2015/09/30

RESAS 医療福祉版は12月中旬リリース予定

今月中旬に開催された地方創生☆RESASフォーラム 2015の資料を見ていたら、12月中旬には医療福祉産業についてもサービスがリリースされるらしい。

地方創生☆RESASフォーラム 2015
「RESASの第Ⅱ期開発(1次リリース分)の説明」資料より引用(赤丸は弊社記載)

使い勝手のよい分析機能が登場してしまうと、自分の仕事が無くなってしまい困る・・・という笑えない冗談はさておき、楽しみだ。


2015/09/29

過ぎたるは及ばざるが如し。歩くのはほどほどに??

一昨日の日経朝刊。

一病息災が健康のコツ? 病気と付き合い、そこそこ元気  :日本経済新聞

記事の中で、ウォーキングの話題に触れていた。
滋賀県長浜市は昨秋「ながはま健康ウォーク」を実施した。457人の市民が181のチームを構成し、10日で40キロ歩くことを目標にした。達成率は91%と非常に高く、「メンバーと励まし合うことが効果的だった」(野間教授)。
最近、このような自治体主導の取り組みが活発になっている。ヘルスケアポイントを意識しているものも多い。歩くこと=良いこと、と思っているのだが、サンデー毎日の表紙がタイムリーだった。


「歩くほど健康にいい」はウソ!
興味深く記事を読んだ。下記の一文に、へぇー、である。さらに詳しい内容は雑誌を読んでもらいたいのだが、このような専門家の意見は興味深い。
8000歩以上歩いたほうが病気予防の効果はわずかに上ですが、1万2000歩が完全な上限です。これ以上は逆に免疫機能が下がり、動脈硬化が進む可能性もあるのです
個人差があるのか等々、気になることはたくさんあるのだが、歩き過ぎには注意すべきなのかもしれない。

自分の父と同じくらい年上で、いつも色々なことを教えてくれる方がいる。その方が、自治体が企画しているウォーキングイベントに参加されていて、そこで見た光景が奇妙なものだったという。インターネット上で公開される歩数上位者のランキングには信じられないくらいの歩数を毎日積み重ねている方が大勢いるらしく、上位の方々は毎日ほぼ歩きっぱなし??と思うような歩数だったそうだ。これらの方々、サンデー毎日を読まれたら、ドキッとするに違いない。

何事も、過ぎたるは及ばざるが如し、なのかもしれない。 

2015/09/25

医療の稼ぐ力を自治体間で比較する(RESASパワーアップ)

以前、経済センサスを用いた分析を紹介したことがあった。

「うちの町には大した産業はなく病院くらいしかないんです」と自嘲せず、「うちは医療の町です」と言ってみてはどうでしょう - 医療、福祉に貢献するために

統計局が加工したデータを用いているため、さほど手間はかかっていなかった。とは言え、エクセル等で作業すること自体が面倒と言ってしまえば、そこまでだ。

と思っていたら、RESASに稼ぐ力分析が加わり、先日の内容はクリックだけでグラフィカルに分析できるようになっていた。

出所: RESAS 稼ぐ力分析を用いて分析した「従業者割合(医療業)」の比較結果

RESASのパワーアップ内容については、下記に書かれている。

RESASがパワーアップしました!![特許データ、農業データ、外国人観光客データ等の追加及びSNS「RESAS COMMUNITY」の開設](9月11日)

市町村比較や他の産業での比較も容易で、また、指標も様々用意されている。簡単だ。

2015/09/23

『特集 地方移住は「姥捨て山」か』は読んでおいて損なし

2015年8月号目次 - 中央公論.jp
特集 地方移住は「姥捨て山」か
激震!介護破綻 増田リポート
都知事、高齢者の増加を受け止めきれますか?
《対談》舛添要一×増田寛也

中央公論8月号、巻頭の記事に義祖父のことが載っていた。その記事だけは7月に読んだのだが、メインの特集を読んでいなかった。

特集、読んでおいて損はない。シルバーウィークに改めて読んで、そう思った。

増田リポートは、むやみやたらと危機感を煽っているわけではなく、人口構造の激変に向け備えあれば憂いなしと警鐘を鳴らしていることを理解できる内容であった。また、移住候補となった41地域の首長のアンケート結果も興味深い内容だった。医療・介護が充実していることを評価されたと前向きに捉えるものから、今でさえ介護等の人手不足に悩んでいるのに・・・といった現実論や、はたまた回答なしの自治体まで、反応は様々であったが、今後、地域地域でどのような取り組みをすべきか参考になる内容であった。

