2013/02/26

「病院の外来」と「クリニックの外来」

お腹が痛い、頭が痛い、熱がある、風邪をひいた・・・くらいでは、その程度にもよるが、普通は近所のクリニックに行く人が大半なはずである。そこで見てもらって、何か問題がありそうなときは、そこで病院を紹介してもらって、病院に行く、という流れが一般的だ。ただ、大病を患ったあとなどの定期的なフォローを始めとした、とりあえず、病院に行くというような「主治医が病院にいる」状態の人も少なからずいる。こういった行動に制限のない日本の皆保険・フリーアクセスは本当に良い制度だ。しかし、社会保障費の財源が非常に厳しい、医師が不足しているといったことを考えると、諸手を挙げて喜べる話ではない。

現在、厚生労働省の議論でも、病院の外来をどう制限していこうか、クリニックにどう誘導していこうか、検討がなされている。
出所: 厚生労働省 中医協 資料

上記の資料、病院については「専門的な診療」「専門外来の確保」「一般外来の縮小」と書かれている。しかしこれは、今でも専門的な診療をしているのでは??と思う人が多いような気がする。そこで、日本の現状を捉えるとあまりに曖昧なため、アメリカの事例を考えてみたい。

Hospital Outpatient Prospective Payment System(Hospital Outpatient PPS / 病院外来包括払い制度)に見るアメリカの病院外来医療

アメリカのメディケアにおけるHospital Outpatient PPS制度は、日本の将来、方向性に示唆を与えているように思う。病院での外来機能は、診療内容に応じた包括払いとなっている制度で、診療内容を見ると、日本でいうところの短期入院のような診療、治療内容が並んでいる。
APC(Ambulatory Payment Classification / 外来支払疾患分類)のリストで、その内容を見ると、日本ではほとんど外来で実施されていないようなペースメーカーの植込み・交換や乳がんの手術なども載っている。

2013 OPPC APC Offset fileからの抜粋
つまり、病院外来包括払い制度から見えてくるのは、急性期病院の外来機能というのは、高度な治療や診断が必要な症例がメインになり、医師も大半の時間を、そのために費やすようになるイメージである。しかし、日本においては、大病院であっても、外来の来院患者数が非常に多く、診察は数分で終わったりする患者もいるように、まだ、そのイメージとは程遠い。

■日本での病院外来機能の抑制策① 診療報酬のdisincentives(減額・ペナルティ)

急性期病院・大病院の外来を減らすために、例えば、紹介状なしの患者が多い病院や、入院しない患者が多い病院、医療資源をあまり投入していない患者が多い病院に対し、何かしらのペナルティを課してくる可能性は考えられないだろうか。
外来患者が多い=入院患者に対する診療・治療時間が十分に取れていない可能性がある、という論理により、ペナルティとして入院料の減額は有効な策ではないだろうか。かつて、外来の診察料を変え、患者誘導に失敗した経緯を踏まえると、入院料に対するペナルティは、大義名分も分かりやすく、受け入れやすいように思う。


■日本での病院外来機能の抑制策② 包括払い制度の拡充

外来が包括払いになることで、病院側は早くクリニックに返すことに対しインセンティブが生じる。例えばだが、外科系の手術後のフォローは「包括で10,000円まで」となってしまったら、どうだろうか。2回来院しようが、3回来院しようが包括と言われたら、地域のクリニックに早めに連携しないだろうか。もちろん、それだけの制度にしてしまうと、無責任に放り投げてしまうので、再入院などのペナルティも併せて評価する仕組みとして、である。そして、クリニックの外来は、無理に包括払いにする必要はない。これまで同様、糖尿病などの管理料として包括されるものがあれば良いと思う。また、クリニックで診るべきような患者は、病院ではほとんど評価されず報酬が得られないようにしておいてはどうだろうか。
すなわち、病院とクリニックの外来というのは、そもそも別物であり、診療報酬もまったく別に設計すべきである。(地域的な問題で、医療資源が非常に限られている地域など、例外もあって良いと思う)

■病院外来の評価 ~包括払いで必要不可欠な仕組み~

包括払い化を進めていく上では、努力している病院を評価し、そうでないところと差別化を図っていくことが重要である。アメリカでは、Hospital Outpatient Quality Data Reporting Program(HOP QDRP / 病院外来クオリティデータ報告プログラム)として、制度化されている。外来の質を図る項目が定義され、それを報告する仕組みが出来上がっている。包括払いにおいて、こういった仕組みは、支払いの納得性を高め、かつ、医療の質を向上させるために、必要不可欠である。QualityNetというサイトでは、ベンチマークした結果なども公開されている。

