを推計している点は非常に興味深く読むことができる。推計数値のあたりはずれといった正確性を検証することが目的ではなく、どのようなことを課題としていたかが興味深い。ただ、あまりにも大外れな数値は気になってしまう。保険薬局の数とか「あまり増えないだろう」と述べていたが、実際はその後も伸び続けた。

印象的な一節を紹介する。
今回、われわれが「2015年医療のグランドデザイン」を描くに当たって推計した国民医療・介護費は、厚生省の極めて無責任な医療費予測に対するアンチテーゼの意味も含んでいる。 (第5章 医療・介護サービス費用の将来推計 から引用)
この『極めて無責任な医療費予測』とは、平成6年公表の「21世紀福祉ビジョン」における2025年国民医療費141兆円のことを指している。この141兆円は平成5年の医療費24兆円をベースに1人あたり医療費が年率4.5%伸びることを仮定している。2000年までの経済成長率が4~5%であったことを根拠にしているようだが、平成12年には「社会保障の給付と負担 の見通し」で81兆円に、そして、平成18年には65兆円に見直している。

この金額についても、当たり外れの議論はあまり意味がない。肝心なのは、当時、人口動態から将来の問題を推測し、それに備えるためにすべきこととされた内容を知ることで、現状、どのような状況になっているかである。後期高齢者医療制度に対する提案は、財源を分けることに加え、独自の診療報酬支払制度を構築することにまで言及している。入院医療については、急性期は出来高、慢性期は包括制度にし、国民の合意を形成しながら、医療費の増加に歯止めをかけるべきと述べている。では、実際、医療費の歯止めはできているのだろうか?と考える時に、ニュースレベルでは総額しか分からない事が多い。医療単体で見るのではなく、介護も併せてみるべきということも一層問題を複雑にしている。

国民医療費、初の40兆円超 13年度確定値2.2%増  :日本経済新聞

しかし、いずれにしても、どのタイミングで、どのような課題が認識され、どのような検討がなされたのか理解することは価値がある。ちなみに医師会は2007年、2009年にもグランドデザインを発表している。

このような過去からの経緯、歴史を知っていることは将来の課題を考える時に大事である。これは自分に大きく足りない点であり、自分が尊敬する方々にかなわないことのひとつだ。過去の経緯を知るのに、タイムマシンはBack to the Futureの世界(もしくはドラえもんの世界)にしか存在せず、昔の時代を肌身で感じることはできない。しかし書物などで過去の経緯を読むことはできる。また、このグランドデザインのようにインターネット上で資料を読むことができる時代であり、恵まれている。それだけに努力せねばと痛感する。


Back to the Futureも医師会のグランドデザインも「2015年」が共通だった。

え、まさか、それだけ?? それだけです。 

2015/11/02

救急車の有料化の前に必要な適正利用への啓発活動

先週観なおしたシッコ
救急車・救急外来という貴重な医療資源を大事に使う。日本は急病・怪我をして救急車に乗って病院に運ばれても、医療費や保険の心配をする必要がない。当たり前のようなことだが、世の中、違う国もある。映画のシッコ(SiCKO)あたりを観れば、そのことが理解でき、日本の良さが分かるだろう。(ただ、SiCKOはアメリカの医療に対する批判を目的としたドキュメンタリー映画ゆえ、当然ながらアメリカの医療の良い部分について触れていない。これだけを見て、日本の医療は良い・ベストだ、というのもまた違うと思う)


その救急に関して、国保旭中央病院の情報誌「こんにちは 2015秋号 vol.8」(http://www.hospital.asahi.chiba.jp/information/konnitiha/1510.pdf)の記事「医療最前線 vol.8 災害医療のエキスパートの着任で、救急医療・災害医療の体制を強化」に非常に良いことが書いてあった。(以下、一部引用)
救急車の有料化には議論が必要です。仮に有料化されれば、『お金を出せば使えるなら使おう』という人も出てきますし、一方で『お金がかかるなら具合が悪くても我慢しよう』という人もいるでしょう。後者のようなことになれば本末転倒です。誤解してほしくないのは、『軽症だったら救急車を呼んではいけないのではない』、ということです。軽症なのか重症なのかの判断は自分ではつきませんし、仮に病気としては特に重大なものでなくても、強い痛みなどの症状がある場合には救急車を呼ぶべきです。問題とされているのは、『昼間の外来は混んでいるけど夜間なら待たなくて済むから』とか、『救急車で行った方が早く診てもらえるから』などの、本来の利用目的から逸脱した使い方、いわゆる「コンビニ的」に救急車や救急外来を利用するケースです。
救急車の有料化について、市民向けに分かりやすく問題を書いてくれている。そして、大事なこと・良いことを言っていると思ったのが次の一文。
救急車の有料化で不適切利用を全て解決できるとは考えにくく、重要なのは、行政や消防署、病院などが利用者に適正利用に関する啓発活動をすることだと思います。
啓発活動には、「救急という限られた医療資源を大事に使いましょう」と言うことに加え、住民はいかに現在が恵まれているか理解する、啓発を受け止めるための下地作りが欠かせない。この活動は、医療費の適正化などにも繋がるだろう。

「患者の意識改革も重要」 from 国民会議 - 医療、福祉に貢献するために