2016/07/28

データは武器だ! ~心臓手術後の肺炎リスクとの戦い~

術後合併症のリスクモデルを新しく作った話。

To Fight Pneumonia Risk After Cardiac Surgery, Data Could Be the Weapon | University of Michigan

一部引用。
The key culprits were admission for heart surgery via the emergency room; a history of lung problems; a long hospital stay before surgery; and low ejection fraction, a measurement of how much blood is pumped out by the heart with each beat.Another well-recognized risk factor for postoperative pneumonia is smoking, although quitting — even just a month before surgery — can help.Elevated white blood cell count, called leukocytosis, was also a significant predictor.(意訳)主なリスクには、救急患者、肺機能に問題がある患者、術前に長期入院している患者、低駆出率患者・・・などがあり、また、喫煙などもよく知られた要素だ。また、白血球増加症も要素だ。
内容に斬新さはあまり無いように感じるが、こういったリスクモデルを現場で活用して行くことは大事なことだ。記事の元になった論文(A Preoperative Risk Model for Postoperative Pneumonia After Coronary Artery Bypass Grafting. - PubMed)には以下のように書かれていた。
This model may be used to provide individualized risk estimation and to identify opportunities to reduce a patient's preoperative risk of pneumonia through prehabilitation. (意訳)このモデルにより、個人のリスク評価を行い、術前リハビリテーションによる肺炎リスク低減の対象者を特定できるだろう 
国が持っているデータでリスクモデルを構築したら、もっと精緻なものができるように思う。国はデータを収集することの目的に「現場に武器(今回で言えば、このリスクモデルのようなもの)を配ること」を掲げてみてはどうだろうか。欲を言えば、オープンデータ化してくれれば、この取り組み自体、国がやる必要もないが。

2016/07/21

私は○○○○でやせました

Pokémon GOが世界中で話題らしい。そのブームに載って、自分の身体がたるんでいることの証である体重を晒してみたい。

というのも、実はPokémon GOのフィールドテスターとして、3月末から6月末まで、プレイしていたのだ。アプリの内容は、機密事項のため、まったく誰にも話していなかったが、週末などで空いている時間にちょこちょことプレイしていた。要は、歩きまくったのだ。

その結果が下の体重の推移である。
直近5ヶ月の体重推移とPokémon GOのフィールドテスト期間(薄緑色の期間)

この5ヶ月で約5kgくらい体重が落ちたのだが、Pokémon GOさまさまと言っても過言ではない!(そう思い込みながら、目を細めてグラフを見れば、Pokémon GOのおかげにしか見えなくなるはず!? ・・・本当はfitbitで歩数も計っているので、それを一緒に示せばいいのだが面倒なので割愛)

実際、ここ数ヶ月はよく歩いたと思う。行き先によって、これまで車で通勤していたところにも、極力公共交通機関を使ったり(ただし電車等の中でPokémon GOはできない)もした。やせる気はなかったが、結果として、体重は減った。

まぁ、Pokémon GOでも何でもいいのだが、外で動くことは良いことだ。実体験を踏まえ、今週の大学の講義では、医療費増加を抑えるのにPokémon GOは役立つのでは?なんて話をしてみた。Pokémon GOの正式リリースが待ち遠しい。

2016/07/20

CBnewsに記事が掲載されました ~効率性係数改善に向けて院内を動かす方法~

CBnewsに記事を掲載していただいた。

効率性係数改善に向けて院内を動かす方法 | 医療経営CBnewsマネジメント

効率性係数の改善取り組みについて、分析手法を説明してみた。ステップを踏んで、分析を行うことで、大体の病院は課題が見えてくる。ただ、課題解決の糸口を探すことが難しい。そこで、糸口を探す考え方について、簡単な事例を交え、記事にしてみた。

今回ボツになったものはこちら。

効率性係数の推移
出所: DPC評価分科会資料を基に計算 (平均値は単純な平均値。加重平均値ではない)

効率性係数の推移だ。係数改善の趣旨とは合わなかったので載せなかった。

平均値は2015年度から2016年度で、わずかしかアップしていない。1.5倍になるのでは?と期待していたのだが・・。重症度係数が新設されたことを差し引いても、完全に肩すかしを食らった感じだ。

また、最大値で見ても、ほとんど変わっていない。これは、分散が均等になるように標準化を行うと言われており、厚労省の資料では、効率性係数は最大値がアップするような検討がなされていた。しかしながら、後発医薬品係数の分散が小さくなってしまったので、フタを開けてみれば、効率性係数にほとんど影響がなかった。これまた肩すかしだった。