■制度がどう変わるか、将来を見据えた取り組みの重要性

ここまでの内容で見えてくることは、急性期の病院・大病院は、外来機能の見直しを図り、医療の質を公開できるよう準備をしておくということである。地域のクリニックに患者を返さず、抱えているような病院は時代の変化で弱体化する。病院が提供する外来機能が高度な検査や治療、診療にシフトすることを見据え、徐々にそういった機能を強化していく以外に活路はない。そして、情報開示を進め、医療の質の向上により、他と差別化を図ることは、益々重要になってくるだろう。
また、患者側も、このような流れを理解した上で、かかりつけ医の重要性を認識し、そして、急性期病院・大病院での外来受診を控えるような努力をすることが大事ではないだろうか。また、情報開示に積極的な病院を選ぶ、という行動も、医療の質向上に寄与するはずである。

厚労省の外来の機能分化の議論は、現状の制度を出発点にしており、現状の医療システムへの影響を抑えようとするあまり、大胆な制度・仕組みは検討されていないようだ。ぜひ、日本に住み続けたくなるような、30年後・50年後に日本の医療を世界に誇ることができるような、よい制度を目指して議論が展開されて欲しい。

※アメリカの制度に関する日本語訳はニュアンスを伝えることが目的であり、弊社独自の解釈・用語のため、一般的でない可能性がある点はご了承いただきたい

2013/02/24

採血室にネクストバッターズサークル

先日訪れた病院で見た光景。採血室にネクストバッターズサークル。

Kenji Johjima - Seattle Mariners
Source: flickr
本当にサークルがあったわけではなく、採血室にある待合用の長椅子のうち、前列2つが赤い長椅子、それ以外は白になっていた。採血室に入ってきたら、まず白い椅子に座って待つらしいのだが、モニタ(電光掲示板)に、自分の番号が表示されたら、赤い椅子に。そして、赤い椅子に座っていると、採血ブースから呼び出しがかかるとのこと。

他の病院で良く見かけるのは、採血ブースの上に呼び出し番号が表示されていて、それと自分の番号を見比べながら、そろそろ呼ばれるかなぁと段々心の準備をする「銀行タイプ」 採血に限らず、病院では、この形式が多くなった。以前は名前を呼び出す館内放送がガンガン流れていたものだが、めっきり聞かなくなった。

この銀行タイプ、実は欠点があって、「167番の方、4番の採血カウンターへどうぞ」とアナウンスが流れると、はいっ!!と勢いよく席に座ってくださる人は少なく、呼ばれて立ち上がるまでにちょっと時間がかかり、そして、狭い待合室の中を「ちょっとすいませんね、通りますね」と出てくる人が多かったりする。しかも、採血カウンターに座って、ようやく上着を脱ぎはじめ、脱いでいる途中に杖が倒れたり、カバンが落ちたり、はたまた診察券の類が落ちたり、まぁぱぱっと採血が始まる人は本当にごくまれだったりするようなのだ。

そこで、導入された、この病院のネクストバッターズサークル方式。白い椅子に座るところまでは「銀行タイプ」と一緒。そして、順番が近づいてくると、まず、赤い椅子への誘導がアナウンス・表示される。赤い椅子には「上着を脱いで、腕を捲くっておいてください」と書かれている。まさにネクストバッターズサークルばりに、前のバッターがいつ終わってもいいように素振りでもして待っててください、と言われているかのようだ。カウンターの目の前に並んでいる赤い椅子に座った人は、みないよいよだ、と腰を浮かせて待っている・・・ということはさすがにないものの、準備万端である。あとはカウンターに呼ばれ、採血とそのあとの流れは同じである。
この方式、素晴らしい!! よく出来た仕組みである。病院の外来でも、中待合を作ったり、同じような仕組みは見かけるのだが、採血室で、長椅子の色を変えているのは珍しいのではないだろうか。

こういった病院側の日々の努力には頭が下がる。ただどこの病院にいっても、このネクストバッターズサークルの仕組みがあるわけではないが、患者の気持ち一つで改善できることもある。採血を待っている間も、そろそろと思ったら、コートや上着を脱いで、片腕まくっておくくらいの努力はしても良いのかもしれない。もしくは通路を通りやすく、足を引っ込めておくくらいしても良いのかもしれない。病院の待ち時間、長い長いと文句をいいたくなるときもあるが、患者側の努力で、改善できることもある。病院には、よい病院の仕組みを積極的に真似てもらい、そして、患者もできることからコツコツと努力したいものだ。

