2017/05/31

高齢化が進んだ日本の情報が価値を生む

介護施設における予期しない死亡者数の推移に関する研究の話題。

Study reveals increase in premature deaths of nursing home residents in Australia Study reveals increase in premature deaths of nursing home residents in Australia
オーストラリアで、10年前と比較し施設での予期しない死亡者数が大幅に増えているらしい。

世界初の調査結果らしいのだが、人口動態調査(人口動態調査|厚生労働省)の死亡場所(老人ホームと介護老人保健施設)と死因(不慮の事故)の人数で、グラフを作ってみた。

直近の2015年データ(2016年公表)を用いている。直近のデータだけで年次推移を見ているので、2012年以前は5年間隔になってしまっているのはお許しを。


増えてる。(おそらく、自分が今グラフにして知っただけで、この領域の人達にとっては常識なのだと思う・・・。補足すると、増えていることが単純に悪いのではなく、割合で評価しなければいけないし、時代とともに受け入れている対象者が変わっている可能性もあるので、割合で評価することも単純ではないはず)

そして、この研究をしているオーストラリアの教授が次のように述べている。
“Improving the quality of care for nursing home residents requires a better understanding of how, why, where and when they die. The global population is ageing rapidly, and the need for aged care services is consequently increasing,” Professor Ibrahim said. 出所: World first study reveals increase in premature deaths in Australian nursing homes - Monash University



日本でこのような研究をされている方であれば当然のことなのだろうが、あらためて、高齢化の進んだ日本から、この領域で世界に向けて情報発信するは極めて価値が高く、また世界が情報を欲しているのだと理解した。

2017/05/27

「薬が必要かもしれないけど、歩くのもいいよ」が評価され、報酬になる時代はいつくるのか

Poll: Doctors Are Prescribing Back Pain Treatments That May Do More Harm Than Good : Shots - Health News : NPR Poll: Poll: Doctors Are Still Prescribing Lots Of Opioids For Low Back Pain : NPR

腰痛に対し、オピオイドがたくさん処方されているという記事。セルフケアへの取り組み方や、痛みの改善状況について、学歴、世代、収入などで比較している。

こういう記事を読むと、診療報酬などで誘導することも大事だが、ヘルスリテラシーの向上も大事だな、とあらためて思った。

記事の最後、いい医者であるために患者に薬を処方しながら、その患者にかけた言葉。
'You've had back pain in the past, it would be really good to focus on physical activity. Walking is good for it, even if it makes it a little more sore.'
少し痛いかもしれないけど、歩くのもいいですよ、と。薬を出さなくなったら、評価される仕組み。日本では、現状、多剤処方の患者だけが評価されるようになったが、さらなる拡大が必要なのかもしれない。

2017/05/25

看護師を始めとした医療者の貢献を適切な報酬に。厳格化は慎重に議論すべき

CBnewsに記事を掲載いただいた。


看護必要度データの分析結果を交えながら、乱暴に厳格化をすれば、今、現場が連携で一番苦労している高齢者にしわ寄せが言ってしまう可能性を述べた。

特に社会的事情が影響しなかなか転院・退院ができない患者については難しい状況にある。ただ、記事には書かなかったが、退院調整加算→退院支援加算など、連携強化の取り組みを後押ししてきた時代的な流れを考えると、「まさか何も準備してないわけはないよね?」「財源は厳しいから悠長なことは言ってられないよ」というような現場から距離がある人達の考えていることも透けて見えてくるだけに、ある程度の厳格化は覚悟しなければならないだろう。

そして、看護必要度の影響は、病院で見ている患者の病態によって、千差万別であることを述べた(データで見たのは、その一端でしかないが)。従来から繰り返し述べえいるとおり、疾患と病態である程度看護必要度が決まるだけに、厳格化は全国の病院が一律厳しくなるのではなく、特定の病院が壊滅的ダメージを受けることが想定される。(厳しくしすぎれば、その範囲が広がるだけで、影響がないところはいつまでも問題なしである)

