2012/12/24

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.2

Part.2 患者視点が置き去りになった病院群の設定

■90病院がメジャーリーグ入り

そんなニュースが医療界を駆け巡ったのは、2012年度末のことだ。一般市民からしたら、DPC制度すら馴染みがないのに、病院がⅠ群(大学病院)、Ⅱ群(大学病院本院に準じた診療密度と一定の機能を有する病院)、Ⅲ群(それ以外の病院)に分かれたと言われても、さっぱりピンと来ないだろう。

DPC病院群の内訳(出所: 厚生労働省 H24.4.25 中医協資料)

あるDPC病院Ⅱ群に指定された医療機関のホームページ

Ⅰ群は大学病院本院だけで、実質、雲の上、別世界であるがゆえに、大学病院本院を除いたDPC病院1,400病院強のうち、90病院が入れたⅡ群が「メジャーリーグ」、Ⅲ群が「マイナーリーグ」とでも言えばよいだろうか。今、この約1,400病院では、Ⅱ群「メジャーリーグ」を目指した(すでにⅡ群のところは維持する)熱い闘いが始まっているとも言われている。(余談だか、1、2、3という名称は、誰もが、Ⅰ群が良く、Ⅲ群が悪いと受け取る。各群は良し悪しではなく提供機能が違うことを明確にしたかったはずなのに、名称が仇となっている気がしてならない。昨年度の議論途中まで残っていた名称である、大学病院群、高密度診療病院群、急性期病院群、といった感じで、甲乙つけがたい名前にしておけば、こぞってⅡ群を目指したりすることはさほど起きなかったのではないだろうか。)

闘うには訳がある。Part.1で述べた係数(サービス税率)、Ⅱ群になった施設は、Ⅲ群に比べ少しだけ加点がなされていて(基礎係数に差異があり)、ゆくゆくは、この加点が大きくなる予定なのだ。各病院が、この加点だけを理由にⅡ群を目指しているわけではないが、加点はⅡ群を目指す大きな理由のひとつだと思う。

この熾烈な闘い、各病院はどのようにしてⅡ群(メジャーリーグ)を目指しているのだろうか。
まずは、その背景となる、2群、3群の明暗を分けた基準を見ていく。



■医師の数が多いところほど有利な基準
【実績要件1】診療密度 <1日当たり包括範囲出来高実績点数(全病院患者構成で補正)> 
当該医療機関において症例数が一定以上の(1症例/月;極端な個別事例を除外するため)診断群分類に該当する患者について、当該医療機関が全DPC対象病院の平均的な患者構成と同様な患者群に対して診療を行ったと仮定した場合の1日当たり包括範囲出来高実績点数を算出。
下の表を見ると、診療密度は、検査・画像・投薬・注射・処置の各医療資源と正の相関が強く、医師数とも強い相関がある。患者からしてみれば、医師が多いのは何かと安心だし、悪いことではないが、医療資源の投入量が多いことは、単純に良い悪いの指標とはなり得ないのではないだろうか。
診療密度(1日当たり包括範囲出来高点数)、医師密度及び診療報酬算定区分相互の相関係数(診療密度に影響している診療報酬区分を評価)

【実績要件2】医師研修の実施 <届出病床当たりの医師数(免許取得後2年目まで)>
基幹型臨床研修指定病院については、各医療機関が厚生労働省に報告している臨床研修医数(※)と地方厚生(支)局へ届け出ている病床数(様式3の「医療保険」総数(届出病床総数))により算出。 協力型臨床研修指定病院については、平成23 年11 月に調査した臨床研修医数(年度単位の常勤換算値)により算出。
(※)「H23 研修医受入及びH24 募集意向調査」平成23 年4 月実施
続いて、医師研修は日本の医療の持続・維持には必要不可欠であり、非常に重要なことである。研修医が多いことは、医療機関にとってみれば、人材育成の負担がかかっており、何からのインセンティブが欲しいところだろう。
ただ、患者視点では、「ベテランの人に手術してもらえるかと思ったら、研修医だった」なんていうネガティブな話も聞いたことがある。それゆえ、研修医の育成に関する費用負担は、患者がするのではなく、もっっと大きな器で考えてもらいたいと思ってしまう。これが要件になっていることは、病院のインセンティブとしては理解できても、患者負担を強いることとなる基礎係数(医療機関別係数の一部。本論でいうところのサービス税の一部)の加点条件になることは、理解し難い。

