2012/07/06

NHKスペシャル 今ふたたび 日本のがん医療を問う

http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0630/index.html

この番組が先週土曜に放送された。

問題点として指摘されていた4点について考えてみたい。

  1. 拠点病院の診療・治療の質の問題
  2. 小児がんを例として、診療病院の集約化
  3. 薬剤の開発支援体制、認可までのスピード
  4. がん登録

1. 拠点病院の診療・治療の質の問題
番組冒頭でセンセーショナルに新潟の事例を取り上げていた。新潟県立がんセンターはレベルが高い一方で、県内の他の拠点病院はレベルが低いところがある、というショッキングな見方ができる(大半の人はそう見たはず)。
この問題は、どのようにして質が決まるのか?といった議論が十分になされていなかったことに、やや疑問を感じた。ゲストとしてスタジオに座っていた国立がん研究センターの新理事長の堀田先生がこれからは『チーム医療』だ、と言っていたが、まさにそうだと思う。
質の高い低いは、1人のスーパードクターが決めるのではなく、チームの重要性がますます増してくることを強調すべきだと思った。
卵巣がんの患者さんが血尿を訴え、婦人科、泌尿器科、内科、外科といった各診療科をたらい回しにされた挙げ句、がんであることが分からなかったという話が紹介されていた。診療科の各先生は、自分の専門領域に強い反面、それ以外はあまり分かっていない現状をよく聞く。患者の訴えと疾患が即結びつくものは良いが、そうでない場合、やはり診断がなかなかつかない。こういった状況を回避するには、チーム医療が不可欠だと思われる。
その上で、番組内でもあげられていた核となる専門医の数が少ない問題は、本当にその通りだと思う。経験を積むには時間も必要であるし、まだまだ体制的な支援が必要な領域だと思う。
そして、質を上げていくには、医療者側のたゆまぬ努力だけでは不十分だと、改めて感じた。患者側も、医療内容を厳しく見る眼を養う必要があり、医療がスムーズに行われるよう努力する必要があるのだと思う。

2. 小児がんを例として、診療病院の集約化
 小児がんは小宮山厚労大臣も、頑張ります、と繰り返していたが、やはり医師が経験を積むためには医療機関の集約化、つまりは、患者の移動を強いることが致し方ないのだと思う。移動を強いるということは患者の家族も含めた支援体制が必要ということで、その辺は厚労大臣も触れていたのでほっとした。個人的にはマクドナルドハウスへの支援を継続したい。

3. 薬剤の開発支援体制、認可までのスピード
腹膜播種の事例が紹介されていたが、日本における薬剤の開発支援体制の問題(所轄官庁が、文部科学省、厚労省等の複数にまたがってしまっている。アメリカはNCIが一気通貫で管理)は非常に的を得た指摘だと思う。グランドデザインを描く段階から、現場に落とし込むところまで、いろいろな人の思惑が入ってしまえば、うまく行かないことも出てくるはずだ。
患者団体の人が、海外で使える薬が日本で使えないことに憤慨している様子が紹介されていたが、なかなか国が早期に認可できない事情も説明すべきだと思った。抗がん剤は、いくら効く・良いとは言え、毒性が強いものが多い。副作用が重篤なものもあるため、慎重にならざるをえない。また効果を判定しようとすると、ある程度長期間を要するのも時間がかかる理由の一つではないだろうか。そして、国の体制的な強化が望まれることはもちろん、日本における非常に大きな問題として、イレッサの薬害訴訟問題がある。早期に認可し使ってみたら、効いた人もいたけど、副作用で亡くなる人も出た。そのとき、イレッサの場合、後者の問題が非常に大きくセンセーショナルに取り上げられてしまった。医師が悪いのか?、薬剤師が悪いのか?、国の認可制度が悪いのか?そんな議論がなされてしまうと、早期承認には萎縮せざるをえないのではないだろうか。
個別個別で議論せず、全体最適をはかるような、そういったバランス感覚のよいオピニオンリーダーや役人が必要なのでは。


4. がん登録
 テレビでは話があがらなかったが、共通背番号制度の導入の議論があっても良かったと思う。個人情報保護の観点と、国民の便益を天秤にかけ、医療の世界だけでも、背番号制度を活用したヘルスケアレコードのインフラを整備してもらいたい。
その情報を活用した医療の質の向上と、国民皆保険制度が、日本のウリとなり、世界の医療の標準化をはかることができると、産業という視点でも価値が高まるように思う。

NHKスペシャル、がん医療に対する切り込み方は、非常に良かった。
一般視聴者が何をしたらよいのか、という点では、不安をあおっただけで具体的な話はなかったが、これから、自分でも少し考えていきたい。