そもそも厳格化の議論の目的が「急性期病床を減らすこと」にある(明言していなくても、資料等から、そう読み取れる)のが厄介だ。「適切な報酬分配と患者負担」ということが目的になっていれば、厳格化以外の方法(1入院包括化や効率性係数の比重向上など)とどちらが医療体制を壊さずに目的を実現できるかという議論になると思うのだが・・・。

いずれにせよ、看護必要度の議論は、これから本格化してくるだろう。そこで、別の機会に、厳格化で高いハードルが設定されれば病院がそれを超えようとするいたちごっこの繰り返しになる改定よりも、現場の負担を診療報酬に適切に反映できる手法について、整理し述べてみようと思う。そのアイデアの断片的なものは、下記に書き留めている。ご参考まで。

2017/05/24

『データベース自体が貧弱なままでは競争優位性はすぐに失われる』はデータの資源化と同義

昨日、機械学習の話題を書いたら、ちょうど週刊医学界新聞に、松尾先生と宮田先生の対談の記事が載っていた。

医学書院/週刊医学界新聞(第3224号 2017年05月22日) 【対談】人工知能×医療 世界と勝負するための大局観を実装する 松尾 豊氏(東京大学大学院 工学系研究科特任准教授) 宮田 裕章氏(慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室教授) 医学書院/週刊医学界新聞(第3224号 2017年05月22日)
まさに昨日の話題と同じ点が指摘されていた(以下の引用参照)。
松尾 実際に見学すると勉強になるし,画像診断や薬剤管理など,さまざまな場面でAI活用の可能性を感じました。一方でショッキングだったのは,採用しているITシステムの使い勝手が悪いことです。同じような情報をあちこちに入力して,データが紐付いていない。「多忙にもかかわらず,なぜこんな無駄なことに貴重な時間を使っているのだろう?」と,素朴な疑問を感じました。 
宮田 今は病院あるいは部署ごとにシステムが違うなどデータベースがタコツボ化していて,インフラ構築のコストはかかるし,データの収集・分析も難しい状況にあります。AIによってイノベーションを起こしたとしても,データベース自体が貧弱なままでは競争優位性はすぐに失われるでしょう。ICTプラットフォームの構築は,重要な課題です。
引用した箇所以外も大変興味深い内容だった。

2017/05/23

機械学習活用時代を見据えたデータの統合・蓄積の重要性

人工知能・機械学習の話題が多いのは今に始まったことではないが、医療の領域も、この手の話題は多い。画像診断の領域などは、急速に進歩しているように思う。

画像診断の流れで、その先について述べていた記事(Machine learning can bring more intelligence to radiology | Information Management)で興味深いものがあった。
Once economic and IT barriers are addressed, machine learning has the potential to dramatically improve the ability of physicians to establish a prognosis. For example, it could be used to look at all lung cancer patients and then correlate them with their lab values, genetic profiles and diagnostic images to find patterns that help doctors. 
肺がんの診断が例に上がっているが、血液検査等の結果や、遺伝子情報、画像診断結果等の相関関係を見るようなことで、劇的に医師の能力が高まる可能性を指摘している。ただ、経済面とITの両面の障壁が低くなっていることが前提ではあるが。
But according to Geis, we might also see applications of machine learning where the data that’s generated helps to measure value in medicine. Machine learning has the potential to look at medical data—EHR data, financial data, measurement of outcomes—and search for patterns based on individual providers or groups of providers. That would enable algorithms to tease out individual contributions to care.

