2022/11/12

クリニカルパス学会、シンポジウムのお手伝いを

昨日、今日、クリニカルパス学会に。

しかも、自分のような未熟者に、シンポジウムを割り当てていただき・・・。

シンポジウム | 第22回日本クリニカルパス学会学術集会【2022年11月11・12日】

プログラム委員のみなさまの企画力・行動力に圧倒され、ただただ、自分の至らなさを痛感する1年。

そして、その企画力などの答え合わせをするかの如く、シンポジウムやパネルディスカッションでの盛り上がりを見て、本当に勉強になりました!という気持ちがあふれた。

また病院経営をテーマにしたシンポジウムは、座長の自分の未熟さはさておき、それぞれの発表者が非常に素晴らしい発表をしてくださった。本当にどれも素晴らしかった(この演題を選んだ自分を褒めていいと思う)。

クリニカルパスの取り組みを推進していく上で、黒字・赤字だけをアウトカムにすることは絶対にない。ただ、経営的な視点を持つことは重要で、どういった切り口で、どういった取り組みをすればよいか。その観点で、最初の2演題は非常に示唆に富む、発表をいただいた。このような試行錯誤を、過去に通過してしまった達人たちにとっては、新規性に乏しいところもあっただろう。しかし、昨年のクリニカルパス学会で、ある施設の方の発表を聞いて、こういった演題の重要性を認識し、採択させていただいた。その目論見通り、大変勇気をもらえる内容だった。

そして、次の2演題は、クリニカルパスと経営を強く意識すると、行き着くゴールを見せてくれるようなものに。診療報酬の制度は2年に一度変わり、病院経営環境はコロナに代表されるように水物である。パスをどうしたらよいか考える上で「経営」は絶対に無視できないことを認識させてくれる(これが3題目)。ただ一方で、行き着く先が診療報酬制度の矛盾であったりもする(これが4題目)。標準化を図り、医療従事者・患者が望む方向性を突き詰めた結果、経営的なメリットがあまりないどころか、むしろデメリットがある、と分かった場合、どうしたらよいのか。これはあまりにも非情だが、診療報酬制度は完璧でない。ただ、このような矛盾を解消するには、パスの力が活かせるのではと信じている。

具体的には次の2つ。

・在院日数短縮を目指すことが困難なもの、もしくは在院日数短縮が患者のアウトカムを著しく悪化させるケース(周産期、小児医療で散見される。切迫早産などはその代表的な疾患)

・リスクに対し医療資源を投入した方がアウトカムが良くなると分かっているものの、リスクが低いケース(DPC環境下、予防的投与は最小限に抑えたい。検査・画像も抑えたい。もしイベントが発生すれば、別のDPCコードになって経営的には損をしないが、予防的投与や検査・画像は持ち出し)

1点目は、CBnewsの記事などでも書いてきているが、効率的な病床利用を目指すなら効率性係数の評価を高めることは重要なのは間違いない。ただ、短くすることでデメリットが生じるような疾患は、効率性係数の計算から除外する、DPCの階段状の点数制度を見直すなど、抜本的な見直しが必要だと考えている。今回のパス学会でも、いくつかそのような矛盾をつくような発表があった(病院経営のシンポジウムの4題目も、大局的な視点、患者に寄り添う視点のバランス感覚の素晴らしい内容だった)。

2点目は、DPC対応と称して、医療資源投入量を抑える取り組みを推進することは重要だが、リスクを減らすための資源投入はもっと評価されるべきだと思っている。今回のパス学会でも、ポスター等でも医師の判断で患者により実施・不実施だったエコーをパスに組み込みリスク低減・標準化を図るケースが報告されていた。

以下は個人的な考えである。

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新規薬剤を保険収載する際、費用対効果を参考にする取り組みなどが始まっている。このときは、ある薬剤が1万円の価値が妥当かどうか、アウトカムなどを考慮し、比較検討される。

しかし、保険収載されてしまうと、あるパスの中でその薬剤を使う価値があるかないか判断するのは、各病院の中での経済合理性になってしまう。黒字・赤字スレスレのパスなら、そのような追加の薬剤投与には慎重になる。1万円の薬剤は1万円の価値があるかどうかではなく、いかにコストを抑えられるか、抑えられないか、に変わっている。そして、皆が追加コスト投入を避け、1万円支出を抑えたDPCコードは、改定時に、1万円のコストを含まない点数で設計されてしまう。ますます各病院はこの薬剤の投与に慎重になるだろう。

つまり、医療従事者・患者が納得する「医療」よりも、医療従事者が妥協したコストを抑えた「医療」が選択される。個人的には、これは望んでいない医療である。

アウトカムのために無尽蔵に医療費をかけて良いとはもちろん思わない。ただ、どこまでコストをかけるべきかの議論が欠けたまま、コストを抑える方向ばかりに突き進みやすい現状に疑問を感じている。

これに対する答えは、クリニカルパスにある。エコーの例に代表されるように、病院で標準化したパスが、国内で標準化され(実質、ガイドラインのようなものか)、その医療資源投入量に応じた点数設定がされるべきである。成熟したDPC制度下において、無駄・ムラを減らすのはこれまで同様に重要である。しかし、それにもまして、価値ある医療資源投入を評価する仕組みを作らなければ、リスクを過小評価することにつながりかねない。

漫然とした(標準化されておらず、価値のあいまいな)医療資源投入は認めなくない。だからこそ、クリニカルパスなのだ。

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そして、5題目、6題目は、事務職員を巻き込んだ取り組み、多職種で構成した在宅療養支援チームの取り組みを。どうやって多職種を巻き込んでいくか。これは今回の学会のテーマであるダイバーシティを強く意識したもの。事務職員やチーム医療が経営に貢献している実感を得るには、クリニカルパスが大いに貢献するのではと思っていたところに、的確に応えてくださった。事務職員はもっと活躍できる。そのプロフェッショナリズムは、他職種から、もっと認められていい。ただ、そのプロフェッショナリズムが見える形になるともっとよい。「算定件数が増えました!」「 収入が増えました!」もいい。アウトカムの視点もあるともっといい。提案できるとさらにいい。「収入増やせますよ」「アウトカム良くなりませんか?」 そういった観点でパスは貢献し易い。また、チーム医療もそうだ。アウトカム重視で動くと、コストの視点が欠けたりする。どういったことに価値が波及するか。俯瞰することが重要である。

5題目、6題目は、勝手にそんなことを期待して発表を拝聴したが、期待をはるかに上回る、大変勉強になる内容だった。むしろ、こちらの理解不足で、頓珍漢な質問をしてしまって、反省している。

今回の学会では、クライアント病院やデータ分析をお手伝いしている病院の発表も聴くことができた。あらためて、すごい病院・すごい方々だなと実感した。お互いに切磋琢磨・・・などという甘えた考えは一切通用しない世界なので、ただただ精進するのみだ。

本当に素晴らしい学会を運営くださった松波総合病院のみなさまに感謝、そして、わざわざシンポジウムを聴きに来てくださったみなさまに感謝。