効率的な病床利用に対する評価は非常に重要なことであり、今後も評価を重視すべきと考えている。しかしながら、上記のような結果では、努力しているところがさらなる努力をしたくなるようなインセンティブにはなっていないように感じる。DPC評価分科会では、「標準化」の議論ひとつ取っても、せめて来年度の数値を想定しながら(例えば、後発医薬品係数の変化はある程度読めていたはず)、より適切な係数となるよう配慮がなされてもよいのではないだろうか。

2016/07/17

「本当に強い大学」を読みながら「本当に強い病院」を考える

海の日も含めた三連休は、土曜と月曜に仕事が入り、いつもの週末と同じようになってしまったが、昨日は、とある大学の大学院開設記念の講演会を拝聴してきた。その帰り道にちょうど読んだのが、臨時増刊・別冊 週刊東洋経済 臨時増刊 本当に強い大学2016

ランキングなどは、いつもながら、あまり興味はないのだが、馳浩文部科学大臣のインタビューが興味深かった。
残念ながら人口減少社会に入り、18歳人口はつるべ落としのように減っていく。そういった時代に、高等教育機関の機能を強化するには、規模は大きいほうがいいに決まっている。大学経営も安定する。 
「大きい方がいいに決まっている」かどうかは良く分からないが、大学と病院の課題感は似ている。メインターゲットが18~22歳前後か、高齢者かの違いはあれど、人口減少局面に突入し、需要が大きく変化する点は共通だろう。また、需要がある程度読める点も同じだ。
したがって、大学経営の観点から言えば、大学M&Aというのは避けて通れない。国公私立大を含めた再編も視野に入ってくる。(中略) いちばん心配しているのは地方のことで、地方創生を進めるうえでも各大学が生き残り策を考えるべきだ。
再編の話題も同じだ。しかし、再編すれば即すべての課題が解決するわけではなく、それぞれの地域の事情を考慮することが肝要であり、「各大学が生き残り策を考えるべき」という主張は非常に共感できる。また、再編については、次の一節も印象の残った。
-今後は国公私立を交えた再編が加速しそうでしょうか?
物事には順番があって、いきなり設置形態が違う私立と公立、私立と国立の統合は難しい。まずは同じ地域内の私学同士からで、教育内容が競合しないような統廃合はやむをえないと思っている。その次は同一地域の私学と公立で、最終的には国立との統合という思い切った判断になることも否定しない。
まさに、今日の医療機関の再編の話題や、地域医療連携推進法人の議論と似ている。国立は最後という主張は、国立=特別・聖域のように感じられ、正直あまり共感できないが、同じ地域の中で競合しないような統廃合がやむをえないという点は共感できる。

さらに次の一節も病院と似ていると感じた。
各大学には30年後、50年後を見据えて、世界で活躍する高度専門人材を送り出せる本当に強い大学になっていくための経営形態を考えてほしい。私学の場合、同族経営も多く、プライドだけが残っていると、残念ながら世の中から取り残されてしまう。釜ゆでのカエルのように、ぬるま湯につかっていたらいつの間にか命を落としてしまうことがないように、中期計画など計画性を持って経営判断を下す必要があるだろう。
同族経営=悪、みたいなステレオタイプ的な決め付けは良くないと思う。病院の世界では、民間病院の方が強い危機感を持って将来を見据えた取り組みをしている。むしろ、公立・公的の方がゆでがえるになりそうな印象だ。

似ている点もある一方で異なる点もありそうな大学と病院。大学は2018年問題に代表されるように、病院よりも少し早いタイミングで人口減少局面の時代に突入していく。大学がどのように課題を残り得ていくか学ぶことは、病院の将来の課題を考える上で参考になることがあるのかもしれない。

2016/07/16

お薬手帳のスマホアプリ浸透に向けた努力余地

毎回のことながら、医療関係者は診療報酬改定を細かく把握しているが、正直、一般人はまったくといっていいくらい理解していない。スタッフの素の疑問を基に、お薬手帳の診療報酬とスマホアプリの問題点を考えてみたい。

■お薬手帳の持参パターンによる分かりにくい診療報酬制度

薬局に行くと、「お薬手帳をお持ちですか?」と以前から聞かれてはいたが、
最近は、「お薬手帳をお持ちですか?」「お家にはありますか?」「作ったことがなければ、無料でお作りします。」「作ったことがあるのに持ってきていないと、持ってくるより40円位高くなってしまうので今度からお持ちくださいね。」と言われるようになった。

自己申告でいいの?

作ったことがなかったら、タダで作ってもらえるの??

そのうえに、40円支払いが安くなるの???

