2014/12/05

シビックプライドの醸成には住民の協力が重要

■医者は疲弊しきっている

会場からあがった声だった。「患者さんがより良い医療を受けるためのシンポジウム」で、地域住民が感じていたのは、旭中央病院の医師が疲弊しているという問題意識だったのだ。

医師がなぜ疲弊しているのか。・・・きっと医師が足りないからだ、と考えたのであれば、怒りの感情も理解できなくはない。

話は変わるが、自分が車を運転している時に渋滞にハマると『この渋滞は、他でもないお前の車も一因だ』という言葉を思い出す((事故渋滞のときは違うのだが)。なぜ混むか。他人事のように考えるが、そもそも自分も同じ流れに乗っているではないか。ならば、イライラしても仕方ない。渋滞の一因となってしまったことを皆に詫びるつもりで、安全運転をしよう、と言い聞かせている。

さきほどの医師が疲弊している話も、この渋滞と同じことだと思っている。医師が疲弊しているのは他でもないあなたが外来にかかっているからですよ、というシチュエーションがあるはずだ。

千葉県保健医療担当部長の古元氏は、兵庫県の柏原病院の事例を紹介していた。(柏原病院の取り組みについては、以前のブログ記事の中のリンクをどうぞ⇒リフィル処方箋は是か非か

この柏原病院の教訓から言えることは、医者が疲弊しているのを回避する術は医師を増やすだけではないということだ。つまり、まず言えることは、『医療者を疲弊させないような努力』、これがよい医療を受けるための重要なポイントである。

■シビックプライドをいかに住民起点で醸成させるか

旭中央病院に来る医師は3年程度で帰っていくらしい。これは旭中央病院だけが特別ではなく、全国どこも似た話だ。せめて残ってくれる人が少しでもいてくれれば・・・・という悩みを打ち明けてくるのは、地方の病院長であれば常識というくらい共通の悩みである。

ある病院では、地域の中核病院で勤めていた地元開業医の二代目医師が、その病院を辞め、別の地域で開業すると聞き、強いショックを受けていた。「うちを辞めるのはいずれ家を継ぐこともあるから・・・と覚悟していたが、まさか別の地域に行ってしまうとは。せめて同じ地域に残ってくれるのならば、まだ良かったのに」という言葉からは、嘆きとともに、なぜ?どうして?という疑問が強く感じられた。

そこで、その地域で提案したのが、シビックプライドの醸成、である。詳細は省くが、行政、住民を主体に、医療者に対し感謝する文化を作る具体的な提案をした。郷土愛は、その土地で生まれた人が感じる愛着のようなものだ。しかし、そこで生まれていない人はなかなか愛着がわきにくい。その概念を超える考え方がシビックプライドだ。その地域に貢献することで、住民としてのプライドが芽生えるのだ。医療者は元来シビックプライドの塊のような職種であるのにも関わらず、わずか3年で帰ることが前提となっていたり、そもそも過重労働であったり、プライドが醸成されにくい状況となってしまっている。

それを意識的に芽生えさせるには、医師に「シビックプライドを持って患者に接しろ」と命令しても意味が無い。医療を受ける患者側が感謝の気持ちを伝えるべきなのだ。

地域完結型の医療における重要なポイント2つ目は、『住民起点のシビックプライドの醸成』である。

■「医師確保費用」 選定療養費の2,900円は利用者負担、税金は地域負担

医師確保をするにはお金がかかる。大病院では紹介状がない患者ばかりを多く見ていれば、診療報酬上冷遇されてしまう。これは地域の住民が「診療報酬では冷遇されても、おらたちが選定療養費を払うから先生診てくれ」という認識を、医療者・住民ともに持つべきだ。

制度上致し方無い、なんて説明を病院がしてはいけない。選定療養費は、まさに利用者負担である。立派な医師を確保するための策として、利用者が負担する金額として、選定療養費をうまく使うのであれば、金額は地域住民が決める、といった案も良いかもしれない。

一方、行政・自治体を頼った医師確保において、ベースとなるのは税金である。税金は病院を利用する人もしない人も負担する。つまり、これは地域負担と考えることができる。

この利用者負担と地域負担。バランスを取りつつ、利用者が理解を深めることこそ、真に重要なことだ。地域完結型、重要なポイント3つ目は、『良い医療を受けるための利用者負担、地域負担の理解』である。


■まとめ

旭市のシンポジウムを聞いた。そのことで、これまで考えていた地域完結型医療を目指していく上での課題を乗り越えるための重要なポイント3つを整理した。
  1. 医療者を疲弊させないような努力
  2. 住民起点のシビックプライドの醸成
  3. 良い医療を受けるための利用者負担、地域負担の理解
医療資源が限られ、病院完結型で完成している地域であっても、医療機関同士の競争が激しい地域でも、上記3つの考え方は共通である。この3つはいずれも住民・患者が重要であり、病院任せにはできないことだ。個人的には、ある地域で提言させていただいた取り組みが実際うまく行くか検証しながら、多くの地域でお手伝いをできれば、と思っている。 (4回シリーズ、終了)


(Part.1) 「医療体制の維持」と「医療費の低さ」から興味深い町、千葉県旭市
(Part.2) おらが街の病院は、たまたま大病院だった
(Part.3) 限りある医療資源を分け合う意識の醸成には時間がかかる
(Part.4) シビックプライドの醸成には住民の協力が重要