2013/02/23

東京医大茨城センターの不正請求と保険医療機関の取り消し・再指定について

先日、東京医大茨城センター、保険医療機関の再指定が決まった模様だ。(m3のニュースより

一連のこの話、一体、誰にとって、どんなメリットがあったのだろうか。不正請求に対する厳罰は、保険医療機関取り消ししかなかったのだろうか。



現在、健康保険法等に基づく監査後の行政上の措置としては、保険医療機関、保険医の「取消」「戒告」「注意」があり、取消が最も厳しい処分であるのが実態だ。ただ、この処罰、いずれもあくまでも行政側の都合であり、あまりにもデキの悪い処罰である。取消が決まってから、連日、新聞やニュース、インターネットで話題になったことからも分かるように、取り消されてしまうと、その地域住民に対して、多大な影響が出てしまう。地域の医療は絶妙なバランスの上に成り立っている。この事例だけでなく、全国各地の病院で、「医師不足から産科を休診します」「救急の受け入れ、制限します」など、ニュースが流れる裏では、その患者をどこか他の病院が受け入れているという事実がある。今回であれば、病床規模や医師数から判断するに、相当多くの患者が影響を受けたことは想像に難くない。

国民皆保険の根幹を揺るがす不正請求に対し、厳罰に処したい行政側の心情も理解できなくはないが、地域住民に対する影響があまり出ないように配慮した処罰を考えられないものだろうか。そこで簡単なスキームを提案したい。

提案

新しい処罰:「医療機関は金銭的なマイナスを負い、地域医療への奉仕する」

処罰内容
  • 初診料、再診料、入院料の病院収入に対する減額
    • 診療報酬点数の請求額に対し、5~20%を国へ納める(患者負担は変わらず)
    • 不正請求の内容に応じた処罰の重さは、減額のパーセンテージと、その処罰期間の長さで調整する
    • 減額によって得られた請求の一部は、他保険医療機関で発覚した不正請求に対する患者、保険者への保障に充てる




    地域のバランスを保つことは、何よりも重要であり、医療というものが社会的インフラであることを、行政側も認識を強くし、処罰のあり方を考えなおしてもらいたい。現状、不正請求に対する処罰が厳密に法整備なされていないことも問題であると思う。取消後、再指定までは原則5年かかるという慣例も、そもそも意味をなさなくなっている。そういった意味でも、形骸化した処罰ではなく、きっちり法の下で、患者、地域住民にとってデメリットが生じないような処罰を整備してもらいたい。

    2013/02/22

    花粉症対策 よもやま話

    花粉症、どうやら関東はピークが来たようだ。自社で調査しているマスク着用者も今までに見たことのない数値が連発していて、インフルエンザでマスクが急増したときと、まったく違う勢いを感じる。

    ピークが来て、どういった対策をすればよいか。患者は頭を悩ませているようだ。

    昨日のYahoo!のニュースにも、「すりつぶしたいちご」のネタが半年ぶりくらいに引っ張りだされていた。これ、1日20個1週間以上食べ続ける・・・という何ともリッチな対処方法であるが、いちご好きの自分としては、頑張れる気がする。

    さて、このいちごに限らず、花粉症には、様々な対策がある。正攻法である医者に行き、治療、薬を処方してもらうものから、はたまた、怪しい民間療法や、これはもはや治療とは呼べないのでは、というような取り組みまで、様々である。どれが効くというのは、正直、怪しいものも多い。
    1. 手術療法(レーザー治療が有名)
    2. 減感作療法
    3. 薬物療法
      • 処方薬
      • 市販薬
    4. 民間療法
      • 食べ物
      • 飲み物
    5. 花粉から回避・逃避
      • 防御(マスク、メガネ等)
      • 洗浄(目薬、鼻洗い等)
      • 逃避(転居、旅行等)
    民間療法では、上述のいちごや、一時ブームになった甜茶や、べにふうきといった飲み物、ヨーグルトなどの食べ物など、様々あり、手軽ゆえ、チャレンジしている人が多いようだ。

    花粉症、マスクをはじめとして、様々な産業に経済効果がある、なんてプラスに捉えることもできなくもないが、患者の苦痛や就労機会の逸失による損害、医療費の増大など、マイナス面も無視できない。厚生労働省も、花粉症は国家的な対策が必要と思っているのか、様々な調査、取り組みを行なっている(詳しくはこちら)。それを見ると、民間療法についても触れているので、のちほど、取り上げてみたい。

    2013/02/21

    病院ランキング本はこう読め!