疑問を抱く気持ちは理解できないでもない。薬局内を見渡すと、同じような説明が繰り返されていて、多くの人はうなづいていたらしい。

そこで、次のようなウェブサイトで調べてみたとのこと。

4月から、お薬手帳を持って行った方が安くなる?~平成28年度改訂のポイント : お薬Q&A ~Fizz Drug Information~

このサイトの記事を読んで、やっと理解できた。薬局で聞いただけでは全然、伝わってこなかった。
しかも、乳幼児医療証で子供の医療費の自己負担が無料になっている人には、お金のことはあまり説明せず、以前と同じく、今度持ってきてくださいね。という感じ。
若干、本人の思い込みも感じられるが、実際自己負担の無い人への対応は、そのようなものなのかもしれない。信頼関係を築くには、丁寧かつ分かりやすい説明が必要なのではないだろうか。(フリップチャートみたいなものもありだと思う)


■お薬手帳のスマホアプリ浸透には温度差解消が不可欠なのでは


日経PC21の8月号(日経PC212016年8月号)に『薬はアプリで管理が便利』という特集が載っていた。スタッフはお薬手帳をスマホで管理しているらしいのだが、調剤薬局に行ってその話をすると、反応は冷たいらしい。

「お薬手帳、スマホで管理してるのですがその場合は?」と尋ねたら、
「ちょっと確認してきます。」と言われ、ちょっと待って返ってきた答えは、「うちは対応していないので・・。」と言って、お薬手帳にはるシールがお薬と一緒に渡された。
しかも、さらに続きがあり、
次に行った時も同じやり取りをさせられ、今度はシールなし。何で???
まだまだ、スマホでの管理は浸透していないから、「困った」というのが薬局側の正直な反応なのだろうが、せめて応対ルールだけでも決めておけばよいと思うのだが・・・。

日経PC21の記事では、使い方も丁寧に説明してあって、どのアプリにすればいいか迷ってしまう感じだが、実際に使った人が、もし自分の家の近くの薬局がこのような「冷たい対応」をされてしまったら、使うのをやめてしまうだろう。

一方で、こういった記事をきっかけに広く知れ渡ることで、対応していない薬局(応対ルールも決めていない薬局)が少なくなって、活用できる仕組みができれば、結果的に個人ベースでも薬の管理が楽になり、誤った薬の服用や無駄な残薬が減るような医療の質の向上に繋がるのではないだろうか。

2016/07/14

医療の質と安全性をオンラインで学ぶ

これ、無料でいいの!?

動画を見た瞬間の感想だ。2016年4月にスウェーデンのイエテボリで開催されたInternational Forum on Quality and Safety in Healthcareの講演がYoutubeにアップされていた。

 

これ以外にも様々な動画がアップされていて、正直、まだ見きれていない。上のヴァージニアメイソン病院のCEOの話は、昨年、一昨年と福岡の飯塚病院が開催したセミナーで聞いた内容も多いが、それが無料で公開されている。もちろん、リアルタイムで話が聞け、質疑応答などで理解の深まるセミナー参加は、値段以上の価値がある。その参加の価値には及ばないものの、このような公開は非常に価値があるだろう。

来月下旬のシンガポールのカンファレンスの宣伝目的もあるのかもしれないが、取りあえず、見ておいて損はないだろう。

余談だが、イエテボリは、人生最初の海外旅行の途中で国境をまたぐフェリーに乗った思い出の地だ。ろくに英語もできないのに勢いだけで船に乗り、両替のたびに手数料でお金が減っていたことが懐かしい。

2016/07/13

明日、中継ぎとして登板します(医用工学研究所のセミナー)

明日は医用工学研究所のセミナーで話をさせて頂く予定なのだが、先発と抑えにいいピッチャーが揃っているだけに、中継ぎの自分が試合を壊さないように注意したい。

データから見えてくる病院経営~地域医療構想~セミナー@東京 | 株式会社医用工学研究所

ちなみに、医用工学研究所では、「現在、業務拡大に伴い、導入・構築職(導入SE)を広く募集しています。特に、東京営業所所属をご希望の方、歓迎致します。積極的なご応募をお待ちしております。」とのこと。おそらく一番の要となるであろう導入・構築職を募集しているそうだ。

株式会社医用工学研究所 – 医療用データウェアハウスCLISTA! -

システム関係の仕事を経験してきた人が、医療の世界に興味を持っているような場合、医用工学研究所は幅広い医療の世界に触れることができる環境のように思う。特定の業務しかない扱っていない会社・システムで医療の世界を理解しようとすると、どうしても知識の獲得や興味の範囲が限られてしまう。もちろん、本人の努力次第でそれを超えることも可能だが、環境の違いによる理解の幅の差異は少なく無いだろう。そういった観点から、医用工学研究所は魅力的な環境であるように思う。


本題に戻すと、今週はセミナーや研修が多く肩は十分温められているはずなので、中継ぎとしてベストを尽くしたい。(ご来場、お待ちしております)

