2016/04/26

半年かけて6000回再生された動画が、わずか3日で11万回を超えた? ~倉敷中央病院 研修医実技トライアル~

この動画、わずか3日で再生回数が11万回を超えている。

 

半年くらい前から公開されている日本語バージョンはまだ6000回しか再生されていないのに、この英語バージョンはたった3日で11万回。驚いた。(病院が作成する動画としては6000回でも十分多い)

詳しく理由を調べるつもりはないのだが、もしかしたら広告の世界で注目されているのかもしれない。

TBWA\Hakuhodo and Kurashiki Central Hospital's 'Surgeon Tryouts' disrupts the traditional practice of recruiting the most skilled surgeons in Japan - Campaign Brief Asia
Ad of the Day: TBWA Helps to Train Medical Students … Using Origami, Sushi and Insects | Adweek

プロの作る動画クオリティはスゴい。

TBWA\HAKUHODO

小さな病院でこういったところ頼むのは非現実的かもしれないが、アイデアと行動力で突破できるところはあるように思う。

しかし、プロはスゴいな。

2016/04/25

患者が抱く大病院志向を診療報酬で後押ししてはいけない

半年前に福岡で開催された学会で色々な発表を聞きながら感じたことを書いたのが、下の記事。

カバー率は医療の質を表しているか - 医療、福祉に貢献するために

医療機関の努力を評価することは大賛成である。しかしながら、評価の仕組みがうまく出来ておらず、努力しても評価されないのであれば、害悪でしかない。

カバー率は病床数だけで決まってしまう指標であり、病院の努力がまったくといっていいほど反映されない。一般的な患者の抱く大病院志向が極端に進むと、医療連携システムを破壊することになり兼ねない。ちょっとした病気で大学病院や大病院に患者が行くと、本来、希少疾患や重篤な患者を見るべき医療資源が、軽症患者で使われてしまう。2016年度の改定で大病院を紹介状無しで受診した場合、5000円以上の自費での料金徴収を義務化したのは、それを阻止したいためだ。

このような対策を打っているのにも関わらず、カバー率は大病院を評価する仕組みになってしまっている。無条件で大病院が評価される仕組みがあることは理解し難い。ましてや、今年の改定で、カバー率の定義が若干変わったことにより、さらなる大病院評価の動きが加速してしまったようだ。この内容について、先週からシミュレーションしていたのだが、結果はかなり想定以上に大病院が評価されているものであった。なお、このシミュレーションの詳細結果は、今週のCBnews managementに載せていただく予定だ。

2016/04/24

駅ビルに入る大学病院(クリニック) × ロボットスーツによる先進的なリハビリテーション

木~土曜まで、医療マネジメント学会等で福岡にいた。博多駅の博多口がとてもきれいになったと思っていたら、ちょうど、KITTE博多のオープン日だったらしい(金曜のローカルニュースで知った)。

そのKITTE博多には、福岡大学のクリニックが入っているらしい。

福岡大学博多駅クリニック|HAL®での運動療法や女性専門医療を行っています

医療の中身として、大学病院や高度急性期病院がアンテナショップ的に駅ビルに入れるクリニックとしては、女性外来や検査・検診などが一般的なものだろう。もちろん、福岡大もそこはしっかり押さえている。興味深いのがHALを用いたリハビリテーションだ。リハビリを選んだ理由は、利便性の良さだけではないだろうが、博多駅前は別格の利便性の良さだろう。(福岡大学病院や福岡大学筑紫病院も十分利便性が良い)

ちなみに、似た施設としては、あべのハルカスに入っている大阪市立大学のものが思いつく。偶然KITTE博多のオープン日に福岡にいたが、あべのハルカスのオープンの日にも偶然天王寺にいた。

2年前に撮ったあべのハルカスの広告(メディカルモール+大阪市立大学のクリニック)
あべのハルカスの診療内容もやはり女性外来や検診等だ。

MedCity21公式ホームページ大阪市立大学医学部附属病院 先端予防医療部附属クリニック

このようなクリニック。なぜ大学病院がやるの??と感じることもある。ただ、患者に魅力的な面があることはもちろん、働く医師にとっても魅力があると聞いたことがある。人材確保が大学・医療機関としての競争力の源泉となるのであれば、このような他と違った取り組みは重要なのかもしれない。

2016/04/23

レーサー目指して運転技術の向上をしたいのなら、オートマ車はダメ?