さらに、電子カルテデータや財務データ、医療の質のデータなども見ることで、ケアの向上につながるアルゴリズムができるだろうと述べている。

医療の世界において、特定領域での機械学習活用の先にあるのは、様々な統合されたデータによる医療の価値向上の模索ということだろう。そのためにも、データを統合しておくことが重要である。もし病院内でデータが分断しているような状況があれば、それは将来、このような技術活用で大きく出遅れることを意味しているのかもしれない。データは資源だということを何度も述べているつもりだが、様々なデータを有機的につなぎ、活用できる形でデータを貯める、ということに対する重要性が増しているということだろう。

引用した記事はこちら
Machine learning can bring more intelligence to radiology | Information Management Machine learning can bring more intelligence to radiology | Information Management

2017/05/22

参加者からの質問も大事なセミナー

昨日は日経ヘルスケアのセミナー(病院サバイバル時代の経営戦略 【日経ヘルスケア特別セミナー】)にて、講師を務めさせてもらった。

全力を尽くしたため、帰宅するなり泥のように眠ってしまい、仕事が停滞中。関係する方、ごめんなさい。

セミナーについては、工藤氏から「鋭い分析」とコメントをいただき恐縮だが、地域医療構想や病床機能報告の内容を整理しただけで、大したことはしていない。
むしろ、これらの分析結果だけで、病院の状況を読み取り、改定に向けた懸念などがポンポン出てくる工藤氏の洞察力の方がすごい(この部分が、このセミナーの醍醐味であり、個人的にも聞きたいことをバンバンぶつける良い機会である)。

そして、参加者からの様々な質問も、このセミナーのありがたい点だ。もちろん、細かな背景等を理解して答えることはできないが、こう考えるべき、これからここを注視すべき、という工藤氏からのアドバイスは、いつ聞いても興味深い。

またこのような機会があれば挑戦したい。(昨晩、寝る前は「もうやりたくない。絶対やらない」と思ったのだが、寝たら少し心境が変わった)

参加してくださった皆様、日経ヘルスケアの皆様に感謝。そして工藤氏に感謝。

2017/05/20

都道府県別 少子高齢化進展状況の可視化

昨日(少子化は子どもを支える世代が増える?)からの続き。

昨日は1865年から2115年までの将来予測も含めた日本の人口推移を見た。今日は都道府県別のデータを見てみたい。

65歳以上人口の比率で少ない県から多い県の順に並べると、沖縄から秋田まで、かなり比率が異なっている。
出所: 総務省統計局 日本の統計2017 都道府県別、年齢3区分別人口を基に作成
(クリックすると拡大します)

この比率を基に、各都道府県が日本の何年くらいの人口構成と合致するか検討した結果が次のグラフだ。

沖縄は2002年くらいの日本の人口構成に近い(当然ながら厳密には合致しない)。一方、秋田は2038年くらいの構成に近い。36年の開きがある。

出所: 昨日の資料を基に弊社で分析 (クリックすると拡大します)

都道府県単位で見てもこれだけ開きがあるということは、二次医療圏単位、市町村単位で見れば、もっと格差は広がるだろう。

診療報酬等の制度改定・変更は日本全体を意識したものであり、局所的な問題を網羅的にカバーすることは不可能だ。そのため、地域ごとで検討・対策をしなければならない。それをせず、ただ「医療崩壊の危機」と声高に叫んでもあまり意味がない。

・・・ということで、先週・今週といくつかの地域の詳細なデータ分析をし、どのような解決策があるのか検討してきた。今後もデータ分析等を通じて、お役に立てる領域を模索したい。

2017/05/19

少子化は子どもを支える世代が増える?

