2017/03/12

化学療法は入院か外来か

昨日のウイルス性腸炎の話題に続き、今日はがんの化学療法について。

入院ベッド、手術と化学療法のどちらの患者を主に使うか考えてみたい。当然ながら、がんの詳細な種類や状況、患者個々の状態に応じ、治療の選択肢は異なり、また、入院・外来の選択肢も異なる。このような前提であっても、1年間の診療実績での比較であれば、ある程度の傾向が見えてくる。そこで、肺がんと卵巣がんについて、外科手術とそれ以外(主に化学療法が多い)の比率を比較してみた。

まず肺がん。横軸に年間の入院件数、縦軸に入院件数に占める手術件数の比率を取っている。グラフの赤い点は、病院名に「大学」が含まれる施設である。

肺がんの入院件数・手術比率の施設分布(一定件数以下の施設は非表示)

なお、手術件数は0件のところが少なくないのでグラフ下端に点が多くあるのは分かりにくいことと、「99手術なし」「97手術あり」「97手術あり輸血以外」のそれぞれの件数が年10件未満の施設は数値が公表されていないため比率自体が正しくない可能性があることはお許しいただきたい。

グラフから、入院件数が多いところでも、手術が4割近いところから、1割に満たないところまで、様々である。件数が少ないところでは、手術症例の比率が非常に高いところもある。そして「大学」と名のつく施設では、グラフのやや上の方に位置している。

肺がんで年間500件、600件の入院患者を受け入れている施設でも、その診療内容には大きな違いがあり、手術をほとんどしていないところもある。これは肺がんの外科手術の相対的なハードルの高さを反映しているとも言える。

この肺がんの施設分布を頭に入れ、卵巣がんを見てみよう。

卵巣がんの入院件数・手術比率の施設分布(一定件数以下の施設は非表示)

似たようなグラフになっているが、「大学」の名のつく施設の分布がグラフの上の方から下の方まで、均一にばらけた。これだけ外科手術と化学療法の比率がばらける背景には、術前術後の化学療法選択が全施設同一という強引な仮定を置けば、入院と外来の選択が異なっていることが大きな要因と考えられる。

外来か入院か。患者の状態やケアの質・医療安全面などをトータルに見て、この判断しているのであれば、まったく問題ない。しかし、経営面に重きを置いて判断しているのであれば、疑問を感じざるを得ない。

今回は、施設のばらつきは諸処の事情で仕方ないという前提を、全施設の散布図で見た。その上で、「大学」の名のつく施設のばらつきについて疾患別の違いを見ることで、経営方針の違いが見えてこないか考えてみた。上記のグラフはいずれもDPC公開データ(2015年度実績)から作成しているので、誰でも施設名入りのグラフを作成できる。余談だが、グラフに施設名が入ると「あー、あそこは最近頑張ってるからね・・・」といった事情が見えてくる。データから色々と推測することは楽しいものだ。