近未来的な夢物語を言えば、ある医療機関がモニター類の革新的な高度化を図り、現場の負担を大幅に軽減し、少ない人手で医療安全・医療の質の向上を実現したとする。しかしながら、現行の評価制度が続くならば、看護師の数を減らすと収入が減ってしまう。質の向上を実現していたとしても、である。
このような「アウトカム」よりも「配置」に重視を置いた評価制度は、革新的な技術導入に対する意欲を低下させるだけでなく、近年極めて煩雑さを増す各種記録の義務付けに対し、看護配置の多い病院がそれを受け入れている原因にもなっていると思う。(アウトカムの達成に必要なのは記録でないが、記録に必要なのは余裕のある配置だから)
より良い医療を受けるためには(より良い医療提供を促すためには)、配置よりもアウトカムに重きを置くべきである。
昨日からの話の続きになるが、現実的には、看護必要度の評価についてA項目とC項目により重きを置き、徐々に7対1と10対1をシームレスにしていくのが良いと思っている。シームレスにする方法の例として、次の2つを挙げる。
①看護配置に重きを置かない「短期滞在手術等基本料3」の対象拡大
7対1でも10対1でも、診ている疾患・治療が同じであれば、診療報酬は同じにすべきである。参考になるのは短期滞在手術等基本料3だ。これは定められたいくつかの手術を行い5日以内の入院であれば、どの看護配置の病棟で入院しても、同じ診療報酬になる制度だ。つまり看護配置はまったく関係ない。つまり、このような疾患・治療を拡大していけば、実質的に看護配置の重みは薄れていくことになる。②看護必要度の評価を反映したDPC点数の設定
DPC制度では、医療資源投入内容に応じて階段状の点数が設定されている。現在、Hファイルとして看護必要度の情報を収集していることを踏まえれば、各疾患・治療に応じた看護必要度の情報が得られているはずである。この看護必要度の情報に基づき、階段状の点数を上下させてみてはどうだろうか。「7対1だから係数で10%上乗せ」ではなく、「○○の疾患は看護必要度の評価が高いから点数にXX%上乗せ」というようなことになれば、看護配置は関係なくなる。このような疾患を徐々に拡大してくことで、看護配置の重みは薄れていくことになる。この2つの案のように看護配置に重きを置かない評価制度に移行するのであれば、粗診粗療を避ける仕組みが重要になる。再入院などの評価や、医療安全に対する評価などを充実させることが不可欠だろう。患者が求めていることは、他病院よりも看護師が多いことではなく、他病院よりも良い医療が受けられることである。これは現状看護師の教育等が充実している病院を評価することにも通じると考えている。現状は「配置」に極めて重きを置いているが、医療安全等の対策はかなり実力差があると思っている。このようなことを評価しなければ、患者がより良い医療を受けることはできない。
『「7対1を減らすこと」が診療報酬の適正化につながり、国民がよい医療を受けられる』というロジックは一見正しいことのように思う。しかし、7対1が減らない以上、別のロジックを考える必要がある。それにはアウトカムを重視した報酬制度に徐々に移行していくことで、医療機関がさらなる質の向上を意識し看護の充実(≠看護配置の充実)を図ることになるだろう。結果的にIoT等の技術的な革新を活かすことにもつながるはずである。