【実績要件3】高度な医療技術の実施(以下3つのすべてを満たす)
 (3a):手術1 件あたりの外保連手術指数(協力医師数補正後) 
 (3b):DPC 算定病床当たりの外保連手術指数(協力医師数補正後)
 (3c):手術実施件数
「(3a):手術1 件あたりの外保連手術指数(協力医師数及び手術時間補正後)」は、外保連手術指数(※)を「(3c):手術件数」で除して算出。
「(3b):DPC 算定病床当たりの同指数(協力医師数及び手術時間補正後)」は、外保連手術指数をDPC 算定病床数で除して算出。
「(3c):手術件数」については、外保連試案第8版において技術難易度が設定されている手術を集計対象手術とした。ただし、点数設定から同等の技術と考えられるものも集計対象とした。
(※)外保連手術指数の算出方法
 ● 外保連手術指数は、外保連試案(第8 版)に記載されている、協力医師数を含めた時間あたりの人件費の相対値(下表参照。難易度B、協力医師数0人を1としてそれぞれ相対化)に手術時間数を加味して各手術に重み付けし、集計対象手術それぞれについて合算し、算出。
次に、手術の評価。手術実施件数が多く、難易度が高い手術を多く実施している医療機関は、患者視点からも信頼に値する情報だ。しかし手術の良し悪しは不明であり判断ができないことと、(3a)1件あたりの平均値に何の意味があるのかが不明である。患者からしたら、胃がんの手術も、ポリペクの手術も実施してくれて、何の問題もないし、ポリペクの件数が多くても文句は無い。平均で評価するより、難易度の高い手術も実施できるか、できないか、といった評価の方が適切だと思う。
余談だが、今回、Ⅱ群に入れなかった病院の多くは、この(3a)の基準がクリアできなかったとのこと。心臓外科(難易度の非常に高い手術)に強い病院なのに、平均で評価してしまうと、手術件数が多いだけに、基準値をクリアできなかった模様だ。これは誰が得をする評価基準なのだろうか。甚だ疑問である。

【実績要件4】重症患者に対する診療の実施
複雑性指数(重症DPC補正後)

全DPC 参加病院データの平均在院日数より長い平均在院日数を持つDPC で、かつ、1 日当たり包括範囲出来高実績点数が平均値より高いDPCを抽出。これらのDPC について複雑性指数を算出。
出所:厚生労働省 H23.11.30 中医協DPC分科会 医療機関群の具体的な要件について(2)
この要件は患者視点で理解が難しい。そこで、厚生労働省H23.11.7の中医協の分科会資料から抜粋した文言を見てみよう。その意図を読み取ることができる。

複雑性指数は DPC 毎の 1 入院あたり包括範囲出来高平均点数の多寡を反映する指標であることから、医師配置を前提とするような重症患者を重点的に評価するため、検査や薬剤等の診療密度(1日当たり出来高点数)がより高く、かつ、より長期に及ぶ加療(在院日数が長い)が必要な患者(DPC)を重点的に評価するような補正(※)を実施。
※  具体的には、全 DPC データの平均在院日数より長い平均在院日数を持つDPC で、かつ、1 日あたり平均出来高点数が全 DPC データの平均値より高いDPC に限定して(それ以外の DPC は 0 で補正して)算出。(出所: 厚生労働省 H23.11.7 中医協資料
 

つまり、医師配置を評価する意図のようだ。前述の実績要件1と重複感は否めない。この評価方法による基準値をクリアした病院は、重症患者を受け入れてくれる病院である、という実態を表していればよいが、聞いたところでは、この基準値は多くの病院がクリアしていた模様で、メジャーかマイナーかの分岐点にはならなかったようだ。

さて、実績要件1~4までトータルで見た時に言えることは、医師数の多いところが有利な評価になるような基準が多く、結局のところ「大学病院に似た病院探し基準」であって、「良い病院探し基準」ではない、ということだ。大学病院に似た病院に与えるインセンティブならば、その病院の患者に負担させることも然ることながら、社会的に負担することも必要であると感じるだけに、DPC病院を群で分け、係数で差をつけることには多少疑問を感じる。

■医療機関側が感じる虚しさ、理不尽さ

地域における医療の要的な病院にとって、今回Ⅱ群に入ったところは良いが、落ちたところは僅かとはいえ係数で差がつくことや、そもそもの「メジャー落ち」したというネガティブな印象から、大きなショックを受けているのではないだろうか。患者からしたら、Ⅱ群でもⅢ群でも、どちらでも良いことなのだが、当の医療従事者は結構大きな問題に捉えている。
実績要件をクリアできなかった典型的な病院として、がんセンターが挙げられる。がんセンターと言えば、地域におけるがん診療の拠点となっているところが多いはずなのだが・・・。

DPC病院におけるがんセンター※のⅡ群、Ⅲ群
(出所: H24.8.21 中医協DPC分科会資料の施設概要表を元に作成)
※専門病院入院基本料か特定機能病院入院基本料を算定していて病院名称に「がん」が含まれる施設
※病床総数は医療保険対象病床
上の表のとおり、Ⅱ群は3施設のみで、それ以外はⅢ群になっている。なぜがんセンターはメジャー入りできなかったのか。各病院の詳細な状況はわからないが、次の中医協DPC分科会の資料がその理由を示唆している。