高齢化に関する資料作成の過程で、下記グラフを作った。

少子高齢化が進むことはほぼ確実と見て良いだろう。そして、65歳以上人口を支える64歳以下の人口が少なくなるのはこの先も続く。


この比率は、2060年くらいに落ち着く予定で、64歳以下の人たち3人で、65歳以上の人たち2人を支えるようなイメージとなる。(現時点では、64歳以下の4人で、65歳以上1人を支えるイメージ)

これを逆手に取れば、子どもを支える大人が増える!!と言えなくもない。



とは言え、子どもの比率は現時点の10%強が、この先もほぼ続く予定であり、今後、子どもに対するサポートが手厚くなるとは考えにくい。むしろ、支える大人たちのうち、65歳以上の比率が年々高まると言うべきだろう。

チャレンジングな未来に突入していく。余談だが、1950年代以前と2050年以降で、65歳以上に対し敬う気持ちが同じとは到底考えられないとふと思った。敬ってもらえるような人間でありたい・・・。



なお上記グラフは、下記を基に作成した。

1865年~1915年: 国立社会保障・人口問題研究所 「明治大正期における日本人口とその動態」(1986年4月、岡崎陽一)の数値を基に内挿・外挿
1920年~2015年: 総務省統計局 日本の統計2017 人口の推移と将来人口
2020年~2115年: 国立社会保障・人口問題研究所 出生中位(死亡中位)推計(平成29年推計)

2017/05/17

大学進学時の他都道府県への流出を止めることと病院経営の関係性

先日、東京一極集中の話題を書いた(本記事の最後にリンクを載せました)。
4月に開催された平成29年第6回経済財政諮問会議の資料(資料2-2 人材への投資に向けて(参考資料)(有識者議員提出資料)(PDF形式:533KB))によると、私立大学は中小規模のところほど経営が厳しくなっているとのこと(下記は会議で引用された資料の元資料)。

大学類型別(都市⇔地方、中小規模⇔大規模)の収支状況
出所:私立大学等の振興に関する検討会議(第1回)資料 2016/4/13開催

経営が厳しい背景には、中小規模の大学ほど定員充足率が低くなっていることが挙げられている。経済財政諮問会議の議論では再編の必要性の意見なども出ていたが、地方創生の観点で言えば、大学進学時の東京への人口流出が大きな問題だろう。

流入・流出率で見れば、東京、京都へ大幅流入。福岡や大阪、愛知、宮城等の地方の中核都市は流入傾向を示しているものの、大半の道県は流出している状況である。率でなく、人数で見ると、東京一極集中が明確になる。

大学進学時の人口流出率
出所: 平成28年度 学校基本調査を基に作成

大学進学時の人口流出数
出所:同上

このような状況を変えるには、地方の努力だけでは限界があり、国全体で考えるレベルの事象である・・・ということは先日も書いたとおりだ。

静岡市の取り組みは興味深い。これをささやかな抵抗と捉えるか、画期的なアイデアと捉えるか。正直、効果のほどは疑問だが、ただ指を加えて待っているのではなく、流出を止めるための努力をしている様子が伝わってくる。

そうか 「新幹線」 という手があった!~県外大学等への通学をサポートします:静岡市 そうか 「新幹線」 という手があった!~県外大学等への通学をサポートします:静岡市
病院の将来構想は、こういった取り組みと連動する・・・と言いたいところだが、新幹線通学レベルでは焼け石に水で、人口動態や病院の将来構想を見直すほどのインパクトはないだろう。しかし、本質的なところでは、地方創生と病院の将来構想は密接に関係するものであり、病院の将来構想、つまりは病院経営の問題事として、地方創生の議論を無視してはいけないと考えている。

以下、参考。

静岡市の事例と類似の新幹線通勤補助のニュース記事
新幹線通勤補助:増える 沿線自治体、流出防止や移住促進 - 毎日新聞 新幹線通勤補助:増える 沿線自治体、流出防止や移住促進 - 毎日新聞
学生の職業選択の自由について考えさせられる記事
国立大学改革を「地元就職向上」で評価に現場から不満噴出 | Close Up | ダイヤモンド・オンライン 国立大学改革を「地元就職向上」で評価に現場から不満噴出 | Close Up | ダイヤモンド・オンライン

先日ブログで書いた東京一極集中の話題
増田レポートを「霞が関の政策の前さばき・露払い」と見るならば、地域医療構想は!? - 医療、福祉に貢献するために 増田レポートを「霞が関の政策の前さばき・露払い」と見るならば、地域医療構想は!? - 医療、福祉に貢献するために

