2013/11/21

病院機能の集約化に必要な「新たな機能」

■「地域完結型」医療は勝手に出来上がるものではない

急性期医療、その中でも特に手厚いケアを提供する7対1看護配置の病床が多すぎると言われている。背景には、かつて「おらが町にも病院を」と日本全国で自治体病院が作られたこともあるように思う。(余談だが、残念ながら自分の生まれ育った町に20床以上のいわゆる「病院」はない)

昨今、医療機能は病院完結型から地域完結型への転換を図るべきという議論がなされている。国民会議でも、その方向の提言がなされており、これは財政負担・金銭負担の軽減の意味合いでも、限られた医療資源を有効に活用する意味合いでも、重要な方向性だろう。効率的な医療提供体制は勝手に出来上がるものではない。効率化には医療機関に対する政策誘導や、一般市民に対する教育・啓蒙活動が必要であり、その大きな方向性を「地域完結型」という言葉が表していると理解している。

■機能集約化の議論は重要。今後、加速していくはず

地域完結型医療の方向性は、日本中の「市民病院」が金太郎飴のように急性期も亜急性期も回復期もやります、精神科病棟もあります、なんてことができなくなる可能性を示唆している。がんの手術は、その地域の真の中核病院でしか診なくなるだろう。脳梗塞になったら、救急車は10分先の最寄りの病院ではなく、t-PAのできる20分先の病院に行くようになるだろう。

日本は国土が狭いから、車で10分行くと隣の市・医療圏なんてことも珍しくないのに、それぞれの市に市民病院があったりする。これは真っ先に集約すべきかもしれない。いち早く集約化を図ることで、患者集約により施設活用度合いが改善したり医師の経験蓄積が進んだり、効率的な設備投資ができたりする。メリットは非常に大きいだろう。また多くの医師は、300床の病院と600床の病院を比較したら、600床の病院を選ぶだろう(実際は中身次第だが、仮に同じだと仮定したら)。

症例集積効果は、医療の質の観点でも重要だ。high volume centerは治療成績が良いという報告も海外ではなされている(例えばhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22116595。ただしあまり関係ないという報告があることも事実)。以前、ブログでも書いたかもしれないが、月1件程度の手術(年10数件レベル)と、週1件(年50件レベル)や週2件(年100件レベル)では、手術チームの動きが違うという話をとあるドクターに聞いたことがある。年100件ではドクターはもちろん、オペ室の看護師やその他スタッフも慣れていて、スピーディーに進むとのこと(慣れゆえの落とし穴もあるらしいが)。

財政的な負担軽減や有限の医療資源の有効活用のためだけでなく、医療の質の維持・向上においても、集約化は、今後ますます重要な論点となることだろう。

■集約化を支える「新たな機能」 ①患者の長距離移動・搬送のための機能

急性期の機能を集約するという議論は、一部の人にとってみたら、身近な病院が急性期を止めることを意味している。今まで車で10分だった病院が30分になるかもしれないし、過疎地域では30分が2時間になるかもしれない。どこまでその制約を許容するかにもよるが、集約化には必ずつきまとう点である。

これを回避、もしくは負担を軽減するには、例えば、ドクターカーや、ドクターヘリがある。すでに北海道ではドクターヘリの運用がかなり増え、需要が供給を上回ってしまうようなことも起きているようだ(出所;北海道新聞【北海道内のドクターヘリ、フル回転 12年度、出動最多1096件 要請重なるケース急増】)。

急性期の集約化の議論と一緒に、ドクターヘリなどの運用についても、これまで以上に積極的に検討すべきだと思われる(一律整備すべきというのではなく、その地域の状況に応じ整備すべき)。


■集約化を支える「新たな機能」 ②患者家族の移動負担軽減のための機能

すでに機能の集約化が進んでいる小児の高度急性期機能について見てみると、下記の小児がん拠点病院の指定を見ても、全国で希少性のある疾患を診てもらえる施設は非常に限定的であり、国も集約を進めていることが分かる。

小児がん拠点病院の指定について |報道発表資料|厚生労働省

これは、患者はかなりの移動を強いられていることが想定される。実際に、自分で見聞きしたレベルでも、山形や新潟といった遠方から、東京の小児専門病院へキャリーバッグを引きながら外来を受診したり、入院のために来ている例を知っており、おそらく、それほど珍しい話ではないのだろう。

たった1週間の子供の入院であっても遠方から来ている場合は親は家を空けることになる(原則付き添う必要ないため、絶対に空けなければならないというわけではないが、子供に付き添う家庭が多い)。片道2時間を毎日往復していたり、入院した子供の兄弟を親類に預け家を空けてきた、なんて話も聞いた。

これは近所の病院で何もかも診てもらえるわけではない、という機能集約化の弊害だろう。この苦労を軽減する解決策のひとつが、こども病院に付設される「マクドナルドハウス」のような施設だ。

公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン

病院のそばにこういった機能・施設があることで、家族が1週間そこで生活しながら病院に通ったり、外来での宿泊先で利用したり、いろいろと融通が利くようになる。これは別にマクドナルドハウスでなければ困るというものではない。病院の隣にホテルがあればよいのかもしれない。実際、アメリカでは病院の隣にホテルがあったりするところも多い。下のGoogle Mapsのストリートビューはほんの一例だが、シアトルにあるVirginia Mason Hospitalでは、救急の入口の脇に「INN」の看板がある。
SeattleのVirginia Mason Hospital (クリックすると画面が開きます)
日本での入院治療はまだまだ長期にわたることも多い。ホテルは何かと患者家族の金銭的負担が大きい可能性もあるため、集約化の議論における論点の1つに、どのように負担を軽減するか、というのがあっても良いのではないだろうか。