2012/12/21

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.1

Part.1 包括払い制度は誰にとってメリットがあるのか

■値段は”ほぼ”一緒

国民皆保険制度の日本において、自由診療でなく、保険診療を受ける以上は値段がほぼ一緒である(厳密には異なる点は後述)。どうせ値段が一緒なら、立派な病院に行きたいのが正直なところだし、生死を賭ける大病ならば、腕利きの医者に診てもらいたい、治してもらいたいと思うのは誰しも自然なことだと思う。
ただ、どこの病院がよいか、客観的に分かるものがないゆえ、患者はクリニックで紹介された病院に行ったり、週刊誌や新聞、本などで特集される病院ランキングを参考にしたり、テレビ番組の名医・スーパードクターの紹介に心動かされたりする。患者が限られた情報で思い描く理想の病院が身近なところにあればよいが、無かった場合には、病院探しの旅に出ることとなる。病気という苦しみを抱えた上に、病院探しという負担を強いるのは、精神的にも肉体的にも厳しいことだ。しかも、この旅、結果が良ければまだよいものの、結果が約束されているわけではないため、病院探しの旅に尽力したものの思うような結果に至らないこともままあるのが現実だ。

■入院費用は徐々に包括払いの病院が増えている

あまり馴染みのない話かもしれないが、現在、日本では急性期病院の一部(病床数に占める割合では53.1%)が、DPC/PDPSという包括払い制度となっている。



DPC病院数と一般病床に占めるDPC病床割合
(出所: 厚生労働省 H24.3.28 中医協資料を元に作成)

この包括払い制度は、虫垂炎であれば、1~3日目35,250円(1日あたり)、4~5日目23,760円(1日あたり)といったように、その病院で実施する細かな治療内容とは関係なく、入院料が定められている。DPC/PDPS制度でない出来高払い制度は、ベッド代、点滴代、検査代といったように実施した治療それぞれで点数(料金)が計算され、請求される制度である。包括払いでは、あらかじめ点数が決められているため、なるべく無駄な治療はしないように努力し、退院させようとする。一方で出来高払いは料金を上げるためには多少過剰な治療をしがちである(やりすぎるとチェック機関からダメ出しを食らったり、一部治療の請求自体が無効になったりするが)。

DPC制度概要(出所: 厚生労働省 H22.10.26中医協資料 DPC制度の概要と基本的な考え方)
この包括払い制度自体は、どの病院も同じで、前述の虫垂炎であれば、どの病院も、1日目35,250円は共通である。しかし、各病院の持っている機能や人員体制により、「係数」が定められていて、この1日35,250円に、おおよそ1.05~1.5くらいの係数がかかる。すなわち、サービス税が税率5%の病院と税率50%の病院があるのだ。
サービス税の税率は、簡単に言うと、看護師の配置や、地域の診療所・クリニック・病院との連携体制等の様々な病院の「枠組み」を評価したものと、病院がどういった疾患を扱っているか、効率的な入退院をさせているか等の病院の「機能」を評価したものにより定まる。

※サービス税と喩えることが不適切と疑問を呈される方もいるだろうが、医療従事者の苦労が適切に報酬に反映されるためには「サービス税」と表現することが良いと考えている


■患者はその税率にふさわしいサービスを受けたのだろうか??

1つのケースを考えてみよう。とある地方の中核病院。がんも心疾患も脳卒中も何でも診てくれる地域の要的な病院。そこに3人の患者が入院したとする。

Aさん。心臓のカテーテル検査(海外では日帰り検査が一般的な国もあるが、日本では入院することも多い)。日帰りでも平気な位だから、入院と言っても、患者は万が一に備え安静にしているくらいで、無事検査が終われば、退屈な入院生活(検査翌日に退院のところが多い)が待っている。実際、食事もトイレも不自由なくでき、検査翌日、退院を迎えた。
Bさん。同じく心臓のカテーテル検査。ただ高齢で認知症もあり、食事もトイレも、自分一人では何もできない。検査自体は入院した日に終わったものの、翌日退院するまで、看護師は度々呼ばれ、少々手を焼いた。
Cさん。胃がんの胃を切除する手術。手術前日に入院し、執刀医と麻酔科医から説明を受け、看護師から説明を受け、翌日、手術に。麻酔から覚めるとベッドの上。無事終わったことを聞き、ホッとするも、身体には点滴と導尿用のカテーテルが繋がっている。麻酔が切れたのか痛みがキツくなると看護師を呼んだり、何とか落ち着いてきたのは術後3日目くらい。食事も徐々に始まり、点滴が外れ、2週間弱の入院生活が終わり、退院に。

この3人。最後に支払うときのサービス税(係数)は、どうなるのだろうか。実は、サービス税率は同じである。サービス税率は病院ごとに設定されるため、同じ病院であれば、変わらない。
Cさんは病院側の負担が大きかったように思うが、病気ごとにどの患者も同じような経過をたどる前提で1日毎の点数が設定されているため、胃がんの手術は、そもそもの1日あたりの点数自体が高く設定されている(胃がん全摘術であれば、1~10日目26,610円、11~20日目19,670円、21~33日目16,720円。心臓カテーテル検査は1・2日目は34,900円、3日目21,240円、4・5日目18,050円)。そのため、病気ごとの違いは、サービス税率で調整する必要はない。
AさんとBさんが一緒というのは、納得できるだろうか。残念ながら、同じ税率(係数)で、AさんはBさんと比べれば大した看護も受けていないがBさんと同じ金額を負担しなければならず、一方、Bさんは割安と感じるかもしれない。

このサービス税と喩えた医療機関別係数。医療機関側の観点では、効率改善のインセンティブや、有する機能に対する評価に基づいている。(下記、抜粋資料を参照。図中のⅠ、Ⅱは機能評価係数Ⅰ、Ⅱのこと)
医療機関別係数の意味合い(出所: 厚生労働省 H24.6.20 中医協資料「DPC/PDPSの基礎係数について」より抜粋)
つまり、この係数(税率)は、そもそも個人個人の診療と合致しない性格のものである。とはいえ、負担する側にしてみれば、たまったものではない。

包括制度。医療費増加を抑制し、効率的な医療を提供する観点では良い制度だが、患者視点で考えると諸手を挙げて賛成できる内容ではない。(なお、包括制度が患者視点での不公平さを助長しているだけで、根本的な問題は7対1入院基本料にあるという点は別の機会に改めて検討してみたい) ただ、莫大な医療費を負担するからには、その内容を理解し納得して費用を負担し、よりよい医療が実現することを後押ししなければならない。

そこで、以降4回に分け、分析等を交えながら、どうしたら、より良い制度になるか、患者が取るべきアクション、病院が取るべきアクションを考えていきたい。



患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度

Part.1 包括払い制度は誰にとってメリットがあるのか(今回)
Part.2 患者視点が置き去りになった病院群の設定
Part.3 DPC病院群 2群、3群が明暗を分ける現実的なシナリオ
Part.4 よりよい医療を期待して、患者、病院にできること

内容をまとめたレポートはこちらからどうぞ⇒http://www.meditur.jp/our-reports/