2017/05/16

遠隔モニタリングへの期待に対する医療者と保険者のギャップ

アクセンチュアのIoHTに関する調査レポート。

Accenture 2017 Internet of Health Things Survey Accenture 2017 Internet of Health Things Survey
個人的にはRemote Patient Monitoring(RPM)に関する医療者と保険者のギャップが興味深かった。

PDFのレポートをダウンロードしてご覧いただくとよく分かるのだが、Figure.5の領域別の注目度合い、医療者と保険者の比較がされている。

循環器領域は医療者も保険者も8割弱と非常に高い。これは日本でもペースメーカーの遠隔モニタリングに診療報酬が設定されたように、技術的にも十分なレベルに達している。

次のCOPDや喘息は、医療者の注目度が高い一方で、保険者はやや低くなっている。喘息はピークフロー値などをモニタリングし、服薬指示等を行っていれば、軽中症度の患者の重症化は防げるのではないだろうか。

一方、糖尿病に対しては、保険者の期待が高い一方で、医療者は低くなっている。保険者は透析予防などの取り組みとして遠隔モニタリングで血糖値やHbA1cを見ることを期待しているのだろうが、医療者はあまり期待していないようだ。

また、保険者の視点として、医療費を抑えるということだけでなく、満足度向上やより個別化された医療サービス提供に対し、RPMの価値を感じていて、このような取り組みが保険者のブランド力向上になるとも考えているようだ。

アメリカと日本では医療制度上の違いから、保険者の意識がかなり異なることを前提の理解として読まないといけないかもしれないが、なかなか興味深いレポートだ。

2017/05/14

心臓カテーテル検査・治療における被曝量低減の革新的アプローチ

SCAI 2017 Scientific Sessionsで発表されたロボット支援PCIのトライアルの結果が興味深い。

Real-world study of robotic PCI shows high success rates for patients across multiple sites Real-world study of robotic PCI shows high success rates for patients across multiple sites
橈骨動脈アプローチ452例、大腿動脈アプローチ298例で、それぞれかなり高い成功率になったと記事では書かれている。(成功の定義は、マニュアルアシストを要さない、入院を必要とする心血管有害事象が発生しない等)

そもそもロボット支援のPCIシステム自体を知らなかったので、色々と興味深い内容だ。動画を見た感じでは、ロボット支援手術システムのダヴィンチを想像すればよいと思う。


正直、カテーテル検査・手術は職人技の世界だと思う。ハイリスクな患者も含め、すべての患者の検査・治療がこのようなシステムで置き換わるとは考えにくい。しかしながら、医療チームの被曝量低減やロボット支援による精密性の向上などは、従来手法では得難いメリットであり、技術の進歩は、着実に何かしら世界を変えようとしているように感じた。

ちなみに、冒頭の記事はCorPath 200という旧来システムでの評価で、上の動画に出てくる最新機種のCorPath GRXはFDAの承認を得ているとのこと。今後が楽しみな技術だ。