出所: 厚生労働省 H24.8.21 DPC分科会 基礎係数・機能評価係数Ⅱの次回改定対応に係る基本方針と
今後の検討課題について

Ⅲ群になったがん専門病院が黄色の○でプロットされているのだが、4つのグラフから、医師数以外は、Ⅱ群と遜色ない実績・内容となっていることが分かる。つまり、研修医が少ないことだけが理由でメジャー入りできなかった、という病院が多いことが推測される。がんセンターは診療科目や救急医療の体制的な問題で初期研修医を受け入れていないところもあるため、そもそも、この基準でメジャー、マイナーの区分けをされてしまうと、どれだけ地域に貢献し、高度ながん医療を行なっていようともメジャーの夢は絶たれてしまっているのが実情だ。僅かとはいえ収入に差が出る仕組みなだけに、こういったがんセンターは虚しさを感じているのではないだろうか。

次に、病院規模を基準に考えてみる。
病床総数800床、DPC病床数700床以上の施設(特定機能病院を除く。病床総数の多い順)
(出所: H24.8.21 中医協DPC分科会資料の施設概要表を元に作成)
※病床総数は医療保険対象病床
病床総数800床以上で、かつ急性期主体の病院(DPC病床数700床以上)、大学病院を除くとなると、それはいわゆる大病院である。上の表は、おそらく誰からも疑問を持たれない大病院が並んでいるはずである。そんな大病院は、当たり前のようにメジャー入りしているかというと、そんなこともなく、約6割の病院はマイナーリーグに留まっている。結果から分かることは、これらのⅢ群の大病院は、何かしら実績要件を満たせなかったということになるが、一体何がクリアできなかったのだろうか。前出の全医療機関群別にプロットした4要件のグラフを見ると、診療密度と1件あたりの外保連手術指数は、700、800床以上の病院でもクリアしておらずⅢ群の印でプロットされていることが分かる。大病院とは言え、診療密度、1件あたりの手術指数は単純にクリアできるものではないのだ。

この現実は、「大病院ゆえ、その地域の医療を一手に引き受け、診療密度の低い患者も受け入れ、難易度の低い手術もする」、そんな実情なのではないだろうか。もしそうであるならば、これは患者から一番評価されるべき医療を提供している病院が、適切に評価されていない可能性がある。病院関係者からしたら、日々寝る間を惜しんで患者を引き受け、医療に貢献しているのに、「あんたらの病院は軽症患者も多い」と難癖をつけられたような結果で、非常に理不尽なのではないだろうか。

■うちの県にはひとつもⅡ群の病院がない

次に地域性を見てみる。
都道府県別 Ⅱ群 施設数
上の図で濃い黄色の県は、Ⅱ群の病院が1つもないことを示している。関東を見ると、北関東はⅡ群施設が少なく、南関東は多い。また西日本では、北陸・山陰が少なく、山陽が多い。この傾向で言えば、人口の多いところ、太平洋側はⅡ群の病院が多くなっているように見えなくもない。ただ、東北では秋田、宮城はないものの、青森は3病院、新潟は4病院あるといったように、明確な傾向は見えてこない。

都道府県別 Ⅰ群+Ⅱ群 施設数
Ⅰ群(大学病院本院)を加えても、印象は変わらない。北海道、南関東、東海、阪神、福岡の病院数が多くなっているものの、下の図にて、人口あたりのⅠ群+Ⅱ群の病院数を比較すると、これらの地域が、突出して多いわけではないことが見て取れる。

人口あたりⅠ群+Ⅱ群施設数
人口あたりのⅠ群+Ⅱ群の病院数は高知県(3病院)や青森県(4病院)が多くなっているが、都道府県別の状況を眺めているだけでは、この病院数が多い2県と、それ以外の他都道府県との違いを見出すことは困難である。

ここまでで、DPC病院群の2群の実績要件は、医師の多い病院を有利に判定し、かつ軽症患者をあまり見る必要のない病院が評価されていて、地域的な特性はないことが見えてきた。このような理解できる部分もありつつも、理解できない部分もある要件によって、メジャーかマイナーが決まってしまう制度。この制度によりⅡ群病院、Ⅲ群病院はそれぞれどういった扱いを受けるのか、その受ける扱いは患者にとってメリットがあるのか、考えていきたい。


患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度

Part.1 包括払い制度は誰にとってメリットがあるのか
Part.2 患者視点が置き去りになった病院群の設定(今回)
Part.3 DPC病院群 2群、3群が明暗を分ける現実的なシナリオ
Part.4 よりよい医療を期待して、患者、病院にできること

内容をまとめたレポートはこちらからどうぞ⇒http://www.meditur.jp/our-reports/