2015/09/05

病床を減らしたら、出生率が下がる??

地域医療構想策定ガイドラインが示され、今年は将来に向けた医療機能整備に関する議論が活発だ。特に、6月の医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会の報告を発端にしたマスコミによる「20万床過剰」の報道は医療現場を混乱させているように思う。
また、こういったことに乗じて、クライシスだ、と煽るようなことをしている人たちもいると聞く。今週は、北海道から鹿児島まで病床が過剰と言われている地域から、不足している地域まで、様々なところで話を聞いてきたが、その地域の基幹病院と言われるようなところまで、不安になっていた。

適正な不安が、経営や医療の質の改善に対する努力につながればよいが、過度に不安を抱いているケースでは、あまり良くないこともあるようだ。いずれにしても、冷静になるべきだろう。

今日の本題は、病床過剰割合を冷静に見るための訓練として、因果関係を無視した分析結果を見てみたい。下のグラフの縦軸は、2025年の必要病床数と現状の病床数を比較し算出した都道府県別の過剰病床数が、現状の病床数の何割にあたるか割合を計算した。マイナスならば過剰、プラスならば不足を意味している。横軸は都道府県別の合計特殊出生率(一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当する)である。

グラフを見ると、沖縄県だけは外れたところにいるが、出生率が高い都道府県ほど、病床が過剰(縦軸がマイナス)になっているように見える。(実際、沖縄県を除くと相関係数はかなり高い)
(クリックすると拡大します)


では、病床過剰と試算されている地域が病床を減らしたら、出生率が下がってしまうのだろうか。はたまた出生率を上げるには病床を整備すればよいのだろうか。

ここで気をつけなければならないのは、「相関関係があれば、必ず因果関係がある」とは言い切れないことだ。つまり、出生率と病床過剰割合には、たまたま相関関係が見られただけ(本当に単なる偶然)かもしれないし、それぞれ直接的には関係しておらず、別の共通の要因があるのかもしれない。

例えば、下記のレポートでは、出生率と失業率の関係性を指摘している(ちなみに、ここでも沖縄は除外している)。

第一生命経済研究所『Life Design Report』「注目される地方の出生率低下」(松田茂樹,2012) group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/watching/wt1207.pdf

病床過剰な地域の方が医療関係の雇用が活発だ、とは言い過ぎかもしれない。しかし、もしそうだとしたら、医療と関係なくその地域の景気が回復したら、出生率だけあがり、病床過剰状態は変わらない。つまり、上のグラフで、相関関係が示唆されるからといって、因果がある、と断定するのは、非常に危険だ。

今回は、頭のトレーニングとして、出生率と比較したグラフを作ってみた。因果関係がないか推測することは非常に楽しい。

ただし、くれぐれも「病床を増やせば、出生率が上がる」などと短絡的に思い込み、誤った方向に制度政策を変えてはならない。