地方から首都圏に若者が吸い寄せられ、一方で、高齢者を首都圏から地方に移住させようとするのは、あまりにいびつすぎる話だ。いびつになりすぎれば、地方で医療・介護の人材需要が膨らみ、首都圏で人材が余る結果、賃金等で人材市場が調整される・・・ということを期待したいが、医療・介護は報酬が公定価格のため、賃金での差をつけにくい。結果的に、若年層の人材が地方に還流せず、地方の医療・介護が崩壊するというシナリオもありえる。

参考までに、日経ヘルスケア2015年9月号によると、2015年7月時点の介護職の賃金は高い方から関東・東海・近畿・中国・九州沖縄の順で、逆に低い方からは北陸・四国・北海道・東北・甲信越の順であり、首都圏は賃金が高い状況にある。現状は、首都圏から地方に人材が流れるような賃金格差は生じていないどころか、飲食業や製造業など他業種の人材獲得競争が活発な地域ほど、介護職の賃金も高くなってしまっているように思う。

ミクロな視点では、医療・介護施設での離職防止や、地域地域での住みやすさの向上など、取り組みが重要であることは間違いない。しかし、マクロな視点で、若年層が動くような仕掛けが必要な気がする。例えば、一案として、医療・介護の費用負担について、各地域に大きな決定権限・裁量を与えてはどうだろうか。

逆に、そのようなメリハリをつけることができないのであれば、医師・看護師等の医療スタッフと介護スタッフは、地域に固定させるような制度が必要とも言えよう。

シルバーウィーク、中央公論を読みながら、そんなことを考えていた。

先月他界した義祖父の墓参りに伊豆大島へ。写真は伊豆の踊子で有名な波浮の港
移住したくなるいいところ。まったくもって「姥捨て山」ではない

2015/09/17

後発薬使用が進まない組織

今週、日経では「医出づる国」の『「削りしろ」を探せ』の連載が続いている。

コラム :日本経済新聞

今日は歯科診療を取り上げている。「経営のために一人でも多くの患者を診なければならない。すぐ治療の必要がない虫歯や歯周病で通院を長引かせるケースはある」との歯科医の打ち明けを紹介していたが、それが一番大事な信用を失うリスクであることをどこまで認識しているのだろうと思った。

ただ、目先の収益よりも地域における信頼こそが大事だ・・・ときれいごとを外野から言うのは簡単だが、実際の経営はそこまで厳しく、苦しいということなのだろう。

火曜はジェネリックの話も紹介されていた。アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、日本の5カ国を比較しジェネリックの普及が遅れている、という内容だった。

ジェネリックの使用割合を引き上げることで、医療費の増加を抑制でき、結果、医療を受け続けることができる・・・という意味でも、ジェネリックは大事である。一方で、医薬品開発へのネガティブな影響は無視できない。もちろん、そのような点に配慮された診療報酬が設定されているものの、急激な変化により、想像もしない影響が出てくる可能性はゼロではないだろう。

ちなみに、最近、データ分析や知り合いの話を総合した結果、ジェネリックが進まない業界、業種というのが見えてきた。

それは、医療関係者と製薬関係者だ。
(※データに基づく部分があるとは言え公表できるような客観的なデータは一切ない。飲み屋の雑談レベルの話だ)

ジェネリックに変えるべき、と政府がいくら言ったところで、処方する医師や看護師は先発品を好んでいる、ということだろうか。もしかしたら、可処分所得が高いから、ジェネリックに切り替えるまでもない、といったもこともあり得る。

いずれにしても、「ジェネリックに切り替えない理由」をはっきりさせることが大事であり、先発品を使う自由があっても良いと思う。もちろん、その場合には、それ相応の負担が必要だ。

2015/09/15

Virtual Ward(仮想病棟)の可能性

先週から、Virtual Ward(仮想病棟)に関する資料を読んでいる。これがとても面白いのだ。仮想病棟は、地域包括ケアの先行事例として示唆する点が多々ある。

仮想病棟について簡単に説明してみたい。

地域で入院が必要な患者と、そうでない患者に分けた場合、後者には限りなく入院に近い患者や、ちょっとしたきっかけで入院する可能性の高い患者が含まれている。このような入院に近い患者たちを「仮想病棟」に入院した(あくまでもバーチャルにだが)として、医師、看護師、薬剤師などが、「本当の入院」を防ぐ取り組みを行っている。

