2015/09/14

減反政策から、医療の質の向上を考える(書評: 減反廃止)

地域医療構想と減反政策の関係性について、8月に3つほどブログ記事を書いた。
日経の記事で引用した中に「減反廃止」の著者である荒幡克己 岐阜大教授の指摘が引用されていた。先日、その「減反廃止」を読んだ。いや、実に興味深い内容だった。

印象に残った箇所を紹介する。
世界では減反で単収向上。日本たけが減反実施下で単収停滞
単収停滞がコストダウン遅延の要因であることは事実であるとしても、減反との関係は、必ずしも自明ではない。これには、丁寧な説明を要する。
世界の減反では、単収は、従前の減反がなかった時よりも増加することが通例である。肥沃ではない水田、水利が良くない水田等の劣等地が休耕となり、優等地に限っての生産となるため、生産者の作付ける水田の平均単収は上昇するメカニズムが働く。また、生産者の経営努力としても、制限されているのは作付面積だけであるから、その制限を挽回しようと単収向上に最大限の努力をした結果、単収は上昇する。
上記文章の用語を次のように読み替えると、病院経営そのものの話になる。

単収⇒ベッド単価
水田⇒病床
作付面積⇒病床数
休耕⇒休床

病床利用の効率性向上により、単価が上がる。『肥沃ではない水田(≒医療・看護の必要性が低い患者で埋める)』で無理に収入を確保しようとすれば、単価は下がる。

そして、制限を挽回しようと最大限努力するのは、医療においては回転率向上や手術・救急患者増加の取り組みがあてはまるだろう。

上記の文章は、さらに次の文に続く。
日本でも減反開始当初、各地の米生産地では「一割減反、二割増収」のスローガンが掲げられた。減反のマイナスを増収で取り返そうと、しばらくは現場では活気があった。こうしたスローガンは、政府としては、せっかくの減反の効果が半減してしまうので、歓迎しなかったであろうが、減反への農家の素直な反応として、世界各地で見られた標準的なものであった。
減反のマイナスを増収で取り返すことは政府としては歓迎しないという話は、病床を最適化したところで、単価向上・増収に努力されたら結局医療費は減らないという話にも通じる。

また、世界で満た場合の日本の減反政策の特殊性から日本だけ単収停滞したと考察している内容は非常に興味深い。
しかし、こうした活気は、いつの間にか消えて、日本の稲作は単収停滞に陥った。世界の減反とは異なり、日本稲作が減反の時代に単収増加とならなかった原因は、2つある。一つは、時代背景として、良食味の米が強く求められたことである。これは、おそらく減反をやっていなかったとしても、一時的にはこの理由で、単収停滞が10年程度は起こったであろう。しかし、消費ニーズが多様化して、業務用需要等も拡大した平成以降の単収停滞は、これでは説明できない。
もう一つは、日本の減反の特殊な手法である。日本では大部分の時代、減反は面積制限ではなく数量管理であった。世界の減反は、面積制限が通例であり、作らない部分の比率、すなわち減反率を提示することで実行する。日本のように数量管理で、しかも作る側を制限する方法は採用していない。
減反における面積制限や数量管理を医療の世界で考えてみるのも良いかもしれない。また、食味の向上は、医療の質の向上の参考になるかもしれない。減反廃止、アマゾンの農学一般関連書籍でベストセラー1位になっている。減反政策に興味はあまり無いかもしれないが、読んでみてはいかがだろうか。