2013/02/26

「病院の外来」と「クリニックの外来」

お腹が痛い、頭が痛い、熱がある、風邪をひいた・・・くらいでは、その程度にもよるが、普通は近所のクリニックに行く人が大半なはずである。そこで見てもらって、何か問題がありそうなときは、そこで病院を紹介してもらって、病院に行く、という流れが一般的だ。ただ、大病を患ったあとなどの定期的なフォローを始めとした、とりあえず、病院に行くというような「主治医が病院にいる」状態の人も少なからずいる。こういった行動に制限のない日本の皆保険・フリーアクセスは本当に良い制度だ。しかし、社会保障費の財源が非常に厳しい、医師が不足しているといったことを考えると、諸手を挙げて喜べる話ではない。

現在、厚生労働省の議論でも、病院の外来をどう制限していこうか、クリニックにどう誘導していこうか、検討がなされている。
出所: 厚生労働省 中医協 資料

上記の資料、病院については「専門的な診療」「専門外来の確保」「一般外来の縮小」と書かれている。しかしこれは、今でも専門的な診療をしているのでは??と思う人が多いような気がする。そこで、日本の現状を捉えるとあまりに曖昧なため、アメリカの事例を考えてみたい。

Hospital Outpatient Prospective Payment System(Hospital Outpatient PPS / 病院外来包括払い制度)に見るアメリカの病院外来医療

アメリカのメディケアにおけるHospital Outpatient PPS制度は、日本の将来、方向性に示唆を与えているように思う。病院での外来機能は、診療内容に応じた包括払いとなっている制度で、診療内容を見ると、日本でいうところの短期入院のような診療、治療内容が並んでいる。
APC(Ambulatory Payment Classification / 外来支払疾患分類)のリストで、その内容を見ると、日本ではほとんど外来で実施されていないようなペースメーカーの植込み・交換や乳がんの手術なども載っている。

2013 OPPC APC Offset fileからの抜粋
つまり、病院外来包括払い制度から見えてくるのは、急性期病院の外来機能というのは、高度な治療や診断が必要な症例がメインになり、医師も大半の時間を、そのために費やすようになるイメージである。しかし、日本においては、大病院であっても、外来の来院患者数が非常に多く、診察は数分で終わったりする患者もいるように、まだ、そのイメージとは程遠い。

■日本での病院外来機能の抑制策① 診療報酬のdisincentives(減額・ペナルティ)

急性期病院・大病院の外来を減らすために、例えば、紹介状なしの患者が多い病院や、入院しない患者が多い病院、医療資源をあまり投入していない患者が多い病院に対し、何かしらのペナルティを課してくる可能性は考えられないだろうか。
外来患者が多い=入院患者に対する診療・治療時間が十分に取れていない可能性がある、という論理により、ペナルティとして入院料の減額は有効な策ではないだろうか。かつて、外来の診察料を変え、患者誘導に失敗した経緯を踏まえると、入院料に対するペナルティは、大義名分も分かりやすく、受け入れやすいように思う。


■日本での病院外来機能の抑制策② 包括払い制度の拡充

外来が包括払いになることで、病院側は早くクリニックに返すことに対しインセンティブが生じる。例えばだが、外科系の手術後のフォローは「包括で10,000円まで」となってしまったら、どうだろうか。2回来院しようが、3回来院しようが包括と言われたら、地域のクリニックに早めに連携しないだろうか。もちろん、それだけの制度にしてしまうと、無責任に放り投げてしまうので、再入院などのペナルティも併せて評価する仕組みとして、である。そして、クリニックの外来は、無理に包括払いにする必要はない。これまで同様、糖尿病などの管理料として包括されるものがあれば良いと思う。また、クリニックで診るべきような患者は、病院ではほとんど評価されず報酬が得られないようにしておいてはどうだろうか。
すなわち、病院とクリニックの外来というのは、そもそも別物であり、診療報酬もまったく別に設計すべきである。(地域的な問題で、医療資源が非常に限られている地域など、例外もあって良いと思う)

■病院外来の評価 ~包括払いで必要不可欠な仕組み~

包括払い化を進めていく上では、努力している病院を評価し、そうでないところと差別化を図っていくことが重要である。アメリカでは、Hospital Outpatient Quality Data Reporting Program(HOP QDRP / 病院外来クオリティデータ報告プログラム)として、制度化されている。外来の質を図る項目が定義され、それを報告する仕組みが出来上がっている。包括払いにおいて、こういった仕組みは、支払いの納得性を高め、かつ、医療の質を向上させるために、必要不可欠である。QualityNetというサイトでは、ベンチマークした結果なども公開されている。

■制度がどう変わるか、将来を見据えた取り組みの重要性

ここまでの内容で見えてくることは、急性期の病院・大病院は、外来機能の見直しを図り、医療の質を公開できるよう準備をしておくということである。地域のクリニックに患者を返さず、抱えているような病院は時代の変化で弱体化する。病院が提供する外来機能が高度な検査や治療、診療にシフトすることを見据え、徐々にそういった機能を強化していく以外に活路はない。そして、情報開示を進め、医療の質の向上により、他と差別化を図ることは、益々重要になってくるだろう。
また、患者側も、このような流れを理解した上で、かかりつけ医の重要性を認識し、そして、急性期病院・大病院での外来受診を控えるような努力をすることが大事ではないだろうか。また、情報開示に積極的な病院を選ぶ、という行動も、医療の質向上に寄与するはずである。

厚労省の外来の機能分化の議論は、現状の制度を出発点にしており、現状の医療システムへの影響を抑えようとするあまり、大胆な制度・仕組みは検討されていないようだ。ぜひ、日本に住み続けたくなるような、30年後・50年後に日本の医療を世界に誇ることができるような、よい制度を目指して議論が展開されて欲しい。

※アメリカの制度に関する日本語訳はニュアンスを伝えることが目的であり、弊社独自の解釈・用語のため、一般的でない可能性がある点はご了承いただきたい