CorPath GRX CorPath GRX

2017/05/12

統計ダッシュボード、面白いかも

統計ダッシュボード、今後の可能性を感じる。

統計ダッシュボード 統計ダッシュボード

都道府県別の一般病院数の経年変化の動画を作ってみた(ただ、単に再生ボタンを押しただけ)。


出典:統計ダッシュボード(http://data.e-stat.go.jp/dashboard

まだ、触って数分なので、さらっと、これだけだが。


2017/05/11

大学病院の脳梗塞症例増加から地域の課題を考える

昨日、CBnewsに記事を掲載いただいた。



この記事でボツにしたグラフの一部は、昨日のブログに。

「大学病院らしさ」には「国公立大学らしさ」「私大らしさ」があるのかもしれない - 医療、福祉に貢献するために 「大学病院らしさ」には「国公立大学らしさ」「私大らしさ」があるのかもしれない - 医療、福祉に貢献するために
脳梗塞は、救急搬送の受け入れや、急性期リハの提供状況、後方病床・施設との連携など、様々な課題が揃っている。そのため、経営課題等を把握する上での代表的な疾患として適している。しかしながら、大学病院はあまり脳梗塞を受け入れていないケースも多い。このような状況について、数年前からデータ分析結果を交えながら、様々な地域の医療関係者の話を聞いてきた。その中で、大学病院の役割が徐々に変化してきており、それを問題と感じて人や地域が出始めていることも事実である。そして、このような問題の議論には、感覚だけに頼るのではなく、データも重要ではないだろうか。

2017/05/10

「大学病院らしさ」には「国公立大学らしさ」「私大らしさ」があるのかもしれない

以前、「大学病院らしさ」をテーマに可視化を試みたことがある。

大学病院らしさを本院・分院で比較してみた - 医療、福祉に貢献するために 大学病院らしさを本院・分院で比較してみた - 医療、福祉に貢献するために
地域における大学病院と周辺病院の役割分担 - 医療、福祉に貢献するために 地域における大学病院と周辺病院の役割分担 - 医療、福祉に貢献するために

この分析では、疾患構成の違いを数値化した。しかし、大学病院本院がどこも同じような機能を有しているわけではなく、様々な事情に応じた医療を提供しており、大学病院間では違いがあることも事実である。

下はCBnewsの原稿に関連した分析でボツにしたグラフ。国公立大学は化学療法、放射線療法の患者数の比率が高く、救急車搬送症例の割合が低いと言えそうだ。一般論として、大学病院本院といっても、国公立大学と私立大学では救急搬送の受け入れなどに違いがあることを反映した数値だ。ただし、大学の背景や立地など事情が異なるため、これだけで各大学病院に対し、良い悪いの議論はできない。


しかし、診療報酬制度が厳しくなれば、大学病院とて経営を意識しなければならず、地域が意図していない方向に舵を切る可能性がある。情報の可視化と透明性の担保によって、地域全体の医療の質の向上のような議論がなされるべきだ。地域医療構想はそういったことを目指そうとしていることが分かる。病床数の議論だけに終始していてはもったいないと思うのだが・・・。

2017/05/08

増田レポートを「霞が関の政策の前さばき・露払い」と見るならば、地域医療構想は!?

ゴールデンウィークに読んだ本のひとつ。



色々と勉強になった。

GW中のニュースで、ちょうど東京一極集中が続いていることが報じられていた。この本でも様々な首長が東京の一極集中について国レベルで対策を講じなければならないことを述べていた。

東京新聞:一極集中の解消、目標修正へ 20年達成困難で政府検討:政治(TOKYO Web) 東京新聞:一極集中の解消、目標修正へ 20年達成困難で政府検討:政治(TOKYO Web)

東京都の保育所の待機児童対策などは出生率向上に貢献するかもしれないが、東京一極集中の解消にはマイナスなのでは?といった疑問も浮かぶ。国家レベルでの全体最適は非常に難しい課題である。

この本でとても興味深かったのは、後半に掲載されていた元鳥取県知事・元総務大臣の片山善博氏を交えた座談会だ。

増田レポートに対する片山氏の地方自治に対する意見が非常に興味深い。以下、一部引用する。
いろいろな自治体の町長さんとか議員さんと会うと、皆さん動揺して浮足立っているように感じますが、そんなに深刻に浮足立つことはないですよと申し上げています。
多少うがった見方かもしれませんが、このレポートには一種の意図があります。人口の行方を客観的に示した面ももちろんありますが、実はこれを示しておいて、その後に続く政策が出てくるわけです。待ってましたとばかりに、コンパクトシティーとか、地方中枢都市圏構想とか、選択と集中とか、いずれも霞が関の各省がやりたいことなんですよ。
これ、増田レポート ⇒ 地域医療構想 と置き換えるとどうだろうか。それぞれ、次のように読めないだろうか。

