■理解しやすい「患者利便性」と理解しにくい「医療の質」を天秤にかける危うさ
昨日の話の続きをしよう。敷地内薬局が増えているのは、「患者利便性」と「医療の質」を比較した場合に、前者が優先されているからだ。
患者利便性の話は難しくない。近い方がよい、いつでも営業してて欲しい、待たない方がよい等々、比較も容易である。
一方、医療の質は、比較が困難だ。かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局を持つと医療の質の向上が期待される・・・と言ったところで、一般人に理解できないどころか、医療関係者すら、かかりつけ薬剤師の意義について、疑問を持っている人がいる。一方で、門前薬局にだって優秀な薬剤師はいるのも事実である。ただし、このような個々人の意見のほとんどは制度を変えるだけのエビデンスではなく、感覚的な意見、感想に近い。
「医薬分業をすすめているから、かかりつけ薬局なんですよ」と言ったところで、患者は、よく分からない医療の質より、よく分かる利便性を優先してしまうのは当然だろう。
これらの問題点について、以前、下記のように述べた。
『医者の帰りに薬局に寄る』 このシステムが続く限り、医薬分業は非効率 - 医療、福祉に貢献するために |
『医者の帰りに寄る』ではなく、調剤薬局にまず行く行動パターンを作らなければ、なし崩し的に門内薬局の開設へ大きく動くことになるだろう。実際、門内薬局の開設が立て続けに公表されているのは、昨日書いたとおりである。
■薬局の利益を賃料・地代で病院にバックする仕組みであるならば強い疑問を抱く
門内に薬局を開設すれば、ほぼ処方せんを寡占できるのだろう。災害医療センターの公募における質問を見れば、その様子が伺える。質問に対する回答書(調剤薬局の設置・運営者の公募)
応募者は、院外処方率や新患数、処方せん1枚あたりの金額などを知りたがっていることが分かる。おそらくこれらの情報があれば、ある程度の財務的な目安が付くのだろう。
この薬局の運営を通じて得る利益の適切性や、この災害医療センターのケースを個別に意図して言うわけではないが、賃料や地代を通じて、病院側が利益を手にすることができるとしたら、これは多くの病院がマネをしたいはずである。
門前に薬局があったところで病院にとって一銭も収入とならない現状は、施設内薬局の開設により、変化が生じている。
■ホテルのレストランとの比較
ホテルでは、レストランを施設内・敷地内に作るケースがある。宿泊者は、ホテル内のレストランで食事をしても良いし、ホテルのレストランが高いと感じたり、好きなメニューがなければ、ホテルを出て、好きなレストランに行くこともできる。完全に宿泊者の自由である。
ホテルによっては、宿泊料金とホテル内のレストランの食事をセットにしたパック料金を設定しているケースもよくあるが、大抵は食事なしのプランもあり、その差額を意識しながら、ホテル周辺のレストランに行くことを考えたりするのは、別に珍しいことではないだろう。
ホテルのレストランと、ホテル外のレストランは、値段や味や雰囲気などの純粋な質で競争している。あえて言えば、雨の日などはホテル内のレストランが有利になるだろう。また、ホテルのロケーションによっては、周辺にレストランのないところもある。そういったところでは、ホテルのレストランの値段は強気に設定できるかもしれない。いずれにしても、利用者が質を評価しながら、自由に選んでいる。
ある知り合いは、目玉が飛び出るような値段のルームサービスを頼む。一分一秒を惜しんでいるときに、食事で無駄な時間を使いたくなく、それなりの味の料理が出てくるルームサービスは、値段なりの価値があると言う。
薬局も、利用者が分かる『純粋な医療の質』で門前や門内の薬局が競争をすればよいのだが、冒頭述べたとおり、多くの患者は利便性しか理解できないのだから、当然の結果として、門前より門内、門内より院内と、より近いところが競争に勝ってしまう。それゆえ、「敷地内に薬局ができる」と知ったら、門前の薬局が猛反発するのだ。
レストランでは、そうはならないだろう。ホテルの前に繁盛している日本料理屋があり、今度ホテル内に日本料理屋ができると知ったとする。おそらく、ホテル前の日本料理屋は、多少危機感もあるかもしれないが(おそらく、それは適切な危機感)、料理のクオリティやメニューの差別化など、競争力を維持する努力をするはずである。
つまり、敷地内薬局、門内薬局について業界団体が反発しているのは、『患者に理解してもらえる「医療の質」の差はない』ということを自ら表明しているような気がしてならない。