一昨日、医用工学研究所のセミナーにて、データ分析の話をさせていただいた。

4月21日のセミナー内容
データを活かすには「人」と「システム」の両輪が必要で、長期的観点では、人を育成することが重要であることを話した。簡単に分析結果が得られるシステムは、一見便利なようで、分析技術の習得などの人材育成ができなくなってしまう。

車の運転で例えれば、オートマチック車で、ギヤを変えることなく運転技術を磨いたところで、自動車レーサーにはなれない。レーサーになるのなら、マニュアル車で変速技術を学ぶ必要がある。・・・という話をしようと思ったのだが、最近のF1カーはセミオートマのパドルシフトらしく、クラッチベダルもついているらしい。(自分が詳しく知らない領域の話で喩えるのは危険だ)

また、セミナーでは医用工学研究所の北岡氏の話を聞いたのだが、色々知らないことがあり、大変興味深かった。データウェアハウスを病院で活かしていくことは、経営、研究、様々な領域で貢献するに違いない。

さらにセミナー後、色々興味深い話を出席者から伺うことができた。このような機会にも大変感謝している。本当に参加いただいた皆様と機会をくださった医用工学研究所の皆様に感謝である。

株式会社医用工学研究所 – 医療用データウェアハウスCLISTA! -

2016/04/22

6/18 日経ヘルスケア 特別セミナーで話をさせていただきます

先月日経ヘルスケアのセミナーでMMオフィスの工藤氏と一緒に医療圏シミュレーションデータを用いた経営戦略の話をさせていただいた。大変ありがたいことに早々に満席になり、また、セミナー参加者からの感想では大変励みになるご意見を頂戴した。

弊社のスタッフからは「工藤氏のネームバリューと日経ヘルスケアの信頼と宣伝・営業力のおかげであり、勘違いするな」と厳しく言われてしまったが、まさにそのとおりと自分でも思っている。

その工藤氏と日経ヘルスケアにおんぶにだっこでお世話になり、また6月にセミナーを開催させていただくことになった。自分の役割のひとつは、工藤氏のコンサルライブの醍醐味を最大限引き出すことと考えている。

日経ヘルスケア~医療・介護の経営情報誌~特別セミナーのご案内
前回より定員が増えたとは言え、120名までとのことなので、ご興味があれば、下記のウェブを参照いただきたい。


日経ヘルスケア~医療・介護の経営情報誌~特別セミナーのご案内

2016/04/19

調剤医療費の伸びは、今後、ますます課題になるだろう

調剤医療費の急激な伸びは、日本だけでなくアメリカも課題のようだ。画期的なC型肝炎治療薬や抗がん剤の登場による影響が大きく、ニュースなどで話題になることも多い。

下の図はKaiser Family Foundationが作成した調剤医療費のトレンドを示したものだ。

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2510894
解説等はJAMAやKaiser Family Foundationのサイトで読むことができる。

JAMA Network | JAMA | Recent Trends in Prescription Drug Costs

Visualizing Health Policy: Recent Trends in Prescription Drug Costs | The Henry J. Kaiser Family Foundation

図の左下で紹介されているヒュミラとコパキソンの薬剤費(1ヶ月分)について、スイスとアメリカで比較したものが興味深い。コパキソンはスイスが1,357ドル(1ドル=108円で約15万円)、アメリカが3,903ドル(同42万円)らしい。日本は1日5,501円(2016年4月時点)、1ヶ月で約16万5千円なので、スイスとほぼ同じ水準だ。