自治体の町長さん・議員さん ⇒ 病院の理事長・院長、事務長
人口の行方 ⇒ 医療需要・病床の行方
コンパクトシティー・地方中枢都市圏構想 ⇒ 病床機能再編
選択と集中 ⇒ 病院統廃合
霞が関の各省 ⇒ 厚労省と総務省、財務省あたり

話は非常に通じる。では、片山氏の意見の続きを見よう。
レポートにはその前さばきというか、露払いみたいなところがあって、そういった眼で見れば、国交省、総務省、財務省など霞が関の政策をやりたい人たちがいて、スムーズに進めるためには、まずガツーンとやって地方を浮足立たせ、政治にもインパクトを与える、そんな効果を期待したと思います。まさにその通りになりました。
地域医療構想が前さばきになっているというのも分からなくもない。

地方を浮足立たせ ⇒ そのまま、各都道府県、二次医療圏
政治にもインパクトを ⇒ 診療報酬にもインパクトを

なんとなく、そのまま、読み替えることができそうだ。さらに続く文章を見てみよう。
だから、打ちひしがれて、気力もなくしてしまうということではなくて、自治体はこれまでの政策を点検し、今後どうすればいいかということを積極的に、これを好機として考えたらいいと思いますね。
結論は、地域医療構想を好機として、積極的に今後どうすればよいか考えればよい、ということになるだろう。

この本を読んでいて感じたことは、人口動態等に起因する医療の世界の問題は、医療固有の事象ではなく、地方行政や学校など様々なことと共通点があるということだ。2年以上前の本で、いまさら何を・・・という話だが、改めて違った視点で読むことができたように思う。なので、また数年経ったら読み返してみると面白いかもしれない。

2017/05/07

効率性係数改善に向けた散布図の作り方

昨年、CBnewsに掲載いただいた記事のひとつを、有料会員以外の登録者に公開いただいた。会員登録さえすれば誰でも読めると思うので、ぜひ、この機会にどうぞ。

効率性係数改善に向けて院内を動かす方法 - 医療介護CBnews 効率性係数改善に向けて院内を動かす方法 - 医療介護CBnews

ちょうどよい機会なので、CBnewsの記事の散布図を作る手順を紹介する。

Step.1 DPC公開データの対象となる疾患を選ぶ

下記は、分かりやすいように、誤嚥性肺炎(手術有無)のデータだけ抜粋して、新規ファイルで作業している。


Step.2 対象コードを絞り込み、10件未満のデータを、0 に置換

次に、誤嚥性肺炎のうち、99手術なしにフォーカスするため、それ以外の列を削除した。さらに、散布図を作る準備として、件数10件未満のデータである「-(半角ハイフン)」を「0(ゼロ)」に置換する。このとき、範囲は上から下まですべてを選ぶ。


Step.3 散布図を挿入する

その選んだ範囲で、メニューの「挿入」にある「グラフ」の散布図(下の図を参照)を選択する

Step.4 自院を強調する(おまけ)

自院を強調する方法は様々あるのだが、個人的に採用している方法は下の手順。
(ここでは、DPC病院Ⅱ群のなかで誤嚥性肺炎の件数が最も多かった湘南鎌倉総合病院を自院とした)

まず、在院日数の列の右側に、自院のところは「=E120」という数式を書いている。単純に隣の列を参照しているだけだが。

次に、散布図の範囲を、D列とE列で選んでいたものを、F列に広げる。(散布図上にカーソルをフォーカスさせると、データ範囲が表示されるので、その右上を掴んでF列に広げる)

すると、下のような感じで、自院だけがオレンジ色になる。


Step.1~4までの動画


動画のとおりで、慣れれば、この作業は1分もかからずにできる。


以下、余談。1年近く前の話なので今更ではあるが、ブログでは関連した話題として、診療報酬改定でDPC機能評価係数Ⅱの標準化が期待はずれだったことを書いた。こちらもよろしければどうぞ。