    本を買うときは、大抵、家族から「図書館で借りれば良い本じゃない?」「置く場所は限られている」「今月は買いすぎ」と口を酸っぱくして言われる。確かに、しょっちゅうくだらない本を買うし、一度読むどころか部屋に積まれている本さえある。

    ただ、今週は違う! 家族が実家に帰ってしまったので、本を買っても何も言われないのをいいことに、本屋で買い、ネットでポチッと押し、気がつけば、実家から戻ってきたら、即バレてしまうくらい買ってしまった。ちなみに時代は変わったもので、電子書籍で買ったものもあり、おそらくこれはバレないはずだ・・・。

    そんなことはさておき、買った本の中には、こんな本もある。

    病院の実力 2013 総合編 (YOMIURI SPECIAL 73)
    渡辺徹が表紙にあったから、つい手にとってしまった、というのは半分冗談で半分本当。(渡辺徹とは名前と体型で何となく縁を感じる)

    読売新聞の「病院の実力」。世間一般がどういう情報を欲しているのか、マスメディアがどういう情報を流したいのか、その時々の世相を反映していると思い、定期的に買っている本の一つだ。

    表紙には、5大がんに次いで、「心臓の病気・血管の病気」と来て、「目の病気」かと思ったら、『眼科』と来た。統一性のない言葉選びに、若干、週刊誌的な要素を感じる。

    なお、表紙の左上には、「ランキングではわからない! 病院選びの決定版」とある。これもランキング本ではないのか??と思うところだが、読売のこの本はランキングでないことを昔から主張している(手術件数が多い順に並んでいるので、ランキング本と捉えている人が大半だと思うのだが)。この主張は、週刊朝日の「病院ランキング」や日経の「病院ランキング(最近は「日経実力病院調査」と呼ばれているか)との意識的な差別化と、病院のランキング化に対する批判だと思われる。



    ■ランキング本はこう読め ①リストに網羅性がない

    (読売新聞は自分たちはランキング本でないと主張しているので、その点は、私の勝手な解釈だが)この本を含めた世の中のランキング本を読むときに、まず注意しなければならないのは、そのリストに出てくる対象が何か、ということである。読売の本であれば、これはアンケートを元にリストを作っているので、回答しなかった病院は漏れているのだ。たとえるならば、マラソンランキングでアフリカ大陸が全部漏れている・・・とまでは言わないものの、エース級の病院がぽろぽろ漏れていることは間違いない。

    本に書かれている大腸がんを例に挙げれば、「学会認定施設、がん診療連携拠点病院など1,718施設にアンケート実施し、640施設から回答があった」とのこと。回答率は5割にも満たないのだ。

    そのことを踏まえると、病院リストは参考になるものの、これから自分が病気でかかろうとしている病院の名前がリストに無くても不安になる必要はない

    また、DPCデータ(入院料包括払い制度の病院が提出するデータ)を元にランキングを作っているケースも見受けられるが、これはこれで、DPC病院の網羅性は担保されていても、制度に参加していない病院や、クリニックは載っていないため、注意が必要である。

    ■ランキング本はこう読め ②手術方法の選択は何がベストか一概に言えない

    「腹腔鏡手術は患者の負担を軽減できる」、「PPG(幽門保存胃切除術)は機能を温存できる」などのコメントが付され、件数が並んでいる。一見、腹腔鏡手術やPPGの件数が多い病院が良いように思えてしまう。ただ、これらの術式の選択は、医者の腕・経験の有無だけではなく、患者の病気の状態に大きく左右される。がんであれば、進行したがんが多く集まる病院と、早期のがんが多く集まる病院では、当然のことながら、術式の選択に大きな違いが生じる。しかし、この数値だけを見て、どっちがよいか判断することは極めて難しい。

    ただ、まったく参考にならないものか、というと、そんなこともない。極端に腹腔鏡手術が少ない病院、もしくは逆の病院は、その病院・医者のポリシーで腹腔鏡を使う、使わないといったことがある。患者が腹腔鏡手術と開腹手術、どっちがよいか迷っていても、そのような極端な病院に行ってしまったら、医師に聞くまでもなく、開腹になってしまう(もしくはその逆)可能性が高い。

