2012/12/04

書評: 健康増進外来

生活習慣病に対し、医療者は、一体、何ができるだろうか?
例えば、糖尿病であれば、血液検査をし、糖尿病薬を処方することだけではない。薬物療法はもちろん、食事指導・栄養指導や、運動療法など、様々な取り組みが考えられる。これは、誰しもが同じ方法で通用する話ではなく、その個人個人に対し、最適な方法を組み合わせることが必要となる。

そのとき、どういった診察を行うのがよいのか、とことん突き詰めた結果が、健康増進外来という形で実を結んだのだと思う。看護師が中心となり、患者個々の生活習慣と向き合う。指導するのではなく、「患者自身が行動目標を作り、実行すること」を支援する。このようなスタイルは、通常の外来診療では時間的な制約もあり現実的でない手法である。

さらに糖尿病の管理料(生活習慣病指導管理料)だけで、健康増進外来の収入を賄おうとする姿勢は、収益面で苦しい医療機関としては、なかなか選択しにくい判断だと思われる(患者の数がある程度いるならば、もっと効率的、収益性の高い医療提供方法がある)。
にも関わらず、健康増進外来を続けていることは、本質的に患者に対する価値が最も高いという信念があるからに違いない。また、関係している医療者のコメントが、随所に引用されているが、患者と向き合う機会は、大きなやりがいになっていることが伝わってくる。

健康増進外来―理想の糖尿病外来をめざして健康増進外来―理想の糖尿病外来をめざして
佐藤 元美 松嶋 大

提言―日本のポリファーマシー (家庭医・病院総合医教育コンソーシアム) 日本プライマリ・ケア連合学会基本研修ハンドブック 驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく) ささえる医療へ (HS/エイチエス) 新・総合診療医学 (病院総合診療医学編)

効率的な医療とは、医療機関にとっての効率性を指しているのであれば、患者が置き去りになっている可能性があることを再認識するきっかけとして、この本は非常に大きな気付きを与えてくれた。

実は、先週、「健康増進外来」を実施している医療機関を訪問していた。そこでは、自費診療で健診センターの1メニューとして提供していた。その理念は素晴らしく、外来の内容も病院の持ち出し部分が多く、意気込みと熱意を感じるメニューになっているのだが、開始依頼、3年で10数件しか患者がいないということで、病院の思いは患者まで届いていないようであった。

この本では、外来の時間を19時からの1時間としたり、仕事をしている人でも受けやすいように配慮していたり、看護師が患者ごとに専任で固定されたり、継続しやすい環境を作っているとのことであった。そういった患者への歩み寄りも必要かもしれない。

ただ、何よりも、健康増進外来は、生活習慣病に対する取り組みとして、大きな可能性を感じる。それだけに、現状の薬物療法が前面に出てくる医療は、患者によってはベストでないことを、多くの人に理解してもらう必要性を強く感じた。医療費の価値ある使い方に、医療者も患者も、もっともっと真剣に考えなければならないように思う。

実は、この本、厚さ(ページ数)の割に、ちょっと高い。でも、中身は値段をはるかに上回る価値が詰まっている。オススメの一冊だ。