中医協の資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000104464.pdf)を見たところ、やはりアメリカが突出している。
20mg1mL1筒
米国 244.42ドル 28,597円※
英国 18.36ポンド 3,341円
独国 55.62ユーロ 7,620円
仏国 29.72ユーロ 4,071円
外国平均価格 5,011円
(注1)為替レートは平成26年10月~平成27年9月の平均
(注2)外国の価格に大きな開きがあるので、調整した外国平均価格を用いている(※は最低価格の3倍を上回るため対象から除いた。)
モノの値段の付け方は難しいが、あまりにも高い薬が増えれば、健康保険制度自体が崩壊しかねない。だからといって、保険対象外になってしまえば、お金のあるなしで受けられる医療に差が生じてしまう。また、薬を開発しているメーカーにとってみれば、慈善事業をしているわけではないので、儲けられない薬は開発しなくなる。なかなか難しい問題だ。

調剤医療費の伸びを考えると、ジェネリックを使う等の努力が不可欠で、その結果、医療費増加が抑制できれば、新薬も保険で使え、結果的に、健康保険制度における質が上がる。

つまり、ジェネリックの利用促進は、医療の質の向上に貢献できる、と言えるのかもしれない。

調剤医療費の伸びを可視化してみる - 医療、福祉に貢献するために

2016/04/18

カルテのテキストデータを活用し医療の質を上げる取り組み ~5 Industries Using Data To Solve Their Biggest Data Challenges~

電子カルテに記載されている文章のような非構造化データを活かし、心不全の再入院リスクを予測しているテキサス州オースティンのSeton Healthcare Familyの事例が紹介されている。

(Seton Healthcare Familyの話は29分40秒過ぎくらいから)

Setonの持っているデータの実に8割が非構造化データで今まで活かせていなかったようだ。でも、その文章データにはプライスレスな情報があり、IBMのシステムにより、意味を持たせることができ、おかげで、医者はよい治療判断とアウトカムを得られるようになっているようだ。

この動画自体は今年の4月に公開されているのだが、おそらくこのSetonの事例は以前からあったように思う(下記のように、すでに2012年くらいにはWatsonを使った事例として紹介されている)

Seton Healthcare Family reducing readmissions to improve care

4年前の話だから、もう古い・・・ということはまったくなく、もちろん今でも十分興味深い話だ。

2016/04/14

院外処方か院内処方という比較ではなく、医療の質向上の最善策を考えるべき

昨日は、ある病院の理事長と色々な話をさせてもらった。その話題のひとつに、院外処方と院内処方のクオリティがあった。院内であれば絶対的に質が高い、院外は質が低い、という断定的な見方はしないが、人材育成などの観点で、大規模な病院における薬剤師は、非常に成長する機会に恵まれているように思う。特に院内処方もしている病院は最強なのではないかと思っている。もちろん、チェーン薬局でも育成に力を入れていることは知っているが、入院中の治療薬に関する理解や情報(特に問題になった事象の共有など)のボリュームには少なからず差が生じているだろう。

その理事長は、持っている情報の差も大きいと言っていた。院内のすべての情報にアクセスでき、処方・指導できることは、医療の質に大きな差が生じているはずである、と。まだ患者はその違いを理解できていないかもしれないが、決定的な差があるはずで、薬価差益が得られようとも得られなかろうとも、病院としては、医療の質を上げねばならない、とおっしゃっていた。

診療報酬改定で新設された「かかりつけ薬剤師」の制度がうまく行くかどうかの議論とはあまり関係ない。本質的な医療の質を考えたときに、ベストな体制はどうあるべきなのか、ということだ。

持論は門前の調剤薬局の薬剤師がすべて病院に移動したら、医療の質は上げられるのではないか、と考えている。(下記のブログ記事に考えをまとめている)

薬剤師の能力を活かす”ポテンシャル”の可視化 - 医療、福祉に貢献するために

このような、患者がまだ敏感でない「薬剤師の質」に対しては、今までも、色々な方に話を聞いたりしていたのだが、そのひとりがメデュアクトの流石氏(会社概要 経営コンサルティングファーム 株式会社メデュアクト)だ。その流石氏がMMオフィスの工藤氏とセミナーをするらしい。

内容を見ると、かなりニッチなところを攻めてきたようだ。最近、似たような診療報酬改定セミナーで食傷気味の方には持ってこいだろう。個人的にも相当楽しみだ。

2016/04/13

親向けの「こども情報」にアンパンマンは必要か?

