Part.4 よりよい医療を期待して、患者、病院にできること
これまで包括払い制度と、DPC病院群が今後の急性期医療に与える影響を考え、患者視点が足りないことや、地域の中核病院が人材確保などに苦しむ可能性があることを述べてきた。最後、Part.4では、よりよい医療を創るために、DPC病院群というひとつの切り口から、患者、病院にできることを考えていきたい。
■実績要件への患者意向の反映
Part.2で見てきた4つの実績要件は、患者視点ではなく、大学病院を評価するために、大学病院に準じた病院を選ぶ視点で定義されていた。そこで、どのようにしたら、患者視点であり、患者の意向を反映させることができるか考えてみたい。
患者・一般市民によい病院とはどのような病院ですかと聞くと、「病気が治る」、「無事退院(転院、施設に入居)できる」、「病気・症状の悪化が止まった、ゆっくりになった」などの期待値の高い、抽象的な答えが返ってくる。実のところ、病気が治るか、治らないかは、病院に来るまでにある程度決まってしまっている。例えば、がんであれば、初診時の進行度合で、治療成績は大きく変わるため、単純な比較は難しい。よい取り組み事例として、以前ブログでも紹介した全がん協が公表したがん5年生存率は、患者背景をある程度考慮した比較になっており、A病院とB病院を比べられる可能性が高い事例である。
このような指標を実績要件に入れることが難しいことは重々承知しているが、患者の意向として、こういう取り組みを理解し、支えることが重要なのではないだろうか。患者の具体的なアクションとしては、まず、こういった指標を積極的に公開している病院は「良い病院」であることを認識するだけでも良い。さらにそれらの指標を比較し、自分にとって良い病院が何か判断できるような理解力をつけることができればベターだ。少なくとも、世の中にあふれているランキング本を鵜呑みにして、ランキング上位の病院に行っているうちは、患者が実績要件を変えることはできない気がする。
指標を公開している事例として、Part.3でも紹介した済生会熊本病院は主な指標はもちろん、治療成績まで開示している(参考:済生会熊本病院 外科 診療実績)。また、聖路加国際病院も、Quality Indicator(医療の質)を2007年から継続して開示。書籍も出版し、他病院の参考となっている(参考: 聖路加国際病院 Quality Indicator)。他では、聖隷浜松病院(参考:聖隷浜松病院 クリニカルインディケーター)、荻窪病院(参考:荻窪病院 Quality Indicator)など、積極的な病院においては、非常に充実した開示を行なっている。
「開示すること」が1つ目のステップであるならば、次は、「比較・評価すること」である。1つ目の開示している内容が明確な算定条件・前提条件に基づいているならば、比較・評価することで、よりよい病院というものが見えてくる。条件を揃え比較している事例としては、医療の質の評価・公表等推進事業が挙げられる。下記表には平成22年度~24年度までで、採択されたグループが表されている。
厚生労働省 医療の質の評価・公表等推進事業 実施団体 |
国立病院機構 急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション開始率 (出所: 国立病院機構 平成23年度 医療の質の評価・公表推進事業における臨床評価指標を元に作成) |
このように客観的な数値、指標により良し悪しを判断できるように努力している透明性の高い病院は、患者から見て『良い病院』であるということを強く意識することが非常に重要である。日本の医療は、国民皆保険制度、フリーアクセスであるがゆえ、患者側は、このような透明性の高い病院は「良い病院である」と評価することが、日本の医療の質の向上に寄与できる道である。
その上で、指標の比較により、具体的な成績が良い病院が、メジャー入りの実績要件を満たすか、もしくは何らかの恩恵を受けるような制度ができることが望ましい「患者視点」を反映した制度構築なのではないだろうか。
■適正な医療費負担による医療の質の向上
病院の透明性が高まってくると、病院の良い点、悪い点が客観的に見えてくる。良い病院、良い医療サービスには、もっと費用負担してもよいと思う人がいるはずだ。医療費は高齢化と医療技術の進歩により年々増加しており、財政的な危機に繋がっている。どうやって医療費の増加を抑制させようか、行政はあの手この手を考えているわけで、DPC/PDPS制度も、効率的な医療を促すことで医療費を抑制させる策のひとつである。ただ、医療費増加を抑制させようと取り組んでいる一方で、がん患者などに話を聞くと「一生に一度のことと思えば、いくら払ってもよいから、良い医療を受けたい」「下手な健康食品にお金をつぎ込むくらいなら、信頼できる医者に面倒を見てもらい、お金を払いたい」といった声も聞く。患者が払いたいと思っても、一部の自由診療を除けば、払う土壌が整っていない。そこで、病院・医療の透明性が高まってきたならば、それらの情報をもとに、患者が払いたい・評価したい病院・医療に対し、診療報酬を厚くするような議論ができないだろうか。これまで診療報酬は、医療行為に伴う原価に基づき点数が設定されてきたものが大半である。それゆえ費用対効果の議論をしにくい環境になっていた。本当の意味での「患者の声」が届く診療報酬制度にするためには、病院・医療の透明性が不可欠である。
「患者の声」が届く診療報酬制度に変わった場合、医療の質の向上スピードが増すと考えている。今は、感染防止対策加算のような、人員配置とカンファレンス開催等の実績により、加算がもらえるといった、ストラクチャーに対する政策誘導的な診療報酬へのインセンティブが多い。これを、感染対策が取られ、結果、院内感染等の発生率が低く抑えられたという評価・アウトカムに対し、報酬のインセンティブを与えることができれば、質の向上に対し、より積極的に取り組むようになるはずである。この仕組みを有効なものにするには、患者が医療の質に興味を持つことが肝ではないかと考えている。
■かかりつけ医・在宅医療の重要性認識と、急性期医療の効率化進展
医療の質の透明性が高まってくると、ますますその背景にある「病院の医療」だけではない部分が見えてくる。例えば、褥瘡の発生率で考えてみる。前出の国立病院機構の資料から、病院別の褥瘡の院内発生率分布を下のグラフに示す。国立病院機構 高齢患者(75歳以上)におけるⅡ度以上の褥瘡の院内発生率 (出所: 国立病院機構 平成23年度 医療の質の評価・公表推進事業における臨床評価指標を元に作成) |
■おわりに
急性期医療の質の向上は、病院が透明性を高め、患者もそれを理解する力と病院が透明性を高めることに対する適度なプレッシャーを与えることが重要である。透明性を高めることにDPC/PDPS制度を用い、アウトカムの向上させることにDPC病院群の仕組みを用いることはできないだろうか。患者視点が置き去りになっているDPC/PDPS制度、DPC病院群は、病院経営のテクニックとして重要になりつつあるものの、真に価値のあるものに昇華させるためには、患者・一般市民が、まず現在の医療がどうなっているのか、もっともっと関心を持つことが肝要である。
(終)
患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度
Part.1 包括払い制度は誰にとってメリットがあるのか
Part.2 患者視点が置き去りになった病院群の設定
Part.3 DPC病院群 2群、3群が明暗を分ける現実的なシナリオ
Part.4 よりよい医療を期待して、患者、病院にできること(今回)
内容をまとめたレポートはこちらからどうぞ⇒http://www.meditur.jp/our-reports/