    医師は常に患者ひとりひとりにベストな方法を考え治療してくれる、とは言っても、様々な事情があり、術式選択ひとつとっても、バラバラであるということが分かる。患者側では、その病院ごとの背景を正確に把握することはできなくても、他と違う病院である(極端に腹腔鏡が多い病院、少ない病院、などなど)ということが分かるのは大きな情報ではないだろうか。

    ■ランキング本はこう読め ③広告か否か

    新聞でも雑誌でも、そうなのだが、ぱっと見、取材を受け、記事で取り上げられているかのようなページが多く見られる。そういったものの大半は、ページの下に■ADと書かれている。これは広告であるということ。病院がさも実力があり、良い病院のような記事になっているが、単に広告料を払った病院であるということでしかない。

    広告を広告として読めない人が多いのか、はたまた純粋に取材形式の広告は宣伝効果が高いのか、どちらなのか分からないが、毎年結構な広告が出ていることを考えると、それなりに効果はあるのかもしれない。


    ■ランキング本はこう読め ④賢く使え

    この3点を注意し、病気の治療方法や、地域での実績のある病院を把握する分には、よい本であるように思う(680円の価値があるかどうかは、インターネット上に情報があふれているので、微妙かもしれないが、整理された情報であることに、多少なりとも価値はあるように思う)。

    この手のランキング本から得られる情報は、盲目的に過信せず(多少疑った目で見ながら)、自分がより賢くなるツールとして、利用するのが最もよい活用方法だと思う。

    ちなみに、読売の本で気になった点がひとつ。心臓弁膜症のデータ。昭和大学藤が丘病院は26人手術して、21人亡くなられているようだ。本当だろうか?? 弁膜症の手術は難易度が高く、死のリスクは多少なりともある。しかし、他の病院ではおおよそ1割程度の死亡率になっている。8割以上が亡くなるというのは、異常としか思えないのだが・・・(問い合わせてみようかな)

    ※2013/02/26補足
    昭和大学藤が丘病院の件、読売担当者より連絡があり、病院の回答が誤りだったらしく、21名死亡→1名死亡、だそうな。良かった。

    2013/02/18

    DPC、気になるのは「機能評価係数」と「コーディングマニュアル」??

    ブログでは、あまりDPCの話題に触れない(触れたくない)のだが、なぜか「機能評価係数」や「コーディングマニュアル」というキーワードで検索され、このブログにたどり着いていることが多い(医療者など病院関係者か)。ちなみに、それ以外では、活動量計でたどり着く人も多い(これは一般の人か)。

    ここ最近は、機能評価係数Ⅱの内示があったからだろうか。おそらく、色々な興味が湧いているに違いない。prrism社のホームページには、今年も平成25年度機能評価係数Ⅱの内示にかかるFAQがアップされているが、さすがに去年ほどの騒ぎにはなっていないことだろう。

    機能評価係数Ⅱについては、今週のDPC評価分科会で何かしら触れられるのかもしれないが、配分が変わっていないようなので、すでに下がった・上がったで一喜一憂しているところもあると思われる。ちなみに、あくまでも相対評価なので、自分の病院が前回と同じ実績でも、今回の係数が同じになるわけではない点には、注意が必要だ。

    コーディングマニュアルは、どういったものになるか、個人的にはあまり興味が無いのだが、その先、日本の入院包括払いがどうなっていくのか、という点については、マニュアルが不要になるような制度設計になっていくように思われる(コードブックは必要だが、コツの類いや制度化できない慣習が記載されたマニュアルは不要、という意味)。その方向性としては、DPC研究班の資料が参考になる。この資料において、CCP(Comobidity Complication Procedure)マトリックスが示されている。医療資源の必要度などに応じた病院ごとのバラツキを、現行は調整係数といった病院ごとに決まった値で調整する方法は、収入が担保される病院にとっては良いかもしれないが、医療費を負担する患者個々人・保険者にとっては理解できない制度であるだけに、このマトリックスは、患者の状態に応じて、支払額を調整させることができ、納得性の高い仕組みになる可能性がある。

    少なくとも、「調整係数」で調整されている医療資源の必要度などのバラツキを、機能評価係数で評価・吸収していくことは避けてもらいたい。(それは調整係数が残ることと同義だ)