厚労省のホームページにアンパンマンが出ている。昨日は、厚労大臣とアンパンマンが一緒に写真を撮られた記事が掲載されていた。

フォトレポート(アンパンマンが塩崎厚生労働大臣に会いにやってきました!)|厚生労働省

小児救急電話相談のアピールのためで、小児=アンパンマン、という発想は理解できる。

社内で議論していたら、
  • 子供はアンパンマンが好き。無難な選択
  • 電話するのは親や家族なのだから、アンパンマンでなくて良い
  • アンパンマンは何にでも出過ぎ
といった話も出たが、何はともあれ、周知できれば、それでよい。

ホームページには、深夜0時以降の対応有無等、情報が一覧化されている。

小児救急電話相談事業(#8000)について |厚生労働省

以前、ブログで#8000のことは何度か書いている。よろしければ、こちらもどうぞ。

2016/04/12

金持ちはどこでも長生き。貧乏は場所によりけり

ニューヨーク・タイムズの記事タイトルを訳せば、表題のようなものになるだろうか。

The Rich Live Longer Everywhere. For the Poor, Geography Matters. - The New York Times

興味深い内容だった。所得の多い群はどこに住んでいても寿命に大差ないが、所得の少ない群は寿命に地域間格差があるという話だ。背景には、地域により、低所得者層に対する保健医療サービスが異なっていることなどが考えられるとのこと。

所得による余命の違いについて、上の記事では、ニューヨークとデトロイトの比較をしたグラフが載っている。また、記事の基になっている論文では、ニューヨーク、デトロイトに加え、サンフランシスコ、ダラスもプロットされている。人種・民族調整後の40歳時点での平均余命を比較しているものだ。
Race- and Ethnicity-Adjusted Life Expectancy by Income Ventile in Selected Commuting Zones, 2001-2014Estimates of race- and ethnicity-adjusted expected age at death for 40-year-olds computed by income ventile (5 percentile point bins).
Source: JAMA Network | JAMA | The Association Between Income and Life Expectancy in the United States, 2001-2014 Published online  April 10, 2016. doi:10.1001/jama.2016.4226


所得により余命が異なるという事実も興味深いが、地域により、その格差が広がるというのは非常に興味深い。日本で同じようなことを考えるならば、所得により食生活が異なってしまうのは致し方無いにしても、地域により、その振れ幅が異なってしまうということだろうか。例えば、漬け物大好き東北地方は、高所得者は低所得者に比べ漬け物よりおかずに重きが置かれる、とか。

グラフに惹かれて記事を読んだのだが、できれば記事の基になっている論文を読むべきかもしれない。

JAMA Network | JAMA | The Association Between Income and Life Expectancy in the United States, 2001-2014

2016/04/07

最新ITで売り方激変

昨日の日経産業新聞の記事が興味深かった。 一部、引用する。
JR上野駅近くにある永寿総合病院(東京・台東)。産婦人科の天井や壁にはアンテナや箱形装置が取り付けられている。生まれたばかりの乳児の足と母親の手首にはタグが付けられ、不審者が乳児を連れ出したり、異なる母親に渡ったりすると「ビーッ」と大きな警告音が鳴る。
 サトーホールディングスが新しく開発したサービスだ。シンガポールのIoTベンチャー、キャディの技術を活用し、昨年8月に導入した。
様々な応用が利きそうな話だ。

記事は「最新ITで売り方激変」というタイトルで、同時に紹介されていたのは、パナソニックの業務用冷蔵庫だった。なので、IoTにより、ただ製品を売るのではなく、サービス・価値を提供することの重要性を説いている。

