2014/05/25

こういう本を待っていた(書評: 「抗がん剤は効かない」の罪)

売れに売れたらしい。


反論本もたくさん出た。代表的なものは買って読んだつもりだ。
 
内容はどれも理解できるのだけど、患者の「わらにもすがりたい」心境のときでは、どれを読んでも不安は解消されないのでは、というもやもやが残っていた。

で、科学的な事実を淡々と書いている本が、これだ。


『「抗がん剤は効かない」の罪』というタイトルは練りに練ったのではないだろうか。抗がん剤は、効く人もいれば、効かない人もいる。その事実を感情を込めず、客観的な事実だけを述べると、医者じゃない人は「ほとんど効かない」「大して効果はない」「たまに効く人もいるんだ」といった程度になるだろう。それをセンセーショナルに書いたのが、冒頭の近藤氏の著作であり、患者は熱狂的に支持した。

食べログの評価でいったら、☆2つみたいな抗がん剤。☆5つと付けた人1人に対し、☆1つが5人いるような状況だ。でもこれを「効かない」と言ってしまったら、もう医療の進歩はない。☆5つがいることも事実で、このベネフィットが、リスク以上に価値あるものだとしたら、抗がん剤は無駄ではない。

そして、本書の中でも触れているが、ベネフィットもリスクも、医学的な検証がなされて、保険収載されている(なお、十分検証されていないものもあり、痛烈に批判している)。とはいえ、患者個人個人の価値観は千差万別であるから、ベネフィットの捉え方もリスクの捉え方も人によって違うという前提に立ち、どのような治療をすべきか、医師と患者で考えるべきだと主張している。

正直、この本に、一般人がぐぐっと惹き付けられ、ベストセラーになる要素は少ない気がする。ただ、一番読んでもらいたい本であることは間違いない。

医療者は☆2つの抗がん剤を患者に勧めている(☆5つもいれば、☆1つもいる)。という事実を、医者も患者も理解すべきだ。でないと、近藤氏の本はバカ売れしつづけるだろう。


ちなみに、本書、ベンツのタクシーの一節は、非常に分かりやすく、奥が深い。