    どういった視点で医療制度を良くしていくか。今一度、患者視点で物事を考えるべきだと思う。先月、レポートとしてまとめ、発行した「患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度」。機能評価係数Ⅱが内示され、まもなく年度が変わる、このタイミングで読んでいただけると幸いである。

    レポートはこちら

    病院の透明性を高めるには

    健康になりたい、健康でありたいという欲求は、マズローの欲求段階説の中でも、食事・睡眠・排泄といった最低限の欲求の次に来るものであり、生に執着していようが、いまいが、誰しもが望むことだろう。そして、病気になったとき、健康を取り戻すために「良い病院を選びたい」と考えることは、非常に自然なことだと思う。フリーアクセス(病院が定められていない)の日本だからこそ、よりよい病院選びは、大きなテーマである。

    実は、今年になって、身近な人が3人、立て続けに急性期病院に入院した。自分がこんな仕事をしているからこそ、よい病院を選びたいという気持ちはあるものの、実のところ、あまり役に立たなかった。というのも、たまたまその人が居た場所の近所の病院に入院したり、クリニックで紹介された病院に入院したり、選択の余地が無かったのである。入院した病院、紹介された病院はいずれもとても良い病院だったと思う。あとから知ったことだが、その手術に関しては比較的多くの件数をこなしている有名なドクターであったり、偶然だが恵まれていた。

    紹介されたとき、イヤです、と言える人はどのくらいいるだろうか。おそらくだが、ほとんどの人は断れないのではないだろうか。というのも、断るだけの絶対的な理由を持ちあわせていないからだ。例えばだが、知人からランチに誘われて、四川料理と言われたら、辛いのが苦手だから断るのに対し、グルジア料理!?と言われたら、よくわからないし、断る理由もないはずだ(なんかヤダと断る人もいるかもしれないが)。日本の病院がグルジア料理、と言っているのは、グルジア料理が怪しいとかそういうわけではなく、絶対的な基準で判断できないことを指している。

    余談だが、下の写真を見ると、ヨーロッパ文化とアジア文化が融合した、美味しそうな料理だ。(突然、グルジアが思いついただけで、何の脈絡もない)
    グルジア料理 出典:http://www.latortugaviajera.com

    絶対的な情報がないことは、これまで一般市民が絶対的な情報を欲して来なかったことも大きな理由だし、医療が自由競争環境にないことも理由だ。

    いかに病院の透明性を高めるか。そんなことを考えながら読んでいた本の著者がWall Street Journalにエッセイを載せていたらしい。


    エッセイはちょっと過激な出だしだが、透明性を高める、という点について、いくつかの提案がなされているのは興味深い。また、記事には多くのコメントがついている。コメントもいくつか読んだがおもしろい。

    透明性を高めるには、何よりも、病院・医療に興味を持つことだ。今度、グルジア料理でも食べに行こうかな。

    2013/02/12

    書評: BCG流 病院経営戦略

    こういった内容を2,400円で売られてしまうと、「小手先コンサル」商売がやりにくくなる・・・、と正直、思ってしまった。病院・医療関係者は、すべての内容は鵜呑みにせず、十分に咀嚼することをオススメする。

    ■コンパクトにまとまっていて、提言が分かりやすい

    ボスコンが赤十字病院の分析をもとに、病院経営について書いているのだが、自分が前職でがむしゃらに働き、1年近くかけ日本中の病院から得たノウハウが、凝縮されているように思えた。たこつぼの指摘は、まさにそのとおり。どこの病院でも直面している課題なだけに、コンサルとして活動していたときは、指摘・提案の狙いで、価値を提供しやすい領域だった。

    ちなみに、本の帯に『「総合」病院から「尖り」のある病院へ進化を遂げよ』とあるように、病院名こそ伏せられているが徳島赤十字を絶賛する内容が続いている。日本全国にある病院が、経営・収益面でのメリットを大きな理由に徳島赤十字病院を目指すだけに十分な議論は、正直、なされていない。
    例えば、かつて「おらが町にも病院を」と自治体が設置した『ミニ』総合病院は、医師確保や、病院建替の課題に直面し、将来的にどういった病院を目指すか議論の行き着く先に、尖った病院があることは考えにくい。
    (大都市圏や県庁所在地にある赤十字病院であれば、「尖り」は良いかもしれないが。)