サトーホールディングスの話も、以下のように続いている。
サトーの主力はバーコードラベルやプリンター。病院にはこれまで血液検査用バーコードや患者用リストバンドを納入してきた。しかしIT(情報技術)の進化で、製品の単品販売では成長に限界来るという危機感があった。
 これまでコンサルティングなどに力を入れてきたが、IoTを活用した新サービスで病院との関係はより深まる。傘下のサトーヘルスケア(東京・目黒)の岩下正範主任は「シールやプリンターではなく『安心』を売る。提供する価値を明確にしたサービスが重要」と話す。
 これは、商品を売っている人だけの話ではない。誰もが共通に考えなければいけないことだろう。自分のデータ分析も然りだ。

2016/04/05

データを開示すれば、勝手に分析しだす 書評: 「学力」の経済学(おまけ)

『「学力」の経済学』に関する話の最後に、強く共感した箇所を引用しておく。
南アフリカは、労働力調査や家計調査などの政府統計の個票データをインターネット上で世界中のすべての人に公開しています。この理由について尋ねたところ、「データを開示すれば、政府がわざわざ雇用しなくても、世界中の優秀なエコノミストがこぞって分析をしてくれる」という答えが返ってきました。
医療の世界も同じだ。プライバシー等への配慮がなされるならば、これほど価値ある手法はないだろう。この方法がいかに優れているかは、自分が説明するまでもない。次の一文のとおりだ。
なんというクレバーな方法でしようか。研究者は、常に「Publish or Perish(出版か、消滅か)」という強いプレッシャーに晒されていますから、情報量が多く、代表性のあるデータであれば、多くの研究者はそのデータを分析して、論文を書きたいと思うでしょう。南アフリカ政府は、その研究者の性質をうまく利用しているのです。実際に南アフリカ経済に関する研究はデータを公開するようになってから、急速に進みつつあります。
医療のデータも開示されれば、研究が進むだろう。DPCのデータに限って言えば、現状の限られたデータであっても、様々な論文が発表されている。レセプトデータ等のナショナルデータベースやDPCデータ、外科系のNCD等々、活用の自由度が高くなれば、今まで以上に価値ある論文等が発表されるに違いない。

次に引用した一文も強く共感した部分だ。
国民の税金を投じて収集されたデータは政府の占有財産ではありません。国民の財産であるべきものです。このデータを有効利用してほしいと思っているのは、私だけではないはずです。
データの有効利用を意識した取り組みがどの領域においても重要だということだろう。来年度からDPC病院では実績開示により係数の評価が始まる見込みだが、データ有効活用の視点が足りないように思う。『研究者や民間事業者が勝手に実勢開示したくなる』データというものを開示した方が大きな価値を生むように思う。

実績開示、情報の資源化の観点が抜けている - 医療、福祉に貢献するために

2016/04/04

読み手に背景の理解力が求められる「ランキング」 書評: 「学力」の経済学(後半)

昨日、『「学力」の経済学』の中で、全国学力・学習状況調査について、ばっさり切り捨てていることの1つ目の理由、教育生産関数にまつわる話を紹介した。今日はまず2つ目の理由を紹介したい。

一見網羅的な調査のように思えるものだが、実際は私立校があまり参加していないらしいのだ(以下の引用した文章を参照)。
実は、これには事情があります。全国学力・学習状況調査は、私立校も自由に参加してよいことにはなっていますが、まだまだ参加校が少ないため、実質的には「日本の小・中学生の学カテストの都道府県別順位」ではなく、ほぼ「日本の公立小・中学生の学カテストの都道府県別順位」となっているのが現状なのです。
この話、病院ランキングでもしばしば似た話がある。病院をランキングして、全国の1位から順に病院名を並べているのだが、そのベースとなっているデータは、アンケート結果やDPCデータであったりする。アンケート結果であれば、回答しなかった病院はランクインしないし、DPCデータであれば、DPC対象でないクリニックなどは漏れてしまう。