ポイントは2つある。
  1. 仮想病棟に入院する患者を識別するリスクモデル
  2. 仮想病棟に入院した患者のマネジメント(チーム体制・取り組み)

2番目は、まさに地域包括ケア病棟で実践している内容に相通じるものなのではないだろうか。

仮想病棟の考え方は、適切な介入が医療費の適正化につながるというものであり、仮想病棟でコストをかけても、それに見合った「本当の入院や再入院」を減らすことができれば、価値があると言えるだろう。

仮想病棟に関する記事は、ちょっと前のものだが、週刊社会保障の2009年5月18日号・25日号に掲載された「英国のVirtuai Ward(仮想病棟)による入院予防の推進」に書かれている。

直近の状況については、下記のレポートが分かりやすい。

South Devon and Torbay | The King's Fund

Virtual Ward(仮想病棟)については、(自分の勉強が目的なのだが)、今後何回かブログに書いていこうと思う。

2015/09/14

減反政策から、医療の質の向上を考える(書評: 減反廃止)

地域医療構想と減反政策の関係性について、8月に3つほどブログ記事を書いた。
日経の記事で引用した中に「減反廃止」の著者である荒幡克己 岐阜大教授の指摘が引用されていた。先日、その「減反廃止」を読んだ。いや、実に興味深い内容だった。

印象に残った箇所を紹介する。
世界では減反で単収向上。日本たけが減反実施下で単収停滞
単収停滞がコストダウン遅延の要因であることは事実であるとしても、減反との関係は、必ずしも自明ではない。これには、丁寧な説明を要する。
世界の減反では、単収は、従前の減反がなかった時よりも増加することが通例である。肥沃ではない水田、水利が良くない水田等の劣等地が休耕となり、優等地に限っての生産となるため、生産者の作付ける水田の平均単収は上昇するメカニズムが働く。また、生産者の経営努力としても、制限されているのは作付面積だけであるから、その制限を挽回しようと単収向上に最大限の努力をした結果、単収は上昇する。
上記文章の用語を次のように読み替えると、病院経営そのものの話になる。

単収⇒ベッド単価
水田⇒病床
作付面積⇒病床数
休耕⇒休床

病床利用の効率性向上により、単価が上がる。『肥沃ではない水田(≒医療・看護の必要性が低い患者で埋める)』で無理に収入を確保しようとすれば、単価は下がる。

そして、制限を挽回しようと最大限努力するのは、医療においては回転率向上や手術・救急患者増加の取り組みがあてはまるだろう。

上記の文章は、さらに次の文に続く。
日本でも減反開始当初、各地の米生産地では「一割減反、二割増収」のスローガンが掲げられた。減反のマイナスを増収で取り返そうと、しばらくは現場では活気があった。こうしたスローガンは、政府としては、せっかくの減反の効果が半減してしまうので、歓迎しなかったであろうが、減反への農家の素直な反応として、世界各地で見られた標準的なものであった。
減反のマイナスを増収で取り返すことは政府としては歓迎しないという話は、病床を最適化したところで、単価向上・増収に努力されたら結局医療費は減らないという話にも通じる。

また、世界で満た場合の日本の減反政策の特殊性から日本だけ単収停滞したと考察している内容は非常に興味深い。
しかし、こうした活気は、いつの間にか消えて、日本の稲作は単収停滞に陥った。世界の減反とは異なり、日本稲作が減反の時代に単収増加とならなかった原因は、2つある。一つは、時代背景として、良食味の米が強く求められたことである。これは、おそらく減反をやっていなかったとしても、一時的にはこの理由で、単収停滞が10年程度は起こったであろう。しかし、消費ニーズが多様化して、業務用需要等も拡大した平成以降の単収停滞は、これでは説明できない。
もう一つは、日本の減反の特殊な手法である。日本では大部分の時代、減反は面積制限ではなく数量管理であった。世界の減反は、面積制限が通例であり、作らない部分の比率、すなわち減反率を提示することで実行する。日本のように数量管理で、しかも作る側を制限する方法は採用していない。
減反における面積制限や数量管理を医療の世界で考えてみるのも良いかもしれない。また、食味の向上は、医療の質の向上の参考になるかもしれない。減反廃止、アマゾンの農学一般関連書籍でベストセラー1位になっている。減反政策に興味はあまり無いかもしれないが、読んでみてはいかがだろうか。