2016/07/12

都心回帰現象が引き起こすベッドタウンの医療・介護崩壊の可能性


関東信越厚生局管内の高齢化の状況と施設基準等から見た医療資源の把握
関東信越厚生局 地域包括ケア推進課
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/houkatsu/documents/kannainozyoukyou3.pdf

突然プライベートな話になるが、自分と親たちは関東信越厚生局管内に住んでおり、下の分類で言うところの大都市型・地方都市型・過疎地域型のすべてをカバーできている。親の住んでいる「過疎地域型」の二次医療圏は、この資料の中で、85歳以上人口があまり増えないエリアとして名前が載っている。この分類自体は高橋泰先生が以前報告されていた内容なので、目新しさはないものの、この後に続く資料で、埼玉県の県南部や神奈川県の県央部で85歳以上人口が大幅に増えることが示されている点が非常に興味深い(東京の中心部ではなく、その周辺都市なのだ)


ちょうど先週、とある地域の高齢化の推移について、数字から読み取ることが難しい内容の説明をしていた。これは東京周辺の町が、どのような開発を行い、どのタイミングでどのような年齢層が住んだか、そして、元々の住民のボリュームと流入者のボリュームの比率によって、高齢化の進展が変わってくることを理解しなければ、高齢化の影響は見えてこないと考えている。

・・・というややこしい話はさておき、この資料、見ているだけでも十分興味深く、色々な示唆に富んでいる。

まとめに書かれている内容で、個人的に気になる点を整理すると次の3点になった。

  • 要介護認定率が高くなる85歳以上の高齢者人口が20年間で3倍以上となる二次医療圏が8医療圏
  • 若年人口が大幅に減少する中でいかに介護サービスの担い手を確保するかが課題
  • 地域により人口動態が大きく異なるため、2025年のみならず、2035年も見据えた医療介護基盤の整備検討が必要

おそらく東京に一極集中化し集まってくる若者は、今後、これまで以上に医療・介護の担い手となる必要が生じるだろう。その現実に直面したとき、若者たちは東京に残るだろうか。(どうせ地方に帰っても、そこも医療・介護の働き口しかないという現実が待ち受けている気もするが) 東京に流入してくる人口が減れば、家賃などの問題でその周辺都市に住んでいた若者は都心に近づくだろう。(大学の都心部回帰現象と似た話)。そのとき、周辺都市が加速度的に高齢が進む。つまり、上記で指摘している問題は、もっと深刻なことなのではないだろうか。

2016/07/11

医療制度の歪みが生み出す無駄な作業

土曜日はMMオフィス工藤氏とメデュアクト流石氏のセミナーを聞きに新橋へ。

2016年度診療報酬改定の『薬剤関連点数変更』に対する医療機関の対応とデータ分析 セミナー

薬剤師の病棟配置に対する考え方や、DPC病院における持参薬の制度における現場の影響など、かなり貴重な話を聞くことができた。

医療制度の設計上のゆがみというか、ひずみというか、表現は難しいのだが、ある病院では、持参薬を使わない対応のために、患者が持参した一包化された薬を、一度、封を開け、飲める薬と飲めない薬に分け、一部を院内処方した薬と入れ替え、また一包化しているらしい。

一包化自体が涙ぐましい仕事の上になりたっており、しかも診療報酬も発生している(つまりは患者負担が生じている)。

薬剤師の涙ぐましい仕事 - 医療、福祉に貢献するために

それを、DPC制度上の問題で、薬剤師が、その一包化を開け、入れなおすという究極的に無駄のある作業を、かつ、間違いの生じる可能性が高い作業(確かに、この点は非常に重要!!と感じた)をしなければならない。

流石氏は、『薬剤師が穴を掘り、自分で穴を埋めているようなものだ』と言っていたが、医療制度上の問題を整理するために、薬剤師にこんな作業をさせたかったのだろうか。

DPC制度における包括払い制度は、そもそも基礎疾患の有無などで、病院側に多少損得が生じてしまうのは致し方ないことである。であるならば、持参薬に関するルールは、もう少し広い視野で捉え、考えるべきなのではないだろうか。個人的には、持参薬OK、その分DPCの点数は下がる、というので良いと思うのだが・・・。持参薬の問題は、DPC制度を厳密に設計したい、調査したい、という意欲が前面に出すぎていて、現場がないがしろにされているように思う。

工藤氏、流石氏の話は大変面白く、勉強になった。


ちなみにDPC病院の持参薬の経緯とは・・・

2016/07/08

出生率と医療・福祉の関係

一昨日にCBnewsに掲載いただいた記事(データに基づく病院経営判断の重要性 | 医療経営CBnewsマネジメント)。
今回のボツにしたグラフは、合計特殊出生率と「医療、福祉」に就業している割合のグラフ。
記事の趣旨にそぐわないので載せなかったが、これらの関係性は興味深い。


出所:  人口動態調査(2014)、国勢調査(2015)