つまり、読み手の「背景を理解する力」が問われる内容であるのだが、そこまで分かっていてランキングを見ている人はほとんどいないのが実情だろう。『「学力」の経済学』でも同じような懸念が指摘されている。
学力の分析の本質は、アウトプットである学力とインプット -家庭の資源や学校の資源- の関係を明らかにし、何に重点的に投資をすれば子どもの学力を上げられるかを示すことにあるのです。しかし、私の知る限り、そのことを正しく理解している自治体や教育委員会は少なく、単純に都道府県別順位に一喜一憂してしまっているように見受けられます。 

病院ランキングの問題点やどうすべきか考える上で、『教育』というまったく違う分野の内容が非常に参考になることがご理解いただけたら幸いだ。

明日は、この『「学力」の経済学』の話題の最後に、オープンデータの力について言及していた箇所を紹介しようと思う。


余談だが、全国学力・学習状況調査のデータを使って分析したことがある。

こどもの虫歯から、相関と因果を考える(第4回)
正直、そのような私立校があまり参加していないという背景まで理解せずにデータを使っていた。自分が「患者もヘルスリテラシーが・・・」といったことを言っている割に、専門外の教育に関しては、データの背景などまったく理解できていなかった。恥ずかしながら、これが現実だろう。改めて、専門家でない一般市民のリテラシーを高めることの難しさを感じた。

2016/04/03

教育と医療の共通点 書評: 「学力」の経済学(前半)

教育と医療は似ている点が多い。まず義務教育として、小学校からスタートし、中学校、高校、大学と進級していく。小学校から私立の学校に行く人もいるが、多くは公立の地元の学校に通う。一方で、高校、大学と進学するにつれ、私立を選ぶ人が増え、遠方の学校にも行く。医療も同様、風邪をひくと身近なクリニックに行き、虫垂炎になると近くの病院に行く。がんになると近くの病院で手術を受ける人もいる一方で、遠くの病院まで行く人もいる。

そのような共通点ゆえに、学校選び、病院選びの本やサイトがあるのかもしれない。学校は入試というハードルがあるため、学力等を目安に選択肢が絞られる。一方、病院はフリーアクセスゆえ、どこでも選べる。だからこそ、病院選びには難しさもあると理解している。

教育について、データに基づく議論を分かりやすく書いてくれている本が中室牧子氏の『「学力」の経済学』だ。文科省の「全国学力・学習状況調査」の結果について、都道府県別の順位がマスコミ等で大々的に報じられることに対し、次のように、ばっさり切り捨てている。
公表のたびに大きな話題になる学カテストの都道府県別順位ですが、実は私は、これは学校教育の成果を測るうえではほとんど意味がないと考えています。
その理由について、2つのことを指摘している。1つ目はそもそもの背景となる学力の違いだ。この点については生産関数を用いて説明している。
教育生産関数におけるアウトプットは学力であり、インプットは、図5にあるように、「家庭の資源」(親の年収や学歴、家族構成など)と「学校の資源」(教員の数や質、課外活動や宿題など)の大きく2つに分けられます。そして、標準的な学力の分析においては、家庭の資源が学力に与えている影響を取り除いたうえで、学校の資源が、それぞれどの程度子どもの学力に影響を与えているかを明らかにしようとします。

教育生産関数(上の引用した文の「図5」のこと
出所: 「学力」の経済学 (中室牧子著) の図を基に作成

生産関数に準ずる考え方について、以前、医療と教育の「ランキング」の共通点として、このブログでも話題にしたことがある。

病院ランキングと高校ランキングの共通点 - 医療、福祉に貢献するために

さきほどの教育生産関数を参考に、医療の生産関数を作成してみた。

医療生産関数
上の教育生産関数を参考に作成

病院の純粋な実力は、インプットとアウトプット、両方明確にしなければならない。なので、ランキングは、アウトプットだけで並べることも危険だし、ましてや病院の資源だけで並べることも危険なのだ。

(後半に続く)