    ■真因が見えない提言

    この本で書いてあることは、これまで自分がコンサルとして話してきた内容と合致する内容が多く、自分も少しはマシな思考回路、分析力を持ち合わせていたのだと、正直、ほっとした。

    ただ、前職で1年近くたったときにぶつかった壁の先の議論はされていない。地域連携の提言は非常に良くまとまっているが、病院の現場では、地域連携の重要性は理解していても、なぜ連携がうまく進まないのか、その真因を理解できている病院は非常に少ない。

    実は、病院の現場では、「尖り」のある病院を目指し、他急性期病院からの風当たりをうまくかわし調和させ、連携を築いていく能力のある『人材』を育成することが、一番の問題であったりする(この本で提言していることまでは、院長や病院幹部は理解している病院が多い。肝心の地域連携室が理解していないケースはままある)。
    この人材育成には、院長のリーダーシップも不可欠であり、分析できる人材のサポートも必要であり、院内の看護師やコメディカルの理解・支援も必要である。そもそも、病院をマネジメントしていく人材というのは、どういった素養が求められ、育成するにはどうしたら良いのか、という根本的なところに、ようやく真剣に取り組めるようになってきたところも多いのではないだろうか。

    そういった意味で、クリティカルパスや地域連携、KPIの提言自体はそのとおりなのだけれど、病院が直面している、人材の不足、育成できていないという課題の「真因」には触れられていない。

    病院を「マネジメント」できる人材の育成について、組織的に真剣に取り組んでいるところは、明日、明後日では差がつかなくても、5年後、10年後に大きな差となり、そして、地域にとって必要不可欠な病院になることは間違いないだろう。


    ■高い病床利用率と短い平均在院日数は両立できるのか

    余談だが、高い病床利用率と短い平均在院日数の両立が可能という話は、賢い人の論理であり、そうでない人には理解できない。

    たとえ話だが、テスト前に、英語と数学、どちらの勉強をしたら、良い点がとれるか?という話のときに、たいていの人は、英語を勉強すれば、英語の点数があがり、数学の勉強をすれば、数学の点数があがると考える。
    一方、「賢い人」の論理は、英語も数学も勉強すれば良く、両方高得点は狙える、と。
    確かに、英語数学は独立したテストであり、両方高得点が狙えるかもしれないが、「普通の人」には、両方、勉強できる時間がないのだ。

    このトレードオフ、病院で信仰されているのは、短期的なトレードオフの成立がゆえである。もちろん、中長期的には、トレードオフが成立しない(病床利用率も高く、在院日数も短くできる)。短期的には、待ち患者(入院待ち患者、手術待ち患者、検査待ち患者)がいない限り、トレードオフの関係になってしまう。

    ただ、何はともあれ、医療関係者にはオススメの本である。(一般人、患者にはオススメしない)

    2013/02/09

    マスク、立体型は5%強

    薬局サーベイランス 東京都 日報より
    インフルエンザ、東京ではピークが過ぎ、やや落ち着いてきたようだ。その一方で、花粉は、かなり飛び始めたようで、マスクをつける人が急激に減ることはなさそうだ。

    先日のブログにて、ガーゼ型のマスクをさっぱり見かけなくなり、プリーツ型、立体型が大半を占めていることを書いた。そこで、今月の調査結果から、タイプ割合を見たのが、下のグラフである。

    プリーツ型が9割強、立体型は5%強であった。今後、花粉症シーズンが本格化すると、もう少し立体型が増えることが想定される。

    ただ、グラフツールのinfogr.amを使ってみたかっただけなのだが、今後もマスクを切り口に色々考えて行きたい。

    2013/02/06

    マスクとインフルエンザ

    インフルエンザ、どうやらピークを迎えたようだ(ピークだと信じたい)。

    ■さっぱり見かけなくなった『ガーゼマスク』

    街中を歩いていても、マスクの人がとても多い。マスクをしている人の中には、そろそろ花粉症対策の人も出始める頃かもしれないが、気になることがひとつ。マスクと言えば、子供の頃はガーゼマスク(下の写真の一番左のもの)がほとんどだったと思う。

    (左)平型マスク (中央)プリーツ型マスク (右)立体型マスク
    (社団法人 日本衛生材料工業連合会より)


    日本衛生材料工業連合会のホームページ(http://www.jhpia.or.jp/product/mask/index.html)によれば、不織布タイプの比率が高まっていて、

