2012/11/09

高齢者はいつまで薬を飲むべきなのか

先日、ご高齢の方々と話をしていたら、次のようにおっしゃった。

「足が痛いのが治らないのだけど、医者から新しい注射を勧められたのよ。でも、高いし、もう自分はこの先大して長くないから、『そういういいお薬はもっと若い人に使って』って断ってきたのよ」

また、別のご高齢の方は、次のようにおっしゃった。

「高血圧なんだけど(薬は飲んでいない)、もう、ちょっと血圧が高いくらいだったら、あんまり気にしなくなってきちゃった。」

お二人とも、90歳を越え、元気な方たちだ。
いったい薬はいつまで飲めば(使えば)いいのだろうか。

■QALYを理解している合理的思考のおばあちゃん
このお二人、前者は、痛みとの付き合い。痛みが解消されるならば、ある程度は薬を使うべきかもしれない。後者は、慢性疾患。いつまで使うか難しい。天に召される日まで使うべきなのか、嚥下機能などの状況によっても変わってくるかもしれない。

財政負担という点では、前者も後者も、負担を軽くする判断をしてくださっている。前者は、「若い人に使って」とおっしゃっていた。これは、医療経済学的には、生活の質の向上度合いと生存年数を乗じた指標(QALY)で判断されることと同義だ。
個々人を尊重し健康維持と疾病治療することは大前提だが、こういった経済的な観点で”効率化を図る”ことは、日本の財政上、避けられない状況になってきている。

■”効率化を図る”タブーへのチャレンジ
医者が経済合理性を持って、治療を止めれば、その分の収入は減る。薬の処方を減らせば、薬局も製薬メーカーも売上が落ち、処方箋を書かなければ、医師も収入が減る。
治療費が下がれば、懐にやさしいはずの高齢者は、1割負担で多少の金額の差は気にしていない。そのような状況では、効率化を図ることはタブーなのかもしれないが、誰かがチャレンジしなければならないのではないだろうか。

海外での事例になるが、EBMに、タイムリーな論文が載っていたので、紹介したい。

この論文によれば、予め定められたアルゴリズムで高齢者の投薬を中断させた群と介入しない群で、死亡率や急性期病院への入院率、薬剤費用等を比較し、中断させた群は良い結果を示したとのこと。様々なコホート研究等を紹介しているが、そのうちの一つに、ナーシングホームでSSRI(抗うつ薬の一種)を12ヶ月以上服用している人たちが、服薬内容のレビューにより、52%の人が休薬に成功したとのこと。

患者と医師だけでなく、薬剤師や家族など、多くの人が関わって決めていくべきだろう。
このような取り組み、日本では受け入れられるだろうか。この概念が取り入れられる際は、第一に、決して高齢者が生きにくい世の中にならないように、第二に、国を支える働く世代の負担が過度に大きくならないように、バランスの取れた制度、仕組みにしなければならない。
有意な議論をしていくためにも、上記のような論文は非常に参考になる。