2015/09/09

オープンデータは情報を資源化する ~世田谷区施設 AED一覧~

今日、世田谷区がオープンデータのページを開設したとのこと。

世田谷区オープンデータポータルページを開設しました - 世田谷区

ちょうど、ここ数日、行政が公開したPDFファイルを、分析できるデータに変換する作業をスタッフが行っている。オープンデータ化、とりわけ、利用できる形でデータが公開されるのは、非常にありがたい。世田谷区のデータが公開されたところで、本業に即役立つわけではないのだが、こういった取り組みが広がることに感謝し、応援したい。

世田谷区がオープンデータ化した対象一覧を眺めながら、AEDのリストがあったので、さっそく地図にしてみた。といっても、Googleのマイマップでリストを読み込んだだけだが(住所が町名からだったので『東京都世田谷区』を付け加えた)。

下の地図が、ものの数分でできたものだ。
   
この地図は次の著作物を改変して利用しています。 『AED設置一覧(区内全域)、世田谷区』 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示 2.1

地図中の赤いピンをクリックすれば、場所の名前や電話番号、AED使用可能時間などが表示される。これも特別何か処理を行ったわけではなく、世田谷区が公開したデータを読み込んだだけで勝手に設定されたものだ。

この地図自体は、これまでも世田谷区が公開してきたもの(下の地図)と同じであり、価値はない。しかし、ものの数分で出来てしまうことは、『利用できるデータが公開された』という新たな価値だ。



オープンデータは、情報を資源化する。

味見しないと買えないかなぁ ~減塩味噌の座談会~

春にきょうの健康で「減塩行楽弁当」を取り上げていた(きょうの健康 |食で健康「減塩行楽弁当」)
。ポイントは、おいしいだしを利かせること、あらかじめ塩分を計っておくこと、とのこと。

きょうの健康でも冒頭で食塩摂取量の目標を紹介
・ナトリウム(食塩相当量)について、高血圧予防の観点から、男女とも値を低めに変更。
     18歳以上男性:2010年版 9.0g/日未満 → 2015年版 8.0g/日未満
     18歳以上女性:2010年版 7.5g/日未満 → 2015年版 7.0g/日未満
出所: 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」の報告書を取りまとめました |報道発表資料|厚生労働省

減塩も大事なのは間違いないが、きょうの健康で出来上がったお弁当はとても美味しそうだった。

それはさておき、先月末くらいに、ハナマルキが減塩みそを発売することが日経新聞等で紹介されていた。

医療機関のお墨付き? 減塩みその実力は?:ワールドビジネスサテライト:テレビ東京
それに関連して、先週、座談会を開いた。(正確には、色々話した中のテーマのひとつに減塩みそがあった)。

要約すると、以下のような話だった。

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「健康意識高い人にはいいんじゃない」

「ここまで意識高い人だと、添加物が入っていないか気にしたりしそう」

「ハナマルキのかるしおシリーズは、だし入りみそやインスタントみそしるもあるけど、無添加のみそもあるから、そういう人はそれを選びそうだね」

「ハナマルキ、3年半ぶりにみそのCMを流すってことは、相当力を入れているんだろうね」

「味噌汁は、色々な野菜が簡単に取れるから、便利なんだよね」

「そうそう、うちも葉物でも、根菜類でも、入れておけば子どもたちが食べてくれる」

「でもさ、正直、おいしくなさそうなんだよね、減塩って」

「やっぱり試食したいな」

「CMだけじゃ、買おうと思わないだろうね」

「おいしかったら、もちろん減塩は大歓迎だからね」

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ちなみに、参加した3名のうち2名は、家で味噌を作っているとのことで、味噌に対する意識はかなり高い。結論としては、味見する機会があれば、売れるのかもしれない。高血圧の薬を飲むよりは、こういったことにお金をかける方がよいだろう。医療費の削減には、身近なところから、ちょっとした心がけで貢献できるに違いない。

2015/09/06

先月の社内指定図書 「患者さんに伝えたい医師の本心」

先月、社内で読み回していた本。

非常に良かった。医療事故に対する考え方など、近頃自分の中でもやっとしていた部分などがすっきりした。病院ランキングに対する考え方も非常に共感できた。National Clinical Databaseの取り組みについては、どういった形で公表するのが良いか、公表までのハードル・現時点における問題点にも言及されている。かつその指摘は、一般人にも分かりやすい言葉が選ばれていて、勉強になった。