    「家庭用マスク」は、マスク性能を大きく左右するフィルター部分の素材により、「ガーゼタイプ」と「不織布タイプ」に2種類にわけられます。ガーゼは「家庭用マスク」として古くから使われている素材で保湿効果の面でも優れています。「医療用マスク」の素材として一般的だった不織布は、近年の花粉症流行により急激に普及。現在は、家庭用マスク総生産数の9割以上*を占めています。
    *全国マスク工業会調べ「2007 年度上半期家庭用マスク素材別生産比率」より

    とのこと。家にあるマスク、確かにほぼ不織布タイプだけになっている。また弊社の11月~1月の3ヶ月間の調査、社会人マスク着用者1,100人における割合では、ほぼ100%に近い割合で不織布タイプだった。またプリーツ型だけでなく、立体型マスクも一定割合見られたことは意外だった。花粉症の時期には、さらに立体型の割合が高くなるのではないだろうか。


    ■インフルエンザ感染者数とマスク着用者数の関係性

    インフルエンザにかかってしまったら、マスクをしたところで治るわけではないが、感染拡大を防ぐためにも、医者や薬局に行くときは、最低限のマナーとして、マスクをするべきだろう。インフルエンザの感染予防、感染拡大予防については、日経トレンディネットの記事がわかりやすく紹介していた。

    インフルエンザの流行は、Twiflu(ツイフル)や、国立感染症研究所の症候群サーベイランスなどで、いち早く情報をキャッチする試みがなされている。

    弊社でも、Twifluと似ているがTwitter等のウェブからの情報収集や、街中の定点観測をし、先行指標となるものがないか調査してきた。定点観測の1つが、同じ場所でマスク着用者数のカウントであったのだが、東京でインフルエンザが流行し出す前、気温の低下とともにマスク着用者が増えていくことを捉えていた。その後、インフルエンザの流行とともに、マスク着用者数は日に日に増え、先週ピークに達したようである。

    インフルエンザ患者動向とマスク着用者数・気象データの関係性
    (出所 インフル患者数:ORCAサーベイランス、気象データ:気象庁、マスク着用者数:弊社独自調査)

    インフルエンザなどの季節性の疾患をいち早くキャッチし、効率的に、うがい・手洗いなどの徹底を図ることで、少しでも感染を抑えることができれば・・・と願う。


    ■流行の可視化

    どの地域で流行っているのか。これはインフルエンザに限らず、感染性のものは、情報の正確性と鮮度が高ければ、非常に有益なはずだ。前述のORCAサーベイランスや、国立感染症研究所のサーベイランスも可視化に取り組んでいる。ORCAの例では、医師会単位で見ることができるようなリアルタイムマップなるものもあり、興味深い取り組みである。
    ORCAサーベイランス
    国立感染症研究所サーベイランス


    海外の事例も似ているが、アメリカのwebMDに掲載されている情報は州レベルから、ドリルダウンして、群レベルまで詳細に見ることができるようなものもある。


    このような情報の可視化は、より詳細になればなるほど、具体的な対策に結びつく可能性を秘めている。インフルエンザ等の感染症の予防対策には、ワクチン接種や日頃の健康維持も重要だが、情報の可視化も役立つに違いない。

    余談だが、マメたろうのインフルエンザ予防動画、おこさま向けですが、わかりやすくてよい。

    2013/02/05

    生殖医療に関する情報公開

    少子化が進んでいると言われているが、それは晩婚化や女性の働く環境、非正規雇用や保育所の待機児童など多くの要因が複雑に絡まっている。その要因のひとつとして「不妊」も挙げられ、生殖医療が学術的・技術的に進歩している中で、正しい情報を得ていくことは重要である。

    NHKでは、卵子の老化や、不妊の原因は女性だけでなく男性にもあるケースが多いことなどを積極的に取り上げている。

    NHK 「不妊社会」 ホームページ



    「卵子の老化」を取り上げた際の反響はかなり大きかったようだ。
    不妊・生殖医療に関する知識が不足していることも、ひとつの問題だが、それは次に挙げるような本などを読んでもらうこととして、今回は、日本とアメリカの生殖医療に関する情報公開を比較してみようと思う。


    オススメの本

    妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング (講談社プラスアルファ新書) [新書]齊藤 英和 (著), 白河 桃子 (著)

    不妊治療の情報だけでなく、妊娠の一般的な知識が得られる。女性はもちろん、男性も読む価値あり。

    その他不妊に関する本


    生殖医療の情報公開の比較は、下に続く・・・