2014/05/20

こどもの虫歯から、相関と因果を考える(第7回)

前回(第6回)は、時系列で見た時に「ひとり親世帯が増えると虫歯が減った」という分析結果と、都道府県間のばらつきを見た時に「ひとり親世帯比率が高いと虫歯が多い」という分析結果を示し、ありがちな落とし穴にはまってみた。

では、なぜ時系列で見た時に、虫歯が減っていたのだろうか。

日本口腔衛生学会の政策表明から、その検証内容のサマリーを引用する。
わが国全体におけるう蝕減少の要因 
(1)フッ化物利用による影響が強く,特にフッ化物配合歯磨剤は大きな要因である.フッ化物歯面
塗布は乳歯う蝕減少に寄与している可能性がある.フッ化物洗口は地域的には強い影響が考えられるものの全国的には普及度が低いため影響はさほど強くない.
(2)シーラントは,わが国における永久歯う蝕減少の主要な要因の一つである.
(3)砂糖摂取は明らかなう蝕のリスクファクターであるものの,わが国のう蝕減少寄与度は限定的である.
(4)哺乳は,乳歯う蝕のリスクファクターであるものの,わが国の乳歯う蝕減少への寄与度は明らかではない.
(5)歯口清掃は歯磨き回数の増加がフッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を高めた可能性がある. 
出所:政策表明 う蝕のない社会の実現に向けて 日本口腔衛生学会誌 J Dent Hlth 63(5), 2013 

つまり、フッ化物利用(特にフッ化物配合歯磨剤)、シーラント、歯磨き回数の増加、が大きな理由とある。年々、減少していたのは、ひとり親世帯の与える影響よりも、フッ化物利用等の影響の方が大きかったとかんがえるのが自然だろう。(下のグラフに、各取り組み実施率の推移を示す)


各種う蝕予防対策の実施率の推移
出所:
政策表明 う蝕のない社会の実現に向けて 日本口腔衛生学会誌 J Dent Hlth 63(5), 2013

そこで、さらに疑問が湧くはずだ。フッ化物利用、特に地域間格差の生じている塗布・洗口は、虫歯のあるものの割合の都道府県間の差異に影響を与えていないか、気になるところだ。これを検証するため、平成 16 年度厚生労働科学研究 「フッ化物応用による歯科疾患の予防技術評価に関する総合的研究」研究班の報告資料にある都道府県別のフッ素塗布事業実施の有無(市区町村割合)から、未処置歯のある者割合との関係性を見てみた。

出所: 厚生労働科学研究 地方自治体におけるフッ化物利用に関する全国実態調査報告書(平成 16 年度)文部科学省 学校保健統計調査(平成25年)を基に作成
このグラフでは、調査に回答した都道府県について、その関係性を見てみたところ、特に明確な傾向があるような結果は得られなかった。この都道府県別のフッ素塗布市区町村割合との相関を見ただけで、フッ素塗布の効果がない、と結論づけるのは乱暴過ぎる。複雑な要因が重なっている事象を1つの切り口だけで判断するのは非常に危険である。

そこで、学術的な考え方を参照すると、前述の日本口腔衛生学会の政策表明において、コクランレビュー※などを引用し、フッ化物利用の有効性について、説明がなされている。

※Marinho VC, Higgins JP, Logan S et al.: Fluoride gels for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(2):CD002280.

これらのことから、時系列的な未処置歯のある者割合の低下は、歯磨き粉・塗布・洗口等のフッ化物利用や歯磨き回数の増加などが大きく寄与していると理解できる一方で、現時点において都道府県格差が生じているのは、フッ化物利用の差異などが原因かどうかを明確にできるだけのエビデンスはなかった、と整理できよう。

では、以前のデータ分析結果から見えてきた結果は、単なる偶然だったのか、偶然を偶然にしないためには何をしたらいいのか、次回以降で整理したい。