CBnewsに記事が掲載されました ~効率性係数改善に向けて院内を動かす方法~ - 医療、福祉に貢献するために CBnewsに記事が掲載されました ~効率性係数改善に向けて院内を動かす方法~ - 医療、福祉に貢献するために

2017/05/05

パフォーマーとトランスフォーマー、ハイブリッド型の人材活用をテーマにした記事

日経ヘルスケアの2017年5月号に「データ分析を病院経営に活かす」というタイトルの記事を掲載いただいた。これまでセミナー等で繰り返し述べているデータに基づく経営について書かせていただいた。内容はデータ分析のテクニックではなく、人材育成にフォーカスしたものとなっている。

(余談だが、文章力のない自分が書いた元の原稿は、校正の超絶的な手入れにより劇的に読みやすさをアップさせている。まるで自分の文章とは思えない出来栄えに)

日経ヘルスケア 2017年5月号 P.59~
4月あたまくらいにこの原稿を書いていたのだが、先週、下の記事を読んだ。

「業績を担う人材」と「変革を担う人材」、組織変革で二つの異なる才能を共存させる | 未来の日本企業への提言|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 「業績を担う人材」と「変革を担う人材」、組織変革で二つの異なる才能を共存させる | 未来の日本企業への提言|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
この記事から、一部抜粋。
同時並行で進行する数々の破壊的な変化の最中において、我々が議論を重ねる企業の中には、未来志向の新たな取り組みを前進させる企業がいくつか存在する。こうした企業の共通項として見られるのは、「業績を担う人材」と「変革を担う人材」という二つのまったく異なる性質を持つ人材群を同時に利活用し、短期的な成果と長期的な変化の難しいバランスを実現する、ハイブリッド型の人材活用の考え方の採用である
 「業績を担う人材(パフォーマー)」と「変革を担う人材(トランスフォーマー)」の話は、まさに今回日経ヘルスケアに載せていただいた内容に通じるもので、病院ではパフォーマーの育成に偏重していて、トランスフォーマーの視点が欠けていることを述べさせてもらった。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事には人材採用や評価にも触れられている。日経ヘルスケアの原稿では採用に深く触れていないが、これまで様々な医療機関のトップ層とのディスカッションから得た知見について簡潔に述べさせてもらった。

というわけで、ちょっとこじつけ感があるかもしれないが、日経ヘルスケアの拙稿、お読みいただければ幸いだ。


2017/05/01

オープンデータが都道府県格差を明らかにする

先日の中医協で示された下記グラフ。
出所: 平成29年4月26日(水)中央社会保険医療協議会 総会(第350回)「入院医療(その3)について」

平均点数は医療区分の違いで説明できるのでは?と思ったので、確かめてみた。

上記の中医協のグラフから数値を読み取り(縦軸)、第1回NDBオープンデータの療養病棟入院基本料の算定回数から医療区分の比率を算出した(横軸)。

出所: 上記中医協資料、第1回NDBオープンデータを基に算出

出所: 上記中医協資料、第1回NDBオープンデータを基に算出

関係性はありそうだがはっきりしない。ADL区分や、療養2における100分の95の減算、31日未満の入院者割合、入院基本料以外の診療報酬等々、様々な影響があるので、この結果は仕方ないだろう。

ただ、思った以上にすっきりしない結果で残念。まだ中医協の議事録もないので、どういった意図でこのグラフが示されたのか分からないが、正しい議論がなされているか判断するためにも、こういった都道府県比較を紐解く作業は続けていきたい。

オープンデータはこういった外部検証にも非常に有効であり、さらなる開示を期待したい。

中央社会保険医療協議会総会審議会資料 |厚生労働省 中央社会保険医療協議会総会審議会資料 |厚生労働省