2014/12/03

おらが街の病院は、たまたま大病院だった

昨日の記事(「医療体制の維持」と「医療費の低さ」から興味深い町、千葉県旭市)の続き。本日は開業医と旭中央病院の両先生の話を紹介したい。

■完成された「かかりつけ大病院」

国は、医療の内容を向上・維持しつつも、医療費を抑制し、限られた医療資源を有効に使うべく、医療機能の分化を推進している。これまで、病院完結型の医療(簡単に言えば、最初から最後まで病院が面倒を見てくれるという意味)であったものから、地域完結型に移行しようとしている。

そのような中で、旭市においては、すでに旭中央病院が地域に根ざした病院完結型の医療を提供していて、地域の開業医は、旭中央病院を支える形で機能していたようだ。病院間でも競争は起きておらず、むしろ周辺市町村の医療機関が苦しくなっていく中で、旭中央病院の役割が拡大していたのだろう。

そして、旭中央病院の紹介率は40%に満たないという。これは大病院においてはかなり苦しい数値だ。本来であれば、地域の開業医と役割分担し、紹介患者だけを見るべきところなのだろうが、実態は「かかりつけ大病院」である。

選定療養費は約2,900円までアップ
旭中央病院の正面玄関で見かけた選定療養費改定のお知らせには、約2900円まで引き上げたことが書かれていた。紹介率を上げなければ、診療報酬の面で冷遇されることを考えると、病院側としては致し方ない対応だろう。

この紹介率が上がらない背景には、旭市の開業医が25名、旭中央病院には医師250名、というアンバランスさがあると思われる。外来診療を担う開業医が25名しかいないのは、旭中央病院があったから開業しづらい、外来を旭中央病院が担っている、という事情があったに違いない。これまで、そのようなことを許容していたのは、何も旭市だけではないだろう。シンポジウムを聞いていて、機能分化を進めようとしている大義は理解できるが、地域事情が許さないところもあるのだと改めて認識した。

また、旭中央病院の院長は「機能を分担する相手がいない」とおっしゃっていたのも印象的であった。今後、このような医療施設の限られた地域においては、地域医療ビジョンでの機能分化の議論も地域事情に十分な配慮があって然るべきだろう。

■患者側の「おらが街の病院」信仰

そしてシンポジウムを聞いていて感じたことが、あまりにも身近に「旭中央病院」があるために、ちょっとしたことでも旭中央病院、何かあったら当然旭中央病院、という意識だ。これは昨日今日で生まれた意識ではなく、長年、地域において貢献してきた病院だからこそ、旭中央病院が身近にあり、その病院が厚生労働省の区分で500床以上であったとしても、身近であることには変わりない。

この意識は、他の地域での大病院でも同じことが言える。病院がたくさんある地域では、このような意識はそれほどまで強くないのだが、病院が限られた地域では、無意識なまでに、何かあったら○○病院、なのだ。

最近では、紹介状持参が原則になったことで、開業医を受診した患者から「どうしても中央病院に紹介状を書いて欲しい」と言われるケースもあるという。かかりつけ医の役割としては、経過観察が必要な状況を患者に説明しても、なかなか理解してくれない患者もいるようだ。

旭市においては、大病院信仰というよりも、「おらが街の病院」信仰が、たまたま大病院であったに過ぎない。それを500床以上だから・・・という全国画一的な政策は、地域には馴染まない。

政策的な方針転換が検討されている以上、全国的に機能分化の議論が始まるはずだ。たまたま500床以上だった旭中央病院は、全国に先駆けて機能分化の問題に直面しているということだろう。全国的な議論を行う上で、この地域の課題を理解することは非常に重要なのではないだろうか。

次回は、より良い医療を受けるために患者ができることを、旭市の区会長と、千葉県保健医療担当部長の古元氏の話から考えてみたい。(続く)