2013/02/12

書評: BCG流 病院経営戦略

こういった内容を2,400円で売られてしまうと、「小手先コンサル」商売がやりにくくなる・・・、と正直、思ってしまった。病院・医療関係者は、すべての内容は鵜呑みにせず、十分に咀嚼することをオススメする。

■コンパクトにまとまっていて、提言が分かりやすい

ボスコンが赤十字病院の分析をもとに、病院経営について書いているのだが、自分が前職でがむしゃらに働き、1年近くかけ日本中の病院から得たノウハウが、凝縮されているように思えた。たこつぼの指摘は、まさにそのとおり。どこの病院でも直面している課題なだけに、コンサルとして活動していたときは、指摘・提案の狙いで、価値を提供しやすい領域だった。

ちなみに、本の帯に『「総合」病院から「尖り」のある病院へ進化を遂げよ』とあるように、病院名こそ伏せられているが徳島赤十字を絶賛する内容が続いている。日本全国にある病院が、経営・収益面でのメリットを大きな理由に徳島赤十字病院を目指すだけに十分な議論は、正直、なされていない。
例えば、かつて「おらが町にも病院を」と自治体が設置した『ミニ』総合病院は、医師確保や、病院建替の課題に直面し、将来的にどういった病院を目指すか議論の行き着く先に、尖った病院があることは考えにくい。
(大都市圏や県庁所在地にある赤十字病院であれば、「尖り」は良いかもしれないが。)


■真因が見えない提言

この本で書いてあることは、これまで自分がコンサルとして話してきた内容と合致する内容が多く、自分も少しはマシな思考回路、分析力を持ち合わせていたのだと、正直、ほっとした。

ただ、前職で1年近くたったときにぶつかった壁の先の議論はされていない。地域連携の提言は非常に良くまとまっているが、病院の現場では、地域連携の重要性は理解していても、なぜ連携がうまく進まないのか、その真因を理解できている病院は非常に少ない。

実は、病院の現場では、「尖り」のある病院を目指し、他急性期病院からの風当たりをうまくかわし調和させ、連携を築いていく能力のある『人材』を育成することが、一番の問題であったりする(この本で提言していることまでは、院長や病院幹部は理解している病院が多い。肝心の地域連携室が理解していないケースはままある)。
この人材育成には、院長のリーダーシップも不可欠であり、分析できる人材のサポートも必要であり、院内の看護師やコメディカルの理解・支援も必要である。そもそも、病院をマネジメントしていく人材というのは、どういった素養が求められ、育成するにはどうしたら良いのか、という根本的なところに、ようやく真剣に取り組めるようになってきたところも多いのではないだろうか。

そういった意味で、クリティカルパスや地域連携、KPIの提言自体はそのとおりなのだけれど、病院が直面している、人材の不足、育成できていないという課題の「真因」には触れられていない。

病院を「マネジメント」できる人材の育成について、組織的に真剣に取り組んでいるところは、明日、明後日では差がつかなくても、5年後、10年後に大きな差となり、そして、地域にとって必要不可欠な病院になることは間違いないだろう。


■高い病床利用率と短い平均在院日数は両立できるのか

余談だが、高い病床利用率と短い平均在院日数の両立が可能という話は、賢い人の論理であり、そうでない人には理解できない。

たとえ話だが、テスト前に、英語と数学、どちらの勉強をしたら、良い点がとれるか?という話のときに、たいていの人は、英語を勉強すれば、英語の点数があがり、数学の勉強をすれば、数学の点数があがると考える。
一方、「賢い人」の論理は、英語も数学も勉強すれば良く、両方高得点は狙える、と。
確かに、英語数学は独立したテストであり、両方高得点が狙えるかもしれないが、「普通の人」には、両方、勉強できる時間がないのだ。

このトレードオフ、病院で信仰されているのは、短期的なトレードオフの成立がゆえである。もちろん、中長期的には、トレードオフが成立しない(病床利用率も高く、在院日数も短くできる)。短期的には、待ち患者(入院待ち患者、手術待ち患者、検査待ち患者)がいない限り、トレードオフの関係になってしまう。

ただ、何はともあれ、医療関係者にはオススメの本である。(一般人、患者にはオススメしない)