印象に残った箇所を引用する。
患者さんを「パートナー」として一緒に歩めるように、医師は成長しなくてはなりません。また、そういう意味では、患者さんも成長しなくてはならないでしょう。双方が良きパートナーになり、医療政策に新しい展開が生じることを期待します。
「患者とともに生きる」という医療の考え方をこのような形で発展できれば、ともすれば混乱しがちな患者・医師関係が円滑に運ばれ、お互いに信頼できる良い関係を構築できるのではないでしょうか。(P.160より引用)
患者も成長する。この言葉は非常に重い。お互いの信頼なくして、良い医療を受けることなどできない。信頼なくして良い医療だけを受けようとすれば、医療者は疲弊し、患者は失望し、コストがかさむに違いない。

次の一文も、印象深い。
診療所や病院を訪問しました。(中略) 以前はある意味ライバルだったわけですが、診療報酬の改定により病院経営が一段と厳しい状況となったことで、互いに協力してともに生き残っていきましょうという話題で盛り上がったりもしました。
現在の厚労省の政策のもとでは、一人勝ちなどありえません。地域の医療機関がそれぞれの役割を認識し、役割を分担することでしか生き残りを図れないのです。(P.78より引用)
 
競争ではない。共存だ。この共存の中に適度な緊張感を作ることが、医療の質の向上に大事であり、そういった視点で、政策は十分配慮されるべきだろう。地域医療構想についても、同様の理念が根底にあると理解しているものの、週刊誌などの記事は、競争を強調している感が否めない。地域に根ざした医療を日々現場で接しているからこそ、上のような重みのある文章になっているのだろう。

新書ということもあり、ターゲットは一般人で、医療者向けの本ではないだろう。しかし、医療関係者こそ読むべき本のように感じた。

2015/09/05

病床を減らしたら、出生率が下がる??

地域医療構想策定ガイドラインが示され、今年は将来に向けた医療機能整備に関する議論が活発だ。特に、6月の医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会の報告を発端にしたマスコミによる「20万床過剰」の報道は医療現場を混乱させているように思う。
また、こういったことに乗じて、クライシスだ、と煽るようなことをしている人たちもいると聞く。今週は、北海道から鹿児島まで病床が過剰と言われている地域から、不足している地域まで、様々なところで話を聞いてきたが、その地域の基幹病院と言われるようなところまで、不安になっていた。

適正な不安が、経営や医療の質の改善に対する努力につながればよいが、過度に不安を抱いているケースでは、あまり良くないこともあるようだ。いずれにしても、冷静になるべきだろう。

今日の本題は、病床過剰割合を冷静に見るための訓練として、因果関係を無視した分析結果を見てみたい。下のグラフの縦軸は、2025年の必要病床数と現状の病床数を比較し算出した都道府県別の過剰病床数が、現状の病床数の何割にあたるか割合を計算した。マイナスならば過剰、プラスならば不足を意味している。横軸は都道府県別の合計特殊出生率(一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当する)である。

グラフを見ると、沖縄県だけは外れたところにいるが、出生率が高い都道府県ほど、病床が過剰(縦軸がマイナス)になっているように見える。(実際、沖縄県を除くと相関係数はかなり高い)
(クリックすると拡大します)


では、病床過剰と試算されている地域が病床を減らしたら、出生率が下がってしまうのだろうか。はたまた出生率を上げるには病床を整備すればよいのだろうか。

ここで気をつけなければならないのは、「相関関係があれば、必ず因果関係がある」とは言い切れないことだ。つまり、出生率と病床過剰割合には、たまたま相関関係が見られただけ(本当に単なる偶然)かもしれないし、それぞれ直接的には関係しておらず、別の共通の要因があるのかもしれない。

例えば、下記のレポートでは、出生率と失業率の関係性を指摘している(ちなみに、ここでも沖縄は除外している)。

第一生命経済研究所『Life Design Report』「注目される地方の出生率低下」(松田茂樹,2012) group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/watching/wt1207.pdf

病床過剰な地域の方が医療関係の雇用が活発だ、とは言い過ぎかもしれない。しかし、もしそうだとしたら、医療と関係なくその地域の景気が回復したら、出生率だけあがり、病床過剰状態は変わらない。つまり、上のグラフで、相関関係が示唆されるからといって、因果がある、と断定するのは、非常に危険だ。

今回は、頭のトレーニングとして、出生率と比較したグラフを作ってみた。因果関係がないか推測することは非常に楽しい。

ただし、くれぐれも「病床を増やせば、出生率が上がる」などと短絡的に思い込み、誤